犯人見つけました
もう昼時となっており、とりあえず昼食を取ることにしたアイナ。
ダイニングへと移動し、いつものようにリリアが運んできてくれた料理を目にすると、またもや目をひん剥いて驚いた顔をしている。
「犯人はお前か…………」
アイナは、目の前の皿に対して忌々しく呟いた。
その皿の上には、チーズのたっぷり掛かったジャガイモとバケット、コーン、そして彩りのためのパセリが乗っかっていた。
「炭水化物×炭水化物ってどういうことよ……」
いや冷静に振り返って見れば、昨日の夕飯も似たようなものだった。
うち、本当にお金がないんだな…お腹を満たすことが最優先事項になってるわ……
でもこんな食生活太るに決まってる!!
私は悪くないっ!!!
まずは食事事情の改善から手を付けるか……
「ねぇ、リリア。今度からもっと野菜とお肉を多めにしてもらえる?」
「畏まりました…ただ、それだけのものを毎日ご用意出来るほどご予算を頂けるかどうか……」
ああやっぱりそうか……
お金に余裕があったら、そりゃもっとマシな献立になるよね。
とは言え、この食事はあまりに粗末過ぎる。成長期のアイナの身体が可哀想…
仕方ない…無いなら作る。
貧乏人の宿命よね。
「分かった。午後のお茶の予算を食事に充てましょう。そして、お父様に鶏と野菜の苗を買っていただくようにお願いするわ。卵と野菜があればもっと健康的に生きていけるはず。」
「お嬢様、本気でそのようなことを……」
リリアはアイナの言葉に驚いて目を見開いた。
これまで彼女が何かを変えようと提案したことはなく、主体的に動く様が信じられなかったのだ。
「私は本気。やると言ったらやる。大丈夫、途中で投げ出すようなことはしないわ。リリアにも迷惑は掛けないから。」
「迷惑だなんて…そのようなことはありません。アイナ様のお望みを叶えるのが私の使命であり仕事ですから。」
「ありがとう、リリア。じゃさっそく明日からよろしくね。ふふふ、忙しくなるわよっ」
アイナは瞳を輝かせながら、大きく切り分けたジャガイモを口に運んだ。
太ると美味しいはまた別の話で、口の中に広がるチーズの香りとジャガイモの甘さに目を細める。
「ええ、喜んで。」
リリアもつられて笑顔になる。
こんなに楽しそうに笑うアイナを今まで見たことがない。
彼女が幸せに笑うのであれば、リリアにとってアイナが今までと雰囲気が変わったことなど些細なことでしかなかった。
***
数日後、父親に頼み込んで手配してもらった鶏と野菜の苗が届いた。
アイナとリリアの二人は汚れても良い服装に着替えて、庭に立っている。
「お嬢様、正気ですか………………」
「失礼な。私はいつだって本気だって。」
腕を組んで仁王立ちをし、即答したアイナにリリアは頭を抱えている。
「最終確認ですが、本当にこの庭園の花を全て抜いてこちらの苗を植えるのですか…」
「そうだよ。食べられない花なんて植えてもしょうがないし。狭い庭を有効活用しないとご先祖様に叱られてしまうわ。」
「そういうものですか…………」
弱小貴族に広い敷地が与えられるわけもなく、アイナの邸の庭は小さめの花壇がいくつか並ぶほどの大きさしかなかった。
新しく畑を作れるほどの余裕があるはずもなく、アイナは躊躇なく花を引っこ抜くことを選んだのだった。
「さ、早くはやらないと日が暮れてしまうわ!鶏の小屋も作らないといけないし。一緒に頑張りましょう!」
手にしていたクワを元気に掲げるアイナ。
「…畏まりました。」
花壇の花を引っこ抜くなど不本意でしかなかったが、楽しそうにいきいきと振る舞うアイナを目の前にしたら、もうなにも言えなくなってしまった。
リリアは、嬉々として花を引っこ抜くアイナの横で、目を瞑りながら同じように花の除去を始めた。