表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血のない家族  作者: 夜桜紅葉
第三章 一月、最初の一週間
53/76

天才4

 部室棟を出たところで、佐々木が小野寺に言った。

「けい、妖風と仲良くなったんだね」


小野寺は頷いた。

「うむ。my favorite girlでゴザル。で、みなもんはどっち方向でゴザル?」

小野寺がボクの家の方向を訊いてきた。


個人情報なんだけどな。

まぁ別にいいけど。


ボクは指差して示した。

「じゃあ同じ方向でゴザルな」

「ああ。そうみたいだな。ところで、お前たちの姉はいいのか?」

「ん? 天姉のことなら……ちょっと待つでゴザル」

小野寺はボクの顔を訝しげに覗き込んだ。


あ、やらかした。

佐々木の視線も鋭くなった。

今の失言で完全に警戒されたな。

アーメン。


そういえばボクはまだ本人たちと直接そのことについて話したわけではないんだった。


ボクが本来そのことについて知っているはずがないということを忘れていた。

こうなれば話す他あるまい。


ボクはボクが天才であるということを二人に説明することに決めた。


ボクが話し始めようとしたら、先に佐々木が口を開いた。

「疑惑の発言だね。お前たちの姉って。僕とけいの関係が兄弟だと思ってないと出てこない発言だと思うけど。僕たちについてなんか探った?」


佐々木の言葉を受け、ボクはなんだか調子に乗ってしまって

「天艶から漏れたとは考えないのか?」

と、芝居がかった口調で言ってみた。


佐々木はボクの質問に対して首を横に振る。

「多分それはない。出会ったばかりだけど、天艶は結構信用できると僕は思う。というか、その質問もかなり妙だけど。……なんか怪しいな。みなもんは何を知ってるの?」


佐々木の質問に

「ボクは天才なんだ」

と答えると、二人ともきょとんとした。


小野寺が首を傾げながら訊いてきた。

「え? 割とマジでどういうことでゴザル? 意味が分からんでゴザルよ」

「だろうな。一から説明しよう」

ボクは一度深呼吸してから説明を始めた。


「ボクの脳は特殊でな。過程をすっ飛ばして結論に至るんだ」

「……それだけ聞いても何も分からんでゴザルな」


「数学の問題を思い浮かべるといいかもな。あくまでも分かりやすく説明するために例として出すだけで、本質とは少し離れているかもしれんが。ボクは、途中式が分からないのに答えが分かる。問題を見た瞬間に答えが頭に浮かぶんだ。でも自分がなぜその答えに辿り着いたのかボク自身分からない。答えだけがはっきりと分かるんだ」

小野寺は顎に手をやって

「ふむ」

と言った。


佐々木が興味深そうに言った。

「なんだか不思議だね。みなもんの頭はどういう風に働いてるんだろう」


「走馬灯みたいな原理らしいぞ」

「走馬灯……」

小野寺がボクの言葉を繰り返した。


「ああ。走馬灯は知ってるだろ? 死ぬ間際に人生の記憶が一瞬で駆け巡るやつだ。あれは死の危険を回避するために脳が助かる方法を今までの経験から見つけ出そうと記憶をよみがえらせると考えられているんだが、まぁ多分そんな感じの原理らしい」

「ん? それがどう繋がるんでゴザル?」


「ボクの脳は思考する時に今までの人生で見聞きした情報、体験したことを総動員して答えを弾き出す」


「んーなるほどでゴザル。……なんでそんなことになってしまったんでゴザろうか」


「簡単に言えば、ボクの脳には正常でない部分があるからだ」


佐々木は難しい顔をして訊いてきた。

「分かるような分からんような。でもそんなの滅茶苦茶脳に負担がかかりそうだけど、大丈夫なの?」


「大丈夫じゃない。ボクの脳は制御していないと勝手にフル稼働する。ずっとそのまま働かせてたらオーバーヒートする。熱がこもってぶっ倒れるんだ。実際小さい頃は何度も救急車のお世話になった。やったことはないが、医者が言うにはボクがもし本気で思考したら多分死ぬとのことだ」

