雲行きが怪しい…
ー カーンカーンカーン
よしっ!待ちに待ったランチタイムっ!!
次こそ、輝くチャンスを私に…!!
前列に座っていたアイナは鐘の音が聞こえた瞬間立ち上がり、元気に後ろを振り返った。
「ねぇ、良かったらランチに…」
だが、アイナの言葉は最後まで続かなかった。
なぜなら、数秒前まで席についていたはずのクラスメイト達が一斉に廊下に出て行ってしまったからだ。
「嘘でしょ……………」
呆然と立ち尽くすアイナ。
とにかく誰でも良いから声を掛けて一人ずつ仲良くなっていこうと気合を入れていたのに、声を掛ける相手が見つからない。
悲しいことに、廊下側の窓から賑やかに話すクラスメイト達の声が聞こえる。
現状に打ちひしがれる中、アイナの名前を呼ぶ声がした。
「トルシュテさん、ちょっと良いかしら?」
可憐な声に振り向くと、そこには美しい金髪をたなびかせた美女が立っていた。煌めく金色の瞳でアイナのことを見つめてくる。
「よ、喜んでっ!」
先ほどまでの意気消沈した姿はどこはやら、一気に花開くような笑顔を見せたアイナは大きな声で返事をした。
わあああああっなんて美しいの!めちゃくちゃ美人さん…お人形さんみたい……それに金髪に金色の瞳、これは違いなく高貴な生まれね。
美貌と魔力と身分とこの可憐なお声…
まつ毛くるくる…お目目くりくり…
はぁ…
「ええと…トルシュテさん?」
「あ、ごめんなさい!で、何か御用でした?」
こんな絵に描いたような一軍の彼女のことだから、『ペン落ちてたわよ』ってどうでもいい話か、『貴女何様のつもり?』みたいなキツイ言葉のどちらかだろうな……
って後者はないか。
何様呼ばわりされるほど、まだ何も目立ってないし。…え、まさか髪染めてること怒られる??
この学園、校則的なものなんてあったっけ……
「私はジュリアンヌ・カターシス。ちゃんと話すのは初めてね。ねぇ、私たちとランチに行かない?久しぶりの学園で緊張するでしょう?」
「え…」
な、ななな、なにこの方………やさしい……見た目だけじゃなくて、中身まで素晴らしいだなんて………
な、涙で視界が滲む………
「ぜひ、」
「あら、大変。私先生に頼まれたことがまだ終わっていなかったわ。でも、午後は実技だから準備をしないといけないし、困ったわね…ええ、困ったわ…」
アイナが快諾しようとした声に被せて、頬に手を当てて困ったと繰り返すジュリアンヌ。
何かを求めるように、チラチラとアイナの顔を見てくる。
「良かったら何か手伝お…」
「まぁ、ありがとう!とても助かるわ。トルシュテさんとは良いお友達になれそうね。本当にありがとう。じゃ、あとは宜しくね。」
ジュリアンヌはいつの間にか用意していた掃除用具をアイナの足元に置き、手を振りながら颯爽と教室を出て行った。
「えっと…?」
とりあえず掃除すれば良いってこと…?え、どこを?というか、なんで?
あ………………思い出した。
入学してからずっと他の人の分まで掃除を押し付けられてたわ。え、そういうこと…??うわ、なんなのこれ………腹が立ってきた。笑顔なんて向けるんじゃなかった………
ん?でもちょっと待って。
これ仲良くなるチャンスじゃない?
クラスの目立つ存在と仲良くなっていつか自分もそれ以上の存在となるため、アイナは与えられた役割を全うすることにした。
「あれは、何をやっているのかな?」
もうすぐ昼休みが終わるという頃、教室に戻ってきたレインが友人のアイタンに尋ねた。
彼の視線の先には、髪を一つに縛り一心不乱に掃除をするアイナの姿があった。
「さぁ?また掃除役でも押し付けられたんじゃない?…それにしてはやけに楽しそうだけど。」
「ふぅん…」
自分で尋ねたくせにレインは興味無さそうに自席へと戻って行った。