使者会
「おい真冬。ほんとに何もなかったのか?」
「ああ、マジでなんもなかったよ。なぁ冷夏ちゃん」
疑いの目を千草は俺に向ける。疑いを晴らすために確固たる証人である冷夏ちゃんに助けを求めるのだが…。
「あんなことをしておいて…ですか?」
「「あんなこと」」
こいつ敵だ!
「あのね冷夏ちゃん。こんな公の場でそないなことは言うもんじゃあなくってよ」
そう。俺達は昼食も兼ねてファミレスに来ている。ここの辛めのチキンがうまいのだ。
「ええ、そうですね。ごめんなさい…真冬」
「情感持たせて名前呼ぶなって!」
なんでわざわざ頬赤らめてうつむきながら上目遣いでこっちを見てくる。なんだ、その雰囲気夜に出してくれてたら既成事実の一つくらい作ったぞコラ。
一通り食事を平らげ誤解を解きつつ店に出る。
真夏の日差しが汗をにじませ、蝉時雨が余計鬱陶しく感じられる。風物詩なんて言葉を考えた奴ははるか秋に考えたんだろうな。
「んじゃ俺は一足先に家帰って寝るわ。お二人さん楽しんで」
「ん」
「千草さんお気をつけて!」
冷夏ちゃんはその華奢な腕を折れるんじゃないかというほどブンブンと振り金髪チビを見送った。
「んじゃ次どこ行く?行きたいとことかあったらつれて行くよ」
「よくわかんないです…。楽しいところが良いですね」
そっか。そりゃそうだよな。聞くところによるとこの子は家の敷地から出たことがないらしい。だから遊びも知らなくて当然だ。それなら…。
「ゲーセン行くか」
「いきます!」
この響きに反応しないわけないもんな。ということで現在いる駅の近くから五百メートルほど離れた場所にあるゲームセンターに向かうことにする。
「それにしてもお外って暑いですね」
「ねー。喉乾いてない?」
「まだ大丈夫です」
「おっけ。乾いたら言ってね」
他愛もない会話を交わしゲームセンターに向かう。すれ違う営業に回ってそうなサラリーマンや学生などみんな顔に気迫がない。暑いもんなぁ…。
「こっち」
「え?こんなビルの隙間から…」
「こっちからのが近いんだよ」
ビルの谷間を潜り抜けて進んでいく。ここは日陰だしこんなクソ暑い日にはちょうどいい。
角を曲がろうとしたときだった。
「いって」
何かにぶつかって尻もちをついた。結構でかいけどそこまで固くないもんに…。
顔を上げると黒服サングラスのいかにも成金グループの下っ端みたいなやつが立っていた。身長は百八十以上ある俺より一回り大きい男だった。
「あ、すんません。冷夏ちゃん、怪我無い?」
「あ…ああ…」
震えてる。俺は彼女の様子を確認して察知した。この子の敵だ。俺はとっさに振り返り彼女の手を掴み、後退しようとする。
「行こう。冷夏ちゃん」
「柊真冬さん。その手をお放しください」
なんでこいつ俺の名前知ってんだ。
後ずさりをやめ対話を試みる。
「あんた何者だ」
「お嬢様を連れ帰るように命令されたものです。さ、帰りましょう」
黒服が冷夏ちゃんの腕を掴もうと手を伸ばす。俺はその手をぱっと払いのけ、手を引き二歩後ずさる。
その態度に腹を立てたのか先刻より表情が険しくなる。
「冷夏ちゃん。帰りたい?」
彼女は震えながらも首を横に振る。その大きな瞳の端っこには小さな涙がたまっていて、イケメン真冬くんは見逃すわけがないのだ。
「能力使って」
「え…でも」
「ほんの一メートルでいいから広げて」
「何を言っているんです柊真冬。どこまで知っているかは分からないがそんなことをしてもその場しのぎにしかならないんです。あきらめてこっちに」
俺たちの有利なところは俺が冷夏ちゃんのバリアの中に入れることを相手は知らないこと。これをフルに生かす。
「能力は心理状況に影響される。お嬢様のその様子を見ると、とてもではないが使えるとは」
確かにひどくおびえている。俺だってこんな大男ににらまれてたら怖いよ。けど、こんなにおびえる彼女がとても愛おしくて、カッコつけずにはいられないのだ。
彼女の背中に両腕を回し、優しく、そして力強く抱きしめて背中をさする。
「落ち着いて。俺がいる」
「…………ありがとう」
その瞬間青白いバリアは一瞬にして展開されていき黒服は弾き飛ばされる。それを見た瞬間に冷夏ちゃんを担ぎ上げて表道路に走り出す。
バリアを一瞬で解いてくれたおかげでスムーズに走り出すことができた。
「ここにサングラスの変態がいまァアアす!イチャイチャしてるとこ覗き見してきましたぁアアア!」
「真冬!訂正を!」
ククッ日本の治安を舐めるなよ!この状況を大勢の人間が見てなんて思うかな。
「助けてくださぁああい!個人ストーカーに襲われていまぁああす!!」
「真冬!ダサいです!」
頼れるものは頼ろうぜせっかく法治国家に生まれたんだからさ。
しかし、こんな大声を出しているにもかかわらず誰もこっちを見向きもしない。っていうか、なんか暗くね?
空を見上げるといつの間にやら真っ黒な雲?が空を覆っている。黒、というのはそのままの意味で真っ黒なのだ。墨汁たらした綿菓子的な。
一目散に走っていると、また何かにぶつかった。広い歩道を走っていて障害物はないはずなのに確実にそこにあるなにかにぶつかったのだ。
「きゃっ」
「うわっ!」
すっ転んで地面に身を投げ出してしまう。肘擦れたいったぁあ…!
なんだ…マジで!
「哀れなものね。純血」
聞きなれない女の子の声が聞こえて、声がした方向を見ると…。
女子高生?黒のブレザーに黒のシュシュに黒のマニキュアに…。絶対こいつがなんかこの変な雲作ったやつだ!だって黒だもん!
顔はマジで冷夏ちゃんに負けないくらい可愛いけどちょっと怖い。ギャルっぽい。
「イチゴパンツだ!パンツは黒くないんだ!」
「柊!貴様は黙っていろ!」
イチゴパンツに顔面蹴られたいったぁい!でもそんな短いスカート履いている方が悪いと思います!
「さ、純血。大人しく殺されなさい」
黒女が右手を空に向けると黒い霧状のものが続々と集まってきて、中から刃渡り五十センチほどの刀が出てきた。シンプルなデザインでかっこいい!
「誰が殺されますか!イチゴパンツ!黄ばんでましたよ!」
「なわけあるか!!殺す良し殺す今殺す!」
「冷夏ちゃんバリア!」
「はい!」
俺の合図で冷夏ちゃんは再び能力を使用する。冷夏ちゃんの目はバリアと同じ色に発光している。この色になればもう安心だ。
…あれ?
「能力が…でない」




