魔法の授業
午後の授業は実技だ。
この学園では、基本的な魔力の使い方を学ぶ。
この国はここ数百年平穏の中にあり、魔力を魔法に転換して魔物や外国諸国と闘うといったことは滅多に起こり得ない。
だが、魔力はその人の感情と連動することが多く、制御と己の限界を学んでおかないと魔力暴発という大事故を起こすこととなる。
そのため、魔力量の多い貴族の子女を預かるここでは、魔力の保有量に関わらず、皆魔力操作の基本を学ぶことになっている。
「では、これから魔力制御の訓練を始めます。一歩間違えれば、命を落とす大事故に繋がりますから、先生の話をよく聞き、各自慎重に進めてください。」
漆黒のローブをまとった実技の先生が真剣な表情で伝えた。
それをまた真剣な顔で聞き入る生徒達。
今、アイナ達は対魔法用の制御が施されたドームの中にいる。訓練用の特別施設だ。ここで発動した魔力や魔法が外に作用することはない。
「ブラックの皆さんは先生のところへ、ホワイトの皆さんは前回の続きを。」
先生の指示に従って、ぞろぞろと移動する生徒達。
「またこれか…………」
真っ白なローブを羽織ったアイナは、目の前の硬そうな石を見て項垂れていた。
彼女の近くには、同じように真っ白なローブを纏ったクラスメイト達が数名いる。一人一つずつ石が与えられていた。
両手を石に翳してひたすら魔力を込める。
魔力量が極端に少ない黒髪の者は、まず魔力の出力を学ぶのだ。
茶髪以上の者が手を翳すと一瞬で輝く石が一向に変化を見せない。
『こんなことをやって、一体なんの意味があるんだ…』
皆、そんなことを思いながらひたすらナケナシの魔力を注ぎ続けていた。
一方、漆黒のローブを羽織った生徒達は、先生の周りに集まっていた。
皆、茶髪に金髪、銀髪と明るい髪色をしている。高い魔力量を保持している何よりの証明だ。その中でも、白髪のレインはよく目立っていた。
黒は魔力を通りにくいため、魔力量の高い彼らのローブに使われている。反対に白は魔力を通し易いため、魔力の出力を阻害してしまわないよう、黒髪の彼等に充てがわれているのだ。
「では、今回は魔力を50%に抑えてみましょう。まずは、身体全体の魔力量を意識して瞬間的に100の力を出した後、それを半減させる。…まぁ、これは魔法理論での話なので実際はとりあえず70〜80%を意識してやると、」
ー ゴオオオオオオオオオオンッ
「「「「!!?」」」」
解放された膨大な魔力により、一瞬だけ大気に歪みが生まれた。
音にならない音がこの場にいる全員の中に駆け巡る。これまでに味わったことのない、得体の知れない恐怖に一瞬にしてクラスメイト達の顔から血の気が引く。
「先生、これで50%です。」
皆が絶対的な力に恐怖して怯える中、先生の言うことを忠実に行ったレインは、涼しい顔で言い放った。
「さ、さすがですね……」
突如生徒によってすざまじい魔力に当てられた先生は、呆気に取られていた。
同じドーム内の端っこでひたすら魔力の出力を練習していたアイナ。
一瞬だけ何か感じたが、すぐに気のせいだと思い、練習を続けた。
極端に魔力量の少ない者は、魔力による威圧は効かないのだ。よって、有事の際は知らぬ間に魔力や魔法によって命を取られることとなる。
「もしかしてこれ…魔力を凝縮して注入したら、それを媒体として一気に魔力を注げるんじゃ…確か、そんな研究がされてたはず……」
アイナの記憶の中に本で読んだ魔力凝縮の理論を見つけた彼女は、実際に試してみることにした。
書いてあった内容に沿って、身体の中に流れる魔力を手のひらに持っていき、その密度を高めるように魔力を練り上げていく。
そして、それを釘のような鋭利な物体をイメージして、もう一度石に触れる。
「あ、これでいけるかも…」
目に見えない魔力の釘を石に差し込んだアイナ。
それを媒体として、もう一度自身の魔力を注ぎ込む。
「お?おお!おおおお!!!すごいっ。ちゃんと魔力が入っていく。今までとは比べ物にならないスピードでって、ちょっと待って。なにこれ、止まらないんだけどっ!!!!!え、どんどん魔力が吸われていくっ!!」
魔力が奪われていく恐怖に、アイナは朝から手を離そうとしたが、ぴったりとくっついてしまったそれはびくともしない。
「え、どどどどうしよ!ま、ままりょくがすわ、れて……な、なんかめのまえ、がくら、い……」
生命力である魔力を急激に吸収されたアイナは、視界を奪われた。
立っていられず、地面に倒れ込む。