「えぇ……。大変なんだね」

佐々木が同情するように言った。


「ああ。だから普段はなるべく思考しないように、お前らがよくするように自己暗示をかけている。それと情報量の多いものは見ないようにしている」

「自己暗示でどうにかなるもんでゴザルか?」


「多分死なないためにボクの脳が適応したんだと思うが、自己暗示をかけることでボクは自由に頭を空っぽにできる。普段はそうしているが、人と話す時なんかは暗示を解いてるな。じゃないと会話ができないから。……小学生の時に酷い目に遭ったからな。ボクが無視していると勘違い、まぁ実際無視と大差ないんだが、無視されてると思ったクラスメイトたちがボクをいじめ始めたんだ」


「……酷い話でゴザル。別にみなもんは悪気があってそうしてたわけでもないのに。でも小学生くらいだったらみなもんの事情を理解するのは難しいでゴザろうな」


「ボクの髪の色が白いことなんかも手伝ったのかもな。あ、一応言っておくが、ボクの脳の特徴はアルビノとは何の関係もないぞ。ボクが特別なだけだ。……人と話すのはボクにとって脳に負担がかかる行為だが、その経験からボクは話しかけられたら答える、くらいはするようになった。しかし情報量が多い人間と話すのはやはり負担が大きいな」


ボクは鞄に大量の熱冷まし用のシートを常備している。

そのうちの一つを取り出して額に貼った。


二人にその行動の理由を説明した。

「ボクの脳は使ったら冷やさないといけないんだ」


「……すまんでゴザルな。そんな事情があるとは知らずに話しかけてしまったでゴザル」

小野寺は申し訳なさそうな顔をした。


「謝るな。ボクは元々寂しがり屋なんだ。こういう事情を抱えていることから今まであまり人と話さないように生きてきたがな。だから話しかけてもらえるのは普通に嬉しいしありがたい。もしお前らがバカで、もっと平凡な人生を送っていたのならもっとありがたかったが」

「どういうこと?」

佐々木が訊いてくる。


「さっきも言ったが、情報量が多い人間と話すと特に負担が大きいんだ。お前らの人生は情報量が多いだろう。これもさっき言ったことだが、ボクは人と話している時は自己暗示を解いている。つまり話している間はボクの脳は普通に働いているんだ。そしてお前らの性格とかどんな人生を送ってきたのかということなど、ありとあらゆることに対して勝手に答えを出している」

「……具体的にはどんなことが分かったの?」

佐々木が上目遣いに訊いてくる。


「やろうと思えばどんなことも知ることができるが、そうだな。今のところはお前らが保護者に受けていた仕打ち、そんなお前らを保護した小野寺桜澄や市川結輝や島崎玄柊。お前らが暮らしていた、からくり屋敷。小野寺桜澄や島崎玄柊からどんな訓練を受けていたか、など」


佐々木が苦笑いしながら言った。

「……ヤバいね。先生たちの名前まで分かるんだ。いくら考えたって分かるはずがないように思えるけど」


「ボクの脳がどんな過程を経てその結論に至ったのか、ボク自身にも分からない」


「AIみたいなもんでゴザルか」

「ああ。その例えが適切だろうな。ブラックボックスだ。……ボクはここを右に曲がるが、お前らは左だろう」

ボクは次の角を指差した。


「そうでゴザル」

「ではここまでだな」

「またね」

佐々木が手を振ってきた。


ボクは軽く手を振り返しながら言った。

「じゃあ、また気が向いたら適当に話しかけてくれ。あんまり頻度が多いとボクはぶっ倒れるが」

二人とも苦笑いした。


二人と別れてからボクは思った。

自分の抱える事情をここまで詳しく誰かに話したのは初めてだ。


まぁ佐々木と小野寺なら不用意に言いふらしたりするようなこともないだろう。


ボクは熱くなった頭に手を当てながら家に向かって歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