紳士とは
「だァアアアくっそうめぇのかよ!最風こすんなぁ!」
「アハハハハ!逃げなさい横スマおぢさん!」
こいつ!このゲームやりこんでるなッ!
聞くところによると冷夏ちゃんは自室にこもる時間が長くゲームをやる時間がかなり多かったらしい。変態知識は付き人が教え込んでくるんだとか。
ということで知識偏り重度のゲーマーお嬢様が誕生したわけだ。
「くっそ!わざわざ回避読んでからバーストさせてくんな!」
「わたわたしてみっともないですね!さぁこの即死コンボで終わりです!」
「ぐぁあああああ!」
食べ終わった食器に水を付けている間暇つぶしにと思って始めたゲームが、想像より白熱してしまい、気がつけば日をまたいでいた。
格闘ゲームをしていたのだが、これが何をしても勝てない。キャラをランダムに選んでも大体負ける。本日の対戦結果は五十五戦三勝五十二敗。なんだこれ。
「だーくっそやってらんねぇええ!もう寝る!」
「もー寝ちゃうんですかー?真冬のざーこ」
「興奮しちゃうじゃないか…♥」
「無敵かこいつ…!」
リアルで夜の大乱闘してもいいですからね。ええ。
今日のゲーム大会はお開きとなり、机をずらして一人分の布団を敷く。あ、そうじゃん一人用じゃん。
「ちょっとシャワー借りていいですか?」
「一緒に入る?」
「遠慮します」
冷夏ちゃんはくすくすと笑いながら風呂に向かっていった。着替えはさっき俺のジャージ渡したしバスタオルも風呂場にあるし、大丈夫かな。
そこからしばらくソロでゲーム練習をしていたのだが…。
「あ」
やっべぇふと思い出した。そうだよ忘れてたよ。
すっかり忘れていたけど俺の同居人は今どこで何しているんだろう。床に転がっているスマホを手に取り連絡アプリを開く。不在着信が三件そいつからあった。
「怒ってんなこれ」
嫌々折り返して、しばらく待機する。
「あ、どもー」
『どもーじゃねぇよ殺すぞ』
そうですね。この声はわが友ちぐーさです。あいつとは一緒に暮らしているのでここにあいつも帰ってくるのだ。
「今どこにいんの」
『駅のホーム。事情徴収とかも終わって帰るところだよ』
「ウケる」
『殺すぞ!ふざけんなよてめぇ今どこにいんだ迎えに来いや!」
ほんとだ駅のアナウンスが聞こえる。電車も止まってるだろうしタクシーとかで帰ってくるのだろう。
「今家。昼間の女の子いる。今シャワー浴びてる」
『!!…そういうことか?』
「ああ、そういうことだ」
『やるんだな!?今、そこで!』
「ああ、そういうことだ」
二人の間に静寂が訪れる。
『幸せに暮らせよ…。ド田舎の種馬』
「だれがじゃ」
通話がぷつんと切れて、静かな部屋にシャワーの音だけが聞こえてくる。
もっといろいろ聞きたいことがあったが、なんだかんだお人よしで善人の千草がけが人や死人の話をしなかったってことは、その点は大丈夫だったんだろう。
けが人ゼロってことはないが、人の命救うためにした行動だし、人殺してないなら知ったこっちゃない。
俺は俺が正しいと思ったからやっただけだし、責任取れって言われるなら取るけど、そのくらいの事故状況なら詫び入れるくらいさ。
なんて都合のいい言い訳を考えていると、ドライヤーで髪を乾かしている音が聞こえてきて慌ててテレビをつける。なんか女の子がいるの気にせず私生活送っていますよアピールをしなければいけないと思ったのだ。
「はーあったまりました。真冬も入ってきます?」
「そうするよ。先に寝てて」
「わかりました。お茶いただきますね」
「あいよー」
冷夏汁ぐへへ。
風呂から上がり、ドライヤーはせずにバスタオルで髪を乾かす。風呂場を出てすぐそこにあるキッチン、冷蔵庫を開けて口を付けないようにペットボトルのお茶を飲む。
目を瞑ってでも行えるだろうこの行為。しんとした暗がりで暖色のライトのみの明かりで照らされている部屋のなかで、安心感が満ち満ちている。
いつもならね!手が震えてお茶ちょっとこぼしちゃったよ!だって俺童貞だもん!彼女出来たことないもん!女の子いるもん!
