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血のない家族  作者: 夜桜紅葉
第二章 準備
25/76

予定調和

 夜。

みんなでリビングに集まった。

腕相撲大会をするためだ。


「ほい。くじを作っておいたでゴザル」

けいが上に穴が開いた段ボールの箱をテーブルに置いた。


くじ引きの結果、組み合わせはけいと日向、ゆずと先生、僕と桜、げんじーと天姉になった。


「まずは俺たちでゴザルな~」

「えー。絶対負けたやんこんなもん」

「やってみるまで分からんでゴザルよ」


二人がテーブルに肘をついてお互いの手を握る。

天姉が審判をするみたいだ。


「二人とも力抜いてねー。よ~し。レディ~ゴー!」

天姉の合図と同時に日向が顔をしかめる。


「ん~動かん~!」

「ゴザル~」


けいは難なく腕を横に倒す。

日向の手の甲がテーブルについた。


「勝利でゴザル」

「ちくしょう!」

日向は悔しそうに嘆いた。


「そりゃそうなるだろうな。でもナイスファイト」

僕は日向の肩に手を置いた。


ゆずが腕まくりした。

華奢な腕が覗く。


「次は私たちですね」

「そうだな」

先生も腕まくりした。

明らかに太さが違う。

見ただけで勝敗が分かる。


先生とゆずが手を組んだ。

天姉がまた合図する。


「レディゴー!」

「ん!」

ゆずが力を入れるが、一ミリも動かない。


先生は鹿威しが水を吐き出すように何事もなく腕を倒した。


「参りました。でも、桜澄さんと手を繋ぐのなんて子供の頃以来ですね」


「あー。子供の頃は意味もなく手を繋いで家の中をルンルン言いながら歩き回っていたな。今思えば何が楽しかったんだろうか」


「そんなこともありましたね」

ゆずは照れたように微笑んだ。

楽しそうでなにより。


桜が肘をテーブルについた。

「次は私たちですねー」

「だね」


「ハンデくれません?」

「いいよ」


「じゃあ佐々木先輩は指二本で」

「わかった」


僕は右手の人差し指と中指の二本を立てた。

その指を桜が掴む。


「レディーゴー!」

「そいやあぁ!」

天姉が合図して桜が力を入れる。

あんまり強くはない。


「全力?」

「はい! ぬぅ~全然動かない〜!」

「そっかー」


僕が腕を倒していくと、奇跡の大逆転が起こることもなくそのまま倒れた。


「っくぅ! ほんとに強いんですね~」

桜は手をグーパーしながら驚嘆のまなざしで僕の指を見つめる。


「桜五人分くらいの力だったら勝負になるかもね」

「小野寺先輩。私に分身の術をお授けください」

「俺はゴザル口調なだけでガチ忍者ではないでゴザル」


次はげんじーと天姉。

これはちゃんと勝負になる組み合わせだ。


腕力だけでいえば天姉はかなり強い。

どっちが勝つだろうか。


今回は桜が審判だ。

二人は黙って互いの手を掴んだ。

二人とも真剣な目をしている。


「す、すごい緊張感ですね。では! レディーゴー!」

桜の合図と同時に二人が力を込める。


「ふん!」

「うおぉぉ!」

二人とも全力で力を入れているようだ。


序盤は天姉が少し押していたが、げんじーも徐々に巻き返してきた。

いい勝負だ。


だがちょっとずつ天姉の方に傾いている。

そしてそのまま押されていき、天姉の手がテーブルにつくことになった。


「グアァ! 負けたぁ! 悔しいっ!」

「はぁー! 勝ったっ。危っぶね! 負けるかと思ったぞ」


「なかなか頑張ったな。相手がげんじーなのに、ちゃんと勝負になってた」

「凄いでゴザルよ」

僕たちは素直に天姉を褒めた。


「さっすがげんじーだなー。まだ勝てんか」

「こりゃあ近いうちに負けるかもな」


ほんとにいい勝負だったと思う。

天姉の努力を感じた。



