肉体改造計画!
花壇の入れ替えが済んだ日の翌日、リリアは信じ難い顔でアイナの前に立っていた。彼女とは対照的に、アイナは私室の椅子にドヤ顔で座っている。
頬が緩みまくっているアイナの前には、数枚の銅貨が並んでいた。
「本当に売れるとは………」
「ふふふふ。だから言ったでしょ!これで苗と鶏に投資した分を回収出来たわ!」
昨日除去した花々はアイナの手によっていくつかの花束にされ、託されたリリアはそれらを街の市場まで売りに行っていたのだ。
本来であれば廃棄処分となるはずだっため相場よりもかなり安い値段で売りに出した結果、祝日の前日だったということもりあっという間に買われていった。
「これで食生活は少しマシになるとして…あとは私自身の問題よね。」
その日の夜、リリアを下がらせたアイナはまた机に向かっていた。
自分自身の体を磨き上げるため、トレーニングメニューをノートに書き出す。
「期間は二ヶ月、目指すは雰囲気美人!クラスメイト達をぎゃふんと言わせてやるんだからっ」
アイナは一人拳を握りしめた。
翌朝、いつもよりも早い時間を起きたアイナはさっそく1人で身支度を整えて庭に出た。
秋が深まってきた今日この頃、早朝はかなり冷え込んできた。彼女は薄手の長袖のワンピースを着ている。
本当は長袖長ズボンを着たかったが、貴族女子のクローゼットにそんなものあるはずもなく、最も動きやすいものを選んだ。
軽く準備体操をして身体を温めると、建物に沿って敷地内を走り始めた。
こういう時、使用人の数が少なくて良かったって思うわ…
リリアにだけ事情を話していたアイナ。
彼女以外の使用人は厨房の料理人だけであるため、他の者に走っている姿を見られることはない。
他の家族には、うまいこと出会さないようリリアがフォローしてくれる段取りだ。
「アイナ様、なんだかお顔周りがスッキリなさいましたね。」
「ふふふ、分かるー?」
毎日走るようになってから半月が経ったある日、彼女の変化に気づいたリリアに、アイナは嬉しそうに顔を綻ばせ、ティーカップを口に付けた。
午後のお茶は、菓子をやめて甘さ控えめのミルクティーにしている。
「ええ。それに、今までよりとても楽しそうにしてらっしゃいます。」
「うん、やはり目的を持った方が何事も楽しいよね。勝負の日まで後もう少し、気合い入れて頑張るわ!」
アイナはティーカップを持っていない方の手で拳を握りしめ、決意を新たにした。
肉体改造が軌道に乗り始めたアイナは、今度は体のメンテナンスを始めた。
毎晩湯浴み後、リリアにオイルマッサージをしてもらい、頭のてっぺんからつま先まで全身をピカピカに磨き上げる。
その甲斐あって、黒髪には艶が生まれ、肌には透明感が出てきた。
体重の減少も相まって、デコルテや腰のくびれに女性らしいラインが戻り、格段にスタイルが良くなっていた。
それから更に月日が経ち、あっという間に休学期間の終わりを迎えた。
ケントンに伝えた通り明日からまた学園に通うこととなる。
「ふっふっふっ…これは…想像以上の仕上がりね。」
アイナは寝る前の時間、鏡の前で全身をチェックし、その変化に頬を緩めていた。
イメージ通りの垢抜けた自分になることが出来、顔のニヤつきが収まらない。
「アイナ、少し良いかしら…?」
その時、母親のエリーゼが部屋に入ってきた。
アイナと同じ黒い瞳だが、髪の色はやや茶色かかっている。
「どうしたの?」
エリーゼが部屋を訪れることなど滅多になく、少し不思議に思いながらも向かい合ってソファーに腰掛けた。
リリアが夜間のために用意してくれた水差しからグラスに水を注ぎ、エリーゼへと手渡す。
「あのね、貴女最近変わったでしょう?」
「そうなの!私、今日まで頑張って…」
「私はやめた方がいいと思うの。」
「え……………」
褒めてくれると信じて疑わなかったエリーゼの言葉は、アイナのことを否定するものであった。