協力者現る?
「お前、他の人間の言いなりになるのが好きなの?それとも、媚びでも売りたいわけ?」
レインの舌打ちを聞き逃したアイナに、彼は親切に己の考えを言語化してくれた。
ようやく彼の意図を理解したアイナは、否定しようと口を開いた。
「言いなりだなんて、そんなことは…」
ないはず…って思ってたけど、え、掃除を代わりにやってあげて本返しに行って買い物頼まれて荷物運んで日直の仕事をやって…………
は。。。。
完全に使いっ走りになってたわ……
漸く気づいたアイナは、膝から崩れ落ちた。
手にしていた書類が足元に散らばり、高価な魔力測定器も地面の上に転がっている。
「言いなりになってたわ………」
「だから、馬鹿だって言ってんの。そういうの目障りだから、俺の前で二度とするな。」
「…でもそれはちょっと無理。」
「はぁ?」
地面と睨めっこしていたアイナは、顔を上げるとレインと目を合わせた。
「私、この学園で目立ちたいの。チヤホヤされるのが学園生活の憧れなの。そのために努力してきたの。だから、貴方が私の方を見ないようにしてくれる?」
嘘でも冗談でも建前でもなく、本音をぶつけてきたアイナ。強く訴えてきた彼女の瞳は、本気の色をしていた。
そして、自分がどれほど理不尽なことを要求しているのか分かっていなかった。
「言ってること無茶苦茶だろ、お前…」
はっきりと言い返してきたアイナに、呆れた顔を見せたレインだったが、すぐに表情を変え今度は悪魔の微笑みを見せてきた。
「そうだ、それ俺が手伝ってやるよ。」
ニヤリと口の端を上げ、美しい顔で微笑みを向けてくるレイン。
その姿に、アイナは畏怖に近い恐怖を感じた。関わってはいけないと心の内側から警戒音が聞こえる。
それほどまでに危険を孕んだ悪しき顔をしていた。
「丁重にお断り申し上げます。」
「遠慮するな。」
一切揺らぐことなく即答で断ったが、さらにそれをレインによって断られてしまった。
彼は壁から背を離し、少し距離のあったアイナとの間を歩いて詰めると、手が届くほどの距離まで近づいてきた。
「手」
「て?」
いきなりの一音に意味が分からずアイナが聞き返すと、また呆れた顔に戻ったレインがため息を吐いた。
「手を出せって言ってんの。」
「いや、そんなの分からないでしょうよ…」
理不尽だなと思いつつも、アイナは言われた通り彼に向けて手を出した。
つい手のひらを上に向けて、何か強請っているような形を取ってしまった。
レインはその手を取ると、ひっくり返して手の甲が上を向くようにした。
そして、口元に引き寄せる。
「は……ちょっと待てください。待って。待て。おいこらっ」
何が起こるのか予想のついたアイナは言葉を選ばずに必死に抗ったが、彼から返ってきた反応は怪しい微笑みだけであった。
ー チュッ
「うっわ。。。。。。。。。。」
リップ音を立てて手の甲にキスをされてしまったアイナ。
全身に鳥肌が立ち、彼女は自分自身を抱きしめるようにして寒気の走る身体を摩っている。
「契約成立」
レインは、にっこりと微笑んで天使の微笑みを見せてきた。
先ほどまでとは打って変わり、なんの邪気も感じない無垢の表情に、アイナはつい見惚れてしまった。
元の顔が整っているだけに、笑顔になった時の攻撃力が尋常ではなかったのだ。
「少しは楽しませろよ。」
意地の悪い顔で笑うと、レインはその場を去って行った。
「は…なんだったの今のは…白昼夢…??」
しばらくその場に立ち尽くしていたアイナだったが、まだ仕事が終わっていないことを思い出し、慌てて別棟へと駆けていったのだった。