 一旦煎餅を食べて休憩を挟んだ後、再開することになった。


そもそもの目的が僕とけいの力比べだったことを思い出して、組み合わせは僕とけい、先生とげんじーになった。


「よし。やるでゴザルか~」

「うん」


腕相撲は単純に力が強い方が勝つというわけではない。

ちゃんとコツがあるし構え方もあるらしい。


この前学校についてパソコンで調べてる時にたまたまネットで見かけただけだが、純粋な力勝負じゃ敵わないから試してみよう。


どんなのだったか思い出しながらけいと手を組む。

天姉の合図で僕たちは少しずつ力を入れ始める。


「……えーっと。どんなのだっけ」


忘れた。

何も具体的なことが思い出せない。


「何がでゴザル?」

「この前腕相撲のコツみたいなのをネットで見かけたんだけど」


「へぇー。やっぱりこういうのにもコツはあるんでゴザルね~」


「あるみたいだね。アームレスリングって競技としてあるくらいだし」

「確かにそれもそうでゴザルな」


僕たちの勝負を食い入るように見ながら桜が言った。

「なんか普通に話してますけど、勝負は白熱してますね」

「テーブルガタガタゆうとるな」


「んー。やっぱりなかなか終わらないね。腕が疲れてきた」

「そうでゴザルな」

一分くらい膠着状態が続いたが最終的に僕が負けた。


「力じゃ敵わんな」

「あんまり差はないでゴザルがな。殴り合いだったら多分恭介が勝つでゴザル」


「すごい戦いを見せてもらいました。二人とも二頭筋がボコォッってなってましたね」

桜が渾身の擬音を使って労わってくれた。


「ほんじゃ次はわしらじゃの」

げんじーが手首をくるくる回しながら言った。

「ああ」


げんじーと先生が手を組んだ。

「頂上決戦だな」

「そうでゴザルなー」

僕たちはまばたきを惜しむくらいじっと二人の手を見つめた。


「レディ、ファイ!」

開始と同時にテーブルが軋む。


両者無言。

テーブルの小さな悲鳴だけが聞こえる。


「……ほんっと、桜澄は自慢の弟子じゃの」

げんじーが呆れたように言った。


「そうか」

先生は淡々と答える。


「弟子に超えられるのは師匠として嬉しいもんじゃが、しかし弟子に勝てる気がせんっちゅうのも複雑なもんじゃな」

その時、げんじーの手がテーブルに触れた。

先生の勝ちだ。


「やっぱ先生は強いでゴザルなー」

「んじゃ決勝だね」


決勝はけいと先生だ。

「よろしくお願いするでゴザル」

「ああ」

二人が手を組んだ。


「あーダメでゴザル。これじゃどう足掻いても勝てんでゴザルよ。ハンデが欲しいでゴザル」

「いいぞ」


「じゃあ人差し指でよろしくでゴザル」

「ああ」


改めて先生が人差し指を差し出し、それをけいが掴んだ。


「よーいドン!」

天姉の合図でけいが渾身の力を込める。

先生側に少しだけ傾いた。


「おぉ! すごい!」

「ちょっとだけ押してる! 頑張れ!」

僕たちは声を上げた。


ところが、それからビクともしなくなった。


「ぬうぅぅぅ!」

けいは頑張っているが、先生は涼しい顔をしてる。


少しずつけいが押され始め、ゆっくりと手がテーブルに近づく。


「のああぁぁ!」

けいの頑張りもむなしく、手がテーブルに優しく着地した。


「はぁー。負けたでゴザル」

「でも強くなったな」

「指一本で勝っておいてよく言うでゴザルよ」


誰の期待を裏切るわけでもなく、案の定先生が優勝した。


でも指一本とはいえ少しでもけいが先生を押せたのには成長を感じた。


昔やったときには先生の人差し指は両手を使ってもピクリとも動かせなかった。


僕たちもやはりちゃんと成長しているのだろう。

少し嬉しくなった。

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