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血のない家族  作者: 夜桜紅葉
第三章 一月、最初の一週間
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ピカピカ

 恭介たちが高校生活をスタートさせるように、私も一月から小学生になる。


今日は三学期始業式。

私はギリギリ一年生から小学校生活を始めることができる。


げんじーに買ってもらったランドセルを背負って学校へ向かう。


なんか緊張するなー。


最初はもっと早く転入しようとしていたのだが、延期して三学期からにした。


時期が二学期のかなり終盤で、転入してすぐに冬休みに入ってしまうのもなんだかなぁと思ったからだ。


小学生になるにあたり、いくつか決めたことがある。


まずは話し方。

私は普段関西弁的な感じの話し方をしているが、学校ではこれをなるべく控えるようにしようと思う。


私がこれから相手をするのは小学生だ。


小学生っていうのがどの程度のものなのか知らないから正直なんとも言えないが、私のイメージ通りならあんまり方言を出すべきではない。


偏見なのかもしれないけど、子供って割と排他的というか、自分と違うところがある存在を受け入れないようなイメージがある。


変に揉め事を起こしたりしないためにも努めて標準語を話すようにしようと思う。


っていうかそもそも私は別に関西圏の出身でもない。


私が関西弁っぽいのを話すのは、一種の自己暗示のようなものなのだ。


精神的に参ってしまった過去の私は、自分とはまったく異なるキャラクターを演じることで心を守ろうとした。


天姉と少し似ているかもしれない。

天姉の場合は強がって強がって強がった結果あんな感じに明るくなったけど、元々ああいう性格ではないらしい。


私は色々試した。


初めの頃は一人称をオイラにしてみたり、語尾にゴワスをつけてみたりとか色々迷走したけど。


なんやかんやあって、最終的にはエセ関西弁に辿り着いたのだ。


つまりエセ関西弁は心を守るためのものだった。


そして精神的に安定した私にはもう必要ないものだ。

これを機に卒業しようかな。


まぁ話し方についてはそんなところで、あとは偉そうにしないこと。


これは桜澄さんの話にもあったように、自分が周りの人間よりもできることがあっても、それを鼻にかけたり見せびらかしたりしないようにするってことだ。


とりあえずはこんなもんだろうか。


学校に行くのは初めてだし、なにかと分からないこともあるかもしれないけど、そこは慣れていけばいいだろう。


楽しい学校生活を送れたらいいな。



 これから始まる生活について色々考えながら歩いていると目的地に到着した。


海霜(うみしも)小学校。

木造のこじんまりとした校舎だ。


全校生徒は大体二百人くらい。

各学年一クラスずつで、一クラスあたり三十数人。


私の中に基準となるものがないからよく分からんけど、多分ちょっと少ないんじゃないかな。


改めて一年生から始めることができて良かったと思う。


各学年に一クラスずつしかないということは、卒業までずっと同じクラスだということだ。


仮に私がもう少し後、四年生や五年生とかそのくらいの時期に転入することになっていたとしたら、何年間も同じクラスで生活している生徒たちの輪に入らなければならなかった。


いや、でもそれはそれで良いところもあるかもしれない。


何年も同じクラスで過ごすことで、生徒たちがお互いのことを良く理解し、クラスに対して安心感を抱く。


すると一人ひとりに余裕が生まれ、他人のことを想いやれるようになる。


そうなれば転入生という異物に対して拒絶反応を起こしにくくなる……だろうか。


んー。

分からん。


こんなことを頭の中でいくら考えても現実は何も変わらないのに、どうも私は昔から不安なことに対してあれこれ思考を巡らせてしまう。


よし。

カピバラのことを考えよう。


頭の中をカピバラで満たすんだ。

そうすればきっと落ち着くはず。


目を閉じて、イメージする。


カピバラカピバラカピバラ……。


いいぞ。

眠そうな表情をしたカピバラが頭に浮かんできた。


可愛い。

うへへ。


思わず顔がにやけてしまう。


と、そこへ

「あ、坂本さんかな?」

背後から急に声をかけられた。


考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか職員室の前に辿り着いていたようだ。


不意を突かれた私は

「なにやつっ!?」

と言いながら振り返った。


するとそこにはきょとんとした男が立っていた。


「……え、あ、あはは。それがしは坂本殿の担任でゴザル?」


なんかノッてくれた。

恥ずかしい。


この男は私の担任。

手続きやらなんやらでこの前桜澄さんと一緒に来た時に顔を合わせた。


優しそうというか、頼りなさそうというか。

そんな感じの印象を受ける男だ。


あんまり嫌な人ではなさそうだと思う。

名前は忘れたけど。


「えーっと、一応担任の高橋です。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願い致します」


私が頭を下げると

「あ、ご丁寧にどうも」

と言って高橋先生も頭を下げた。


そうだったな。

そういえば高橋だった。

よく見ると高橋って感じの顔してる。


「この前お父さんと一緒に来てた時にも思ったけど、なんだかしっかりしてるね~」


お父さんというのは、桜澄さんのことか。

やっぱり親子に見えるんだな。

まぁ別に間違いでもないけど。


「じゃあ朝の会まで職員室に入ってようか」

「分かりました」



 それから朝の会とやらの時間まで職員室で高橋先生と話した。


高橋先生は私の緊張をほぐすように、色々世間話をしてくれた。


そうこうしているうちにキリの良い時間になり、とうとう教室へと向かうことになった。


教室へ向かっている間、高橋先生は私に


「緊張しなくていいからねー」

と声をかけてきたり


「僕の方が緊張してきたよ」

と苦笑いしたりしていた。



 教室の前に着くと

「じゃあ僕が呼んだら入ってきてください。みんなと仲良くしてあげてねー」


そう言い残して一人、教室に入っていった。


残された私はまたカピバラのことを考え出した。

脳内のカピバラは眠そうに目を細めている。

その様子は少しだけ私の気持ちを落ち着かせた。


ふぅーっと息を吐いたところで


「それじゃあ、転校生の入場です! みなさん、拍手でお迎えください!」

と教室の中から入室を促す高橋先生の声が聞こえてきた。


……。

ちくしょう。


高橋先生の野郎が無駄に盛り上げやがったので、ちょっと入りづらくなってしまった。


しかしいつまでも突っ立っているわけにもいかない。


私は意を決して教室の扉を開いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったでござる。エセ関西弁にはそんな理由があったとは。
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