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血のない家族  作者: 夜桜紅葉
余談 げんじーの昔話
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血のない家族

 佐々木や小野寺たちが転入してきてから1週間が経った。

奴らは段々学校生活にも慣れてきたように見える。


ボクの生活は特に変わっていない。

いつも通り授業を聞き流して、昼休みになったから弁当を取り出した。

が、そこに小野寺が来た。


「やっほーみなもん。ご一緒しても構わんでゴザルか?」

小野寺はニコニコしながら手に持った弁当箱を軽く上げてみせた。


「ああ」

ボクは小野寺の分のスペースを空けるように自分の方に弁当を寄せた。


「あ、ちょっと待ってでゴザル。恭介殿も呼んでくるでゴザル」

小野寺は佐々木を呼んできた。


二人はそれぞれボクの隣の席の泡雲と狐酔酒の椅子を借りて座った。

泡雲も狐酔酒もどこかに食べに行っているようだ。


「いや~やっぱりみなもんとは一度しっかり話してみたかったでゴザルからな」

小野寺は訊いてもいないのに言い訳のようなことを言った。


「そうか。まぁそりゃ気になるよな。こんな変な能力を持った人間は珍しいし。それで? 何か知りたいことでもあるのか?」


「そうでゴザルなぁ……。彼女いるでゴザルか?」

「いるわけないだろ」


「いや……そんな強く否定しなくても。なんか悲しいなぁ」

佐々木が苦笑いした。


なんだこいつら。

喧嘩売ってんのか。


「で、本当になんなんだ。何か訊きたくて来たんだろう?」

ボクが問い詰めるような口調で訊いても、小野寺はしらばっくれた。


「別に。普通にみなもんと飯を食いたかっただけでゴザルよ」


「ボクに嘘がつけると思っているのか? お前らがボクに質問したいことがあるということくらい分かってる」


佐々木が複雑な表情を浮かべた。

シラを切ることを諦めたようだ。

「……みなもん相手だと駆け引き的なことができないのが辛いところだね。ちなみに僕たちがみなもんに何を訊きたいのかってことは分からないの?」


「知ろうと思えば知ることはできるが、そんなことにエネルギーを使いたくない。お前らが話せばいいだけだからな」


「まぁ確かにそうでゴザルな。じゃあ回りくどいことはやめて単刀直入にいくでゴザル。実はみなもんにお願いがあるんでゴザルよ」

「ああ。なんだ」


「調べてほしい……というより考えてほしいことがあるんだ」

「つまりボクの頭脳を借りたいと」

「そういうことでゴザル」

「内容に依るな。とりあえず聞かせてくれ」


小野寺は一度大きく深呼吸をして、真剣な表情で言った。


「拙者の出生について知りたいんでゴザル」


「小野寺の出生、か」

「そうでゴザル。拙者は本当の親の顔も名前も、自分の誕生日すら知らないでゴザル。別にそれを知ったからと言って何か変わるわけでもないんでゴザルが、やっぱり気になるでゴザルからな。みなもんさえ良ければ、拙者のことについて考えてみてほしいでゴザルよ」


ボクは遮光眼鏡をかけ直した。

悩ましい。


小野寺の出生についての諸々の事情はすでにボクの脳が教えてくれたから知っている。


小野寺の本当の親のことも知っているし、小野寺の本当の名前も知っている。


そう、『小野寺けい』という名前は元々こいつに付けられていた名前ではない。


小野寺桜澄に名付けられ、彼の養子になったことでこの名前になったというだけだ。


まぁそれはさておき、小野寺に真実を明かすタイミングは今ではないとボクは考える。

理由はいくつかあるが、一番はボクなりの気遣いだ。


小野寺は高校に入るときに、とある目標を立てた。

ゴザル口調とか、左利きだとかいう設定を考えていた時に目標も立てていたのだ。


少なくともその目標を達成するまでは知るべきではない真実がある。

だからボクは話さないことにした。

(てい)のいい言い訳もあることだ。


「申し訳ないが、それは少し難しいな」

「んー。そうでゴザルか。理由はやっぱり負担が大きいからでゴザル?」


「まぁそんなとこだな。お前の人生はなかなか濃い内容だから考えていてすごく疲れる」


「それなら仕方ないね。また他の方法を探そう」

佐々木が小野寺を諭すように言った。


小野寺は小さく頷いた。

「そうでゴザルな。無理言ってすまんかったでゴザル」


「力になれずに申し訳ないな」

「全然いいでゴザルよ」

小野寺は笑顔を作ったが、落胆しているのが微かに感じ取れた。


佐々木もそれを察したのだろう。

話題を変えるべく、ボクに振った。

「そういえばみなもんって疲れるとかそういうの抜きにしたら、どこまでのことを知ることができるの?」

「なんでも」


「なんでもかぁ。例えばこの作品のタイトルの『血のない家族』の意味とかも?」


それを聞いて小野寺が笑った。

「恭介殿、流石にそれはみなもんのような天才でなくとも誰でも分かるでゴザルよ。『血の繋がりがない家族』、略して『血のない家族』でゴザル。愚かなる作者がちょっと略した方がお洒落な気がするという浅はかな理由で付けた単純なタイトルでゴザルよ。はっはっは!」

「それもそっか」

佐々木も苦笑いしながら同意した。


「ん? ……あぁ。そうだったな」

ボクは二人の言っている意味が分からずに一瞬硬直したが、すぐに理解した。


そういえば、こいつらは知らないんだった。

血のない家族というのは血の繋がりがない家族って意味じゃない。


『血の繋がりがあることに気づいていない家族』、略して『血のない家族』だ。

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