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アイナの日課と白髪の彼


アイナが通学を再開してから数日、休み時間に行う掃除がすっかり彼女の日課となっていた。


彼女の清掃時間に合わせてクラスメイト達はカフェテリアや中庭に移動するという、なんとも不思議な暗黙の了解が成り立ちつつあった。




そして、日が経つにつれ、アイナは掃除以外のことも頼まれるようになってきていた。


クラスメイト達とは体良く言えば『頼りにされている』、言葉を繕わなければ『使われている』といった関係性だ。

だが、本人にとってその差は微々たるものであったらしい。



「トルシュテさん、この本返しといてもらえる?」

「こ、これは…あの話題作……市場に出回っていないというのになぜこんなところに原物が……」

「読んでから返しても良いわよ。」

「承りましたっ!」

「ねぇ、カフェテリアで限定品を買っといて欲しいのだけど…ああ、お釣りはいらないわ。」

「あざますっ!」

「後で課題見せて。王宮御用達のお菓子を今度お裾分けするわ。」

「お、おお、王宮御用達ですって……私の課題なんていつでもどうぞご自由に!」


こんな調子で日々頼まれ事を貰ってくるアイナ。


ちょっとした小遣い稼ぎの気持ちで、かなり前向きに取り組んでいた。




今日もいつものように頼まれ事の一環で放課後中庭を横切るアイナ。

色々と雑用をこなす内に、ここを通るのが別棟への近道だと気付いたのだ。


片手には授業で使った魔力測定器、もう片方の手には書類の束を抱えている。どちらも別棟にある備品室に保管するものだ。


本来ならその日の日直が対応すべきことなのだが、なぜか毎日アイナがやることになっている。


ここはさすがの貴族社会、まだ学生だというのに皆飴と鞭の使い方が凄まじく上手く、アイナが断れない状況を見事に作り出し、蟻地獄と化していたのだった。




「今日はこれを仕舞えば帰れるか…」


歩きながら、やり残しは無かったかと記憶を探るアイナ。仕事は完璧に着実にやり切るという前世での癖が抜けないらしい。




「お前、馬鹿なの?」


誰もいないはずの放課後の中庭、それなのに、アイナに向かって刃のように飛んできた鋭い言葉。


誰から言われても傷つく言葉に、アイナは手にしていた書類を抱えるようにして張り裂けそうな胸を押さえた。


そのままの姿勢で声の主を探す。


ぐるりと辺りを見渡した先、校舎の壁に寄りかかって軽く目を伏せている白髪の彼がいた。



「え」


今の声って…あの人から聞こえた…?

いや、それはないでしょう。だって、あの色合いは絶対レイン・アルフォードだよ、ね??


口調も違うし、第一こんなこと彼が言うはずが………




「なにお前。馬鹿すぎて俺の言っている意味が分かんないの?」


「は………貴方だれ………た、他人の空似?それとも双子とか?」


視覚では目の前の彼がレイン・アルフォードだということを理解出来るのに、彼から発せられる言葉が信じられず聴覚で得た情報が役に立たない。


アイナは、混乱する頭でもう一度レインを見た。



「貴方、本当にあのレイン・アルフォードなの…?」


恐々と聞いていたアイナに向かって、盛大にため息を吐くレイン。


顔を上げると、これまで見たことのないほど冷たい瞳でアイナのことを見返してきた。



「何度も言わせるな。馬鹿。」


「は………」


今度こそ、アイナの頭の中で顔も声もレインの特徴と一致した。

同一人物だと理解して落ち着いたからこそ、真っ先に一つの疑問が浮かんだ。



「ねぇ、レイン・アルフォード。私のどこが馬鹿だって言うのよ。」


「そんなの、」


「小テストは満点だし、次の期末は上位入り間違いないし、あ実技だけは不安かも…でもそれって生まれつきの魔力量に起因するから、馬鹿とはまた別の話じゃない?魔法理論は結構得意だし。ねぇ、そうだよね?そう思うよね?」


「…チッ」


食い気味に聞いてくるアイナに対するレインの返答はえらく短かった。


だが、タイミングの悪いことに、建物の隙間から吹いた突風によって彼の舌打ちは亡き物とされてしまっていた。



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