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血のない家族  作者: 夜桜紅葉
第三章 一月、最初の一週間
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妖風緋彗3

 妖風です。

好きな生き物はクラゲです。

メインヒロインになるべく、日々奮闘しております。

応援よろしくお願いします。


ということで、今がいつなのかというと、一月十二日の木曜日の昼休み。


佐々木と小野寺が転校してきてから四日が経った。


昨日と同じく、今日も小野寺は

「久しぶりに一緒に食べるでゴザルか」

と言ってアタシの机に勝手に弁当を置いた。


久しぶりってなんだよ。

昨日食べたばっかりじゃねぇか。


アタシがそうツッコもうとしたところを運悪く友達、栗原窓無に目撃されてしまったのだ。


「ヒュー。お二人でごゆるりとお寛ぎくださいませ〜失礼しました〜」

窓無はニヤニヤしながらそう言ってどこかに行ってしまった。


呆然とするアタシを見ながら、小野寺は白飯を頬張っていた。


仕方がないのでアタシも弁当を取り出して食べ始めた。


しかし小野寺はなぜか箸を置いて眼鏡をかけた。

そして懐からスマホを取り出していじり始めた。


「ちょっと。食事中にスマホいじるのは行儀が悪いでしょ」

「……」

アタシの注意も聞こえていないようだ。


っていうか一緒に食べようとしたくせにスマホいじるとか、マジでなんなんだコイツ。


「どうでもいいけどさ、あんたスマホ触るときだけ眼鏡かけるんだね。昨日もそうしてたし」

「……」

「あー無視ですかそうですか」


アタシは小野寺を放っておいて勝手に一人で食べようと思ったのだが、目の前であんなに熱心にスマホ触ってるのを見ると何してるのか気になる。


また無視されるかもとは思ったが、訊いてみることにした。


「ねぇ。何見てんの?」

「……ムフフ。……ムホホホ。……え? なんか言ったでゴザルか?」


小野寺は口角を上げながらスマホを操作していたが、その手を止めてこっちを向いて訊いてきた。


「……いや、やっぱなんでもない」

「あ、拙者が何見てたか気になるでゴザルか?」

「いやいいって。興味ないし」


「そうでゴザルか。まぁフォルダを整理してただけなんでゴザルがな。さて、食事中にスマホ扱うのもお行儀が悪いし、そろそろ食べるでゴザルか」


小野寺は眼鏡をケースに入れて仕舞うと、スマホの画面を上に向けて机に置いた。


アタシはなんとなく見ないように視線を左に逸らしたけど、一瞬だけ視界に入ったスマホの画面は真っ白で何も映っていなかった。


ん? と思ってちゃんと見てみたが、小野寺のスマホの画面は真っ白に発光しているだけだった。


アタシが見ていることに気づいた小野寺がニヤニヤしながら訊いてきた。


「あ、やっぱ何見てたか気になるんでゴザルか」


「いや、何見てたも何もあんたのスマホ壊れてるじゃん。さっきも触ってるふりしてただけだったんだ。あんたマジで何がしたいわけ?」


「壊れてないでゴザルよ。緋彗殿の目は節穴でゴザルか?」

「は? 何も映ってないじゃん」

「よく見るでゴザルよ。ほらここ」


小野寺は真っ白の画面の中央当たりを左手の人差し指で指差した。


「ん? ……何も映ってないけど?」


覗き込むように見てみたが、やはりただの真っ白だ。


顔を上げて小野寺の方を見ると、右手で箸を持ってミートボールを掴んでいた。


まさかと思ってアタシの弁当を確認すると、二つ入っているはずのミートボールが一つしかなかった。

キーッ!


「泥棒! また盗ったな!」

「これがミスディレクションでゴザルよ」

「やかましいわ! 返しなさいよ!」

「ほれ。あーん」


小野寺はミートボールを差し出してきた。

アタシは迷わずかぶりつく。


迷ってはいけない。

判断は早く、そして動きも俊敏であらねば。


小野寺との勝負では何においてもスピードが大事なのだ。


アタシは自分に出せる全力の速度でミートボールにかぶりついた。

しかし、アタシが噛んだのは箸だけだった。


ん?

ちょっと待て。


アタシはミートボールが目の前、つまり宙に浮いていることに気づいた。


そしてそれはどんどん吸い込まれるように小野寺の口元へと向かっている。

小野寺は迎え入れるように口を開けてキャッチした。


アタシは一瞬遅れて状況を理解した。


小野寺は箸を差し出してからアタシがそれにかぶりつくまでの一瞬で自分の方にミートボールを投げたのだ。

なんて行儀の悪い、凄まじい技術なのだろう。


「箸、離してもらってもいいでゴザルか?」

小野寺がミートボールを咀嚼して飲み込んでから言った。


「へ? あ、うん」


小野寺の箸を咥えたままだった。

アタシが口を開けて箸を離すと、小野寺は持ち替えることなく右手で箸を使い続けて自分の弁当の白飯を頬張った。


アタシは目の前で起こったことが凄すぎて、なんか怒りが失せてしまっていた。


十秒くらい小野寺がご飯を食べるのを呆然と眺めていたが、ふと気づいたことがあり小野寺に訊いた。


「あんた普通に食べてるけど、気にならないの?」

「何がでゴザル?」


「いや、なんていうか。その箸今アタシがかぶりついたじゃん」


「……まさかとは思うでゴザルが、間接キスがどうとか子供みたいなこと言い出さんでゴザろうな」

「あ、いややっぱ何でもない。忘れて」


小野寺は意地悪くニヤリと笑って言った。

「仕方ないでゴザルな。分かったでゴザル。聞こえなかったふりをしてあげるでゴザルよ」


「……何なのその上から目線。まぁ触れないでくれるならなんでもいいけど」


「いや〜それにしても、緋彗殿がそこまでウブとは思わんかったでゴザル」


「ちょっと! 聞こえなかったふりしてくれるんじゃないの!?」


「そんなこと言ったでゴザルか? 忘れたでゴザル」

「こいつッ! ……いや、そんなことよりさ。あんた左利きじゃないの?」


「ん? 拙者そんなこと言ったでゴザルか?」

小野寺は右手で持った箸を宙を掴むように動かした。


「別にあんたがそう言ったわけじゃないけど、昨日だって左手で箸使ってたじゃん。もしかして両利きなの?」


「違うでゴザルよ。右手でも扱えるってだけで、拙者は左利きでゴザル」


「ん? 何言ってんの? 右手でも扱えるなら両利きってことじゃん」

「いや拙者は左利きでゴザルよ」


「なんでそこ頑なに認めないのよ。あんた両利きなんだって」


「拙者は左利きって設定だから左利きなんでゴザルってば」

「意味わかんないわよ……」


その時小野寺の隣の席、つまりアタシから見て右斜め前の席の生徒が自身の性格の悪さを象徴するように意地悪く鼻で笑った。


小野寺がそっちを見て言った。

「なんでゴザル?」

「いやいや別に? 何でもないさ」


性格の悪い男子生徒、泡雲(あわぐも)冴月(さつき)は挑発するような口調で言った。

「ただ、頭の悪い奴同士の会話は聞いてられないなと思ってね」


「あ? 何? 喧嘩売ってんの?」

アタシが威嚇するようにそう言っても泡雲は肩をすくめてみせるだけだ。


泡雲は小野寺のことを見下しているようだ。

バカにするように口角を少し上げて小野寺のことを見ている。


それに対して小野寺は今にも

「面白そうなおもちゃを見つけたでゴザル!」

と言い出しそうなほど目を輝かせて泡雲のことを見ていた。

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