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血のない家族  作者: 夜桜紅葉
第二章 準備
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準備

 リビングで柔軟体操をしていたら、けいが得意げにノートを見せてきた。


「できたぞ!」

「あ、物語完成したの?」


「いや、そっちじゃなくて。どんな風に学校で振る舞うかの設定」

「あーそっちか。どんな感じ?」


ノートに書かれた設定を読んでみる。

……。


「えーっと。僕が運動は苦手で勉強が得意。けいは運動が得意で勉強は苦手。僕が優しく真面目で誠実。けいがオタクでバカでゴザル口調……なんだこれ」


他にも色々書いてあった。

「僕の得意教科が数学で、けいの得意教科が道徳って何?」

「そのままの意味だけど?」

「調べた感じ多分高校で道徳の授業はないよ」


僕は最近先生の部屋にあるパソコンを使って学校について色々調べているのだ。


「え、マジ?」

けいは素でびっくりしていた。


「うん。なかったと思う。……えーっと。全部をこの通りにするのは大変そうだし、参考程度にさせてもらうよ」


「おっけー」

「てかこれ絶対深夜テンションで書いただろ」


けいは照れたように頭を掻いた。

「バレた? いや~盛り上がっちゃって。まぁでもあんま身構えなくても周りに合わせてりゃなんとかなると思うけどね」

「そうかもしんないけどさ」


「んーそれにしても高校って道徳やらないんだ。知らんかった」


「多分ないはず。いやそもそも道徳が得意教科ってなんだよ。そんなこと言ってる時点で多分道徳苦手だよ」


「うっそー。倫理が服着て歩いてるような僕が?」

「宇宙人が地球人の模倣して生活してるの間違いでしょ」

「僕は宇宙人ではない。理系だ」


「宇宙人に理系がいないみたいな言い方するな。きっと宇宙人にも理系はいる」


「えぇ恭介って宇宙人とか信じてるの? 今度からスピリチュアル恭介って呼んでいい?」

「やめろ」


この日からけいは自分の設定通りに振る舞えるように練習を始めた。



 リビングで握力を鍛えながらボーっとしていると、けいがまたノートを持ってやってきた。


「僕の学校での設定覚えてる?」

「うん。オタクでバカでゴザル口調だったよね?」


「そう。それで今頭悪そうな話し方の練習をしてるんだけど、ちょっと練習に付き合ってくれない?」

「いいけど、話相手になればいいの?」


「んー。いきなり会話は難しそうだしなー。そうねー。んじゃ恭介が桜と出会った時のことを僕に説明してよ。それを僕が頭悪い感じに言い直す」

「なんかよく分からんけど了解」


僕は桜と初めて会った時のことをけいに説明した。

「なるほど。……おっけー。んじゃいきます。僕が恭介の立場に立って話すね」

「わかった」


けいは咳払いしてから話し始めた。

「この前の話なんだけど、海に行って泳いだ帰りなんだけど、それでその時旅館に泊まってたんだけど、帰ってる途中にうわめっちゃ寒いってなってトイレ行きたいってなって、歩きながらトイレ探してたら公園みつけた! ってなってよっしゃーって思いながらそのトイレに寄るって言ってから公園に行ったんだよね。そしたら公園入ったらなんか足押さえてるってなってる人がいるってなって、その人のとこにいったの。そしたら怪我してるってその人が言ってたのを聞いて助けてあげようって思ってそれで傷の手当てをしたっていうのがその人との出会いってわけ。……どうよ」

けいは得意げに僕の顔を見てきた。


「おー上手いんじゃない? なんか頭が悪いというか説明が下手というか。とにかくいい感じだと思う」

「よし。この調子で役に入り込むぞ」

「ほどほどにしとけよ」


「分かっているでゴザル」

「ほんとに分かってんのかな……」

けいなりに学校に向けて準備しているようだ。



  僕は秘密基地にあるハンモックに揺られながら考えていた。


けいはふざけているように見えるが、少なくとも学校に向けてなんらかの行動を起こしている。


天姉は学校初心者じゃないし日向はなんだかんだ上手くやりそうだ。


何が不安だと具体的に言えるわけではないが、なんとなく漠然と不安な気持ちになる。

ゆらゆらしながら考えていると天姉がやってきた。


「あ、恭介。ここにいたんだ」

「うん。ちょっと学校のこと考えてた」

「ふーん。やっぱり不安?」

「当たり。緊張してるのかもね」


「そっかー。そんじゃ先輩として君にアドバイスして進ぜよう」


そう言って天姉は小学校時代、担任やクラスメイトを敵に回して面倒なことになったというエピソードを語った。


「……ということがあったのだ。だから私からのアドバイスとしては、敵を作るような発言は控えた方がいいってことだね」

「なるほどー。敵を作らない、か」


「まぁ全員と仲良くする必要はないけどさ、むやみやたらに敵対する必要もないでしょ?」


「そうだね。……うん。覚えとくよ。アドバイスありがとね白石先輩?」

僕は挑発するように口角を上げながら天姉を見た。


「私からよく学びたまえよ、佐々木後輩」

天姉もやり返すようににっこり笑ってそう言った。

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