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優勝者の栄誉とは


「一体何がどうなっているの…?」


「今のって、見間違いでなければかなり危険な攻撃魔法の一種よね?アイナは大丈夫かしら…」


観覧席から見守るカシュアとエリナが不安そうな声を出した。


開始直後に攻撃魔法らしき光が複数飛び交ったと思いきや、一際強い閃光が走り一瞬にして辺りは土埃に包まれてしまった。

学生用の観覧席は最も外側に位置しており、競技場から距離があるためアイナ達の姿を視認することが出来ない。



「二人とも、アイナさんには彼がついてるんだから絶対大丈夫だよ。勝負の行く末を見守ろう。」


キースは二人を励ますよう気丈に声を掛けたが、その声は僅かに震えていた。



様子の分からない状況に、観覧席のあちらこちらから訝しむ声や不安な声が聞こえてくる。

審判の役割をしていた教師達も、見物客達の動揺を受けて閃光の起点と到達点にそれぞれ様子を見に行く。


会場全体が物々しい雰囲気に包まれる中、しばらくして競技終了を告げる笛の音がなった。




「え?まだ30分も経っていないよね??」


「ええ、おかしいわね…やっぱり何かあったのかしら…大事じゃないと良いのだけど…」


隣同士に座るカシュアとエリナの二人は互いの手を握りしめた。アイナの身が心配で心配で堪らなかったのだ。



三人が不安そうに見守る中、ようやく土埃か消え去り視界が晴れてきた。


まず目に入ったのは、攻撃魔法を直撃されたであろう土壁の残骸とめくりあがってめちゃくちゃになった地面であり、その様子から熾烈な戦いがあったことを窺い知れる。

学園の一行事とは思えない戦場のような悲惨な状況に、カシュア達は言葉を失った。


席から立ち上がり、唇を噛み締め必死にアイナの姿を探す。



やがてカシュアは、会場の隅の比較的被害の少ない場所に数人の人が立っていることに気づく。

目を凝らして注視すると、その中に見慣れた黒髪の姿を見つけることが出来た。


教師数名と、アイナ、レイン、アイタンの3人の姿であった。


彼らの表情まで見ることはできないが、目立った怪我ないことが分かり心の底から安堵したカシュア。

両手で口元を押さえ、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。




「順位を発表する!一位 アイナ・トルシュテ、二位 レイン・アルフォード、三位 アイタン・レックスフォード!」


そして、魔道具で拡張された審判の声が会場内に響き渡った。


栄誉ある順位に毎年会場からは拍手と喝采を送られるはずが、しんと静まり返った後皆一斉に声を上げ始めた。


そのほとんどは、今回の結果に対して異議を唱えるものばかりであり、中には怒鳴り声を上げながら競技場に向かって空き瓶を投げつけてくる者までいた。

純粋な賞賛をしてきたのは、カシュア達の三人だけだ。





「うっわ…やっぱりこうなるよね…何これ学園全体どころか王都丸ごと敵に回したみたいじゃん…」


「良かったね、レイン。これでアイナさんのことを独り占め出来るね。向かうところ敵なしだよ。」


「うるさい。」


賞賛されるはずの三人は全く浮足立っておらず、普段通りであった。


本来であれば競技場の中央で大々的に表彰をされるはずなのだが、派手にやらかしたせいで安全に立てる場所がないないため、三人は仕方なく会場の隅に待機させられている。


他力本願で手にしてしまった栄誉に、アイナ軽くは絶望していた。


彼女の爵位が最も低いため、獲得した点数が跳ね上がったのだ。その結果、複数人のバッチに魔力を当てたレインとアイタンのことも追い抜かす事態となってしまったのだ。


その後、レインとアイタンの二人はいつもの穏やかな顔でしれっと賞状を受け取っていたが、アイナだけは終始不本意な顔をしていたのだった。





「アイナっ!!物凄く心配したんだから!それにしても、優勝だなんて本当にすごいね!」


「あ、ありがとう…今日は調子が良かったかな、ははは。」


参加者用の通用口で待っていたカシュアは、アイナに駆け寄ると彼女の両手を取ってブンブンと上下に振る。

どこに向けていいか分からない溢れ出る歓喜の想いを全力でぶつけていた。


そんなカシュアの目を真っ直ぐに見返すことが出来ず、アイナは明後日の方向を見ながら乾いた笑を返したのだった。




「本当に。アイナはとてもよく頑張ったよ。僕が教え込んだ魔法を全て使いこなして、初めての実践だというのに見事な戦術だったんだ。本当にお疲れ様。そして優勝おめでとう。」


さり気なくアイナの腰に手を回しながら、立板に水の如く平気で嘘をついてくるレイン。


アイナは舌打ちをしたい衝動をグッと堪えて静かにゆっくりと後ろを振り返る。そして、意識して最上級の笑顔を作りレインのことを見上げた。




『お ぼ え て ろ』


眉間に皺を寄せながら、口の動きだけで伝えたアイナ。

してやったりとつい口元が緩む。だが、いつもレインにやられていることをやり返してやったと胸がすいたのはこの一瞬だけであった。




「アイナ、今日は疲れただろうから早く帰ろう。今日も一緒に寝てあげるから安心して。昨日は僕のおかげでよく眠れたでしょう?」


「なっ…………………!!!」


レインがぶっ込んできたーーーー!!!!馬鹿馬鹿馬馬鹿!そもそも、そっちが先に喧嘩を売ってきたくせにっ!!!!こんちくしょうっ!!!



「まああああっ!!なんてことをっ!アイナ、貴女一体いつの間にっ…詳しい話を聞かせなさいっ!」


「いやこれは誤解だからっ!!」

 

「うんうん、やっぱり前に僕が進言した通り健全なのは寝室で…」


「ねぇ」「アイタン?」


「へへへ。冗談だってー」


笑顔のアイナとレインの二人に魔法陣を向けられたアイタンは、へらへらと笑いながら両手を挙げている。

幸いなことに、顔を赤くして一人妄想に走るカシュアの耳に彼の戯言は届いていなかった。



これ以上ここに留まると碌なことにならないと判断したレインは、適当に理由をつけてアイナと共にこの場を後にした。



アイナは、いつもと同じようにレインのエスコートで公爵家の馬車へと乗り込んだ。


しかし、このままトルシュテ家に帰るものだとばかり思っていたのだが、どうも様子がおかしい。

明らかに公爵邸の方向に進んでいることを不審に思ったアイナがレインに尋ねた。



「ねぇ、公爵邸にお世話になるのって今日までだよね?私の家こっちじゃないんだけど…」


「別にいいだろ。」


「はい?」


焦るアイナとは対照的に、レインは優雅に微笑んでいる。



「一度寝たんだから、二度も三度も変わるかよ。今更恥ずかしがるな。」


「なっ……」


敢えて紛らわしい言葉を使うレインに、アイナは一瞬にして耳まで真っ赤になった。

彼の発言にはツッコミどころしかなかったが、この美しい顔に言われてしまうとアイナの中で羞恥心が圧勝してしまい、いつもの軽口が出てこない。




「安心しろ。俺がちゃんと責任を取ってやる。」


赤くなって固まるアイナに追い打ちをかけるように、レインがそっと唇を近づけて耳元で囁いてきた。



いやあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!そういうことじゃないから!!!!!その顔でその声で変なことばかり言わないでででええええええっ!!



心の中で悲鳴を上げるだけで実際は瞬き一つ出来ずに固まるアイナのことを、レインは勝ち誇った顔で自分の胸に引き寄せて抱きしめていたのだつた。



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