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血のない家族  作者: 夜桜紅葉
第三章 一月、最初の一週間
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二台持ち

 教室に着くと、僕の隣の席には既に天艶がいた。

本を読んでいる。


ちなみに天艶の席は教卓を正面としたときに最後列の左から二番目で、僕の席はその左隣。

つまり窓際の一番後ろの席になった。


けいは僕の五つ前の席、窓際の一番前の席になった。


この教室の席は縦に六、横に六の配置になっているが、僕たちが来るまで角の四席は空席になっていたようだ。


自分の席に着くと、天艶が本を閉じて挨拶してきた。


「おはようございます佐々木君」

「おはよう天艶」


「あの、質問してもいいですか?」

「ん? いいよ」


「小野寺君はどうして和服を着ているんでしょう?」


あ、忘れてた。

なんか僕たちが入ってきてから教室がざわざわしてるなと思ったら、みんなけいの和服姿に驚いているのか。


というか校門を抜けたあたりからずっと周りの生徒から好奇の目を向けられたり、なにやらひそひそ話されたりしていた。


今は、けいの席の周りにクラスメイトが集まって何やら話している。


「あれは私服だから気にしなくていいよ」

「小野寺君は普段から和服なんですか」


「うん」

「そうですか」


「天艶は制服なんだね」

「はい。私服をあまり持っていないので、制服をクリーニングに出す時とか以外は基本的にいつも制服を着ています」


「学校以外でも普段から制服着てるの?」

「はい」

「へぇー」


そういえば狐酔酒が昨日、天艶の家はちょっと貧乏だとかなんとか言ってたな。


そんなことを思い出していると突然

「は! そうでした! お金、少しですけど持ってきました」

と言って天艶はカバンから封筒を取り出した。


「えーっと。昨日のけいのスマホのことだよね?」

「はい。とりあえず今用意できるだけ持ってきました。足りないと思いますので、用意でき次第追加でお渡しします」


天艶からすれば僕たちが家族であることなんか知らないはずなのに、なんで僕に渡そうとしているんだろう。

テンパってるのかな。


まぁいいや。

結局僕が話すことになったな。


「やっぱり要らないってよ」

「え?」

「昨日自力で修理したんだって」


「修理って……自分でそんなことできるものなんですか?」


「本人ができたってんだから、まぁできたんだろうね」


スマホを個人で勝手に分解したり修理したりして使用するのは電波法に抵触するらしいけど。


そのことをけいに言うと

「修理した端末で電波を発することがアウトなのであって、Wi‐Fiもモバイルデータ通信も使わなけりゃ大丈夫でゴザルよ。多分」

って言ってた。


それだとネットも使えないし連絡も取れないけど、それはどうするのか訊いたら

「もう一台買うからいいでゴザル。二台持ちってやつでゴザルな。新しく買うのが普段使いする用で、こっちの端末には専用の役割を持たせるつもりでゴザル」

だそうだ。


「拙者から話すつもりでゴザルが、恭介殿は確かほたる殿の隣の席でゴザったな。もし拙者より先にこのことについて話すことになったら、修理したから大丈夫とだけ伝えてもらえると助かるでゴザル。もう一台買うとか言ったら駄目でゴザルよ。ちょっと関わっただけでも分かるくらい律儀な子でゴザったから、その分のお金出すって絶対言い始めるでゴザルからな」

とのことだったので、余計なことは言わない。


僕たちには一応貯金がある。

今まで毎月五千円ずつ先生から与えられていたのだ。


ずっと使う機会が皆無だったから貯まる一方だった。

スマホ一台くらい大丈夫。

多分。


相場を知らないからなんとも言えないけど。

いざとなれば僕も出そう。


「だからそのお金は要らないんだってよ」

「……そうですか」


天艶は釈然としないといった様子でカバンの中に封筒を仕舞った。


そうこうしているうちに担任の山川先生が来た。

みんなそれぞれ自分の席に戻っていった。


山川先生は、けいの姿を見て驚いた。

「おはよ~。うぉ! どうしたの小野寺。珍しい恰好してるね」

「拙者の普段着でゴザル」


「ほーん。まぁいいや。えー今朝は寒かったですけど、みんな大丈夫だった? 先生は結構冷え性なんでアレなんですけど。あーそうだ。佐々木と小野寺はこの学校どんな感じ? いや、どんな感じとか言われても困るか。まだ二日目だし」


僕は適当に当たり障りないことを答えた。

「なんとなく分かってきました。今朝も狐酔酒と冬狼崎からわんぱくクラブについて説明してもらいました」


「あーあれな。個人的にはあの制度結構面白いと思ってるけど、まぁ二つ名で呼ばれるのは恥ずかしいだろうから強制入部にならないようにな」


「学校のルール的なのは学級委員の二人から聞いて大体把握したでゴザルよ」


「そりゃ良かった。なんか独特な感じの学校と思うかもしれないけど、多分すぐ慣れるよ。俺も最初なんかよく分からんかったけど、いつの間にか慣れてたし。まぁ教師と生徒じゃ違うところもあるかもしれないけど。えー、あとなんか話すことあったっけ。あーそうそう。今日から授業が始まるね。頑張ってねー。俺も頑張るわ。以上」


この後、僕は生まれて初めて学校で授業を受けることになる。

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