忘れもしなかったさ!紺色のパッとしないジャージが、彼女が切ると途端にどえっちになるんだ。知ってるか?あの乳のでかさだとひだりうえにあるロゴがちょっとへにゃんってなる。
どんな体勢でどんな寝息でどんな風に眠っているんだ。西ノ宮 冷夏。
震える手でドアノブを握りいざ暗中模索を開始する。
「………」
部屋のど真ん中で一人分目一杯敷き詰められた布団の上に、掛け布団もかけず枕も使わずちょこんと縮こまって冷夏ちゃんは眠っている。
俺のために取っておいてくれたのか。なんていい子だ。少しざわついていたリトル真冬は落ち着きを取り戻し、元来の意味である紳士となった。
掛け布団を冷夏ちゃんにかけておこぼれに少しだけ入り、枕は使わずに寝転がる。ちなみに居候の分際である千草はキッチン兼廊下のスペースに座布団敷いて寝ているが、俺はそんなことして寝たくないのでここで寝る。
女の子いるのに隣で寝ない馬鹿がどこにいる。
冷夏ちゃんは俺とは反対の方向を向いて眠っており、俺の眼前には白銀の透き通ったようなさらさらの髪の毛がある。なんかすげぇとぅるとぅるで良い匂いしてくる。
いや違うから直嗅ぎはしてないから!
にしてもスタイルええなぁ腰のくびれもケツの大きさも美しいバランスで…。
「がおー」
「うわぁ!?」
びっくりしたぁああ!ケツ見てたら冷夏ちゃんがバッと振り返ってがおーって!
「あはははは!大成功です!あはははは!」
「ビックリさせんなよ!しょんべんちびるかと!」
「あはははは!……どこ見てました?」
情緒更年期かこいつ。
「えっと………魅力的な甘美なるお尻を…」
「うるさ」
「すみません」
冷夏ちゃんはむすっとした顔でこちらをじっと睨んでくる。いや距離ちか!十センチちょいしかないだろ距離。
クラスの女子なら目を背けるような状況なのに、あまりの瞳の美しさに目を奪われる。
「なんて、そんなに怒ってないですよ?」
「お、おお…」
クシャッとした笑顔でそんなことを伝えてくる冷夏ちゃん。小悪魔的すぎる。でもそれよりさっき歯磨いたけどこの距離だと口臭の方が気になる!冷夏ちゃんはどこからでもいい匂いするな!!夢か!夢かこれ!!
「なら見てもいいんですか」
「いいとは言ってないです!今日の分はもうおしまい!」
なんだそりゃ期待させやがって!
「真冬はロリコンなんですね」
「ロリコンではないが。俺はただ君の体にしか目を向けて…いやすまんなんでもない」
「最悪です!この男最悪!」
誤解だ。まじで。繕おうとして良いところを上げただけなんだ。
少しだけ冷夏ちゃんは俺から距離を取る。可愛い顔で睨みつけられてもなんとも思わないが、距離を取られると二ミリくらいしょげる。
「もう俺女の子とこんな風にとまったりするの初めてだからどうすりゃいいか分からんのよ。意識するなって方が無理だし」
そう告げると、彼女は数瞬固まってからフフッと笑いまた少しだけ…さっきよりほんの少しだけ近づいて俺の手に自身の手を添えてくる。小さくひんやりした感触が手の甲に伝わり、柔らかく優しい感触に思わずドキッとする。
「真冬は顔は中の上くらいだし、身長は高いけど変態だし、ゲーム下手だし」
「おおなんだ急に悪口か」
「違いますよ」
「けど、女の子をむげに扱うような人じゃないことは、そのまだ濡れた髪を見れば伝わります。私が寝ていると思って使わなかったんでしょう?」
まぁ、それはそうだが…そうじゃない。
女の子は無下に扱う時もきっとあるんだよ。扱わないのは君が美麗で優しくて守りたくなるからってだけなんだ。
なんて言えない俺は、静かにほほ笑むしかなかった。
「真冬、枕使わないんですか?」
「ん、ああ。俺だけ使うのもな」
彼女は体を起こし四つん這い歩きで枕の元まで行き、枕をこっちに投げてくる。
「使っていいですよ。私はこれ使うんで」
布団に戻ってきたと思ったら俺の腕をつかみ、腕枕にしてきた。
「髪の毛サラサラすぎん?」
「ありがとうございます。痺れたらどかしていいですからね」
「…ん」
結論から言うと俺は一睡もできなかった。




