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止まりそうな鼓動

 八月二十九日。夏休みももうすぐ終わるこの日。間違えなくこの俺「柊 真冬」の人生を…いや、世界の運命をも変えてしまう、そんな出会いがあった。


 


「あーセミうっせ!」

 誰もいない部室で熱さに対するイラつきを交尾するのに必死なセミらにぶつけてみる。こんな暑いのに交尾しようとすんなよ普通に。あほかバカ。


 俺が所属している部活は「ボランティア部」。ボランティア精神を培うため校内及び地域への慈善活動を行う部活である。

 ということを建前にサボりたい奴が集まるオアシスだ。


 今日は校内清掃を行うと先輩に招集されたのだが、先輩含む他の部員の三人は一向に集まって来ない。


「あんにゃろうふざけんなよ。もしかして俺一人に押し付ける気か…?」

 社会不適合者予備軍の奴らにイラつきながらも、ものすごくまじめで優しい真冬くんは掃除をするために部室を出て、清掃場所に向かうのであった。




「んー…やっぱりえっちですねぇ」


 俺のつぶやきはセミにかき消される。ありがとうセミ。


 どこを掃除しているかと言うと、学校の少しはずれにあるプールだ。夏ってほんとにいろんな虫の死骸とかあるからね。お掃除しなきゃ。

 その過程で女子水泳部の活動がチラ見えしてしまうのは、致し方ないことだろう。

 ほどほどに見学したらお掃除を始めようかな。


「いやガン見してんじゃねぇよ」

「うわぁビックリしたぁ!」

 外のフェンスにセミのようにひっついて見学していたのだが、後ろから声をかけられ事尽きたセミのように地に落ち、尻もちをつく。


「驚かせんなよ千草!」

「うるせー部室で待ってないチミが悪い」

 この金髪のチビは「真行寺 千草」。金髪の癖に髪の毛がサラサラで女を意識しているムカつく男だ。一応どっかの外国人の親を持つ青目のイケメンハーフ。


「てめぇがおせぇからだろそんでなんでここが分かった?」

「お前みたいなやつの考えは手に取るようにわかる」

「うざきしょ」

「ちぃかわの対極なん俺」

「可愛いよ千草は」

「もう///」

 尻についた砂を払いながら立ち上がる。じんわりと滲む汗をぬぐいながら部室への帰路をたどる。


「先輩は?」

「あいつら二人で飯行ってるよ。来るときラーメン屋いた」

 許せねぇなあいつら。


「んならもう帰るか」

「せやね」

 活動なんてほとんどしたことないからね。

 



 さっさと荷物をまとめ二人で学校を後にする。くだらない会話を交わしながら進んでいると駅までついていた。


 駅員に切符を渡し改札をくぐりホームに出る。道中も思ったが平日のこんな時間は人が少ない。部活終わりの学生っぽいのが数人ぽつんといるだけだった。


 いや、一人だけ違う。


「おい、あの子…」

「ああ、あの子…」

 クソ可愛いな。


 ぱっと見は俺達と同じくらいだろうか?しなやかな銀色の長髪をなびかせ、凛としてたたずむ一人の少女。他の学生と比較しても群を抜いて目を引くほどの可憐さだ。

 スタイルも良いし童顔だが顔も整っていて反ルッキズムの精神を持ち合わせている俺だがなんだろう付き合いたい。


「…けどなんであの子パジャマなんだ?」

「あつそう」

 そう。もこもこでピンク基調の白い水玉が入っている長袖のパジャマを着ている。ああいう服着る子すんごい可愛いし良い匂いするってシェンロンが言ってた。


『一番乗り場に間もなく電車がきます。黄色い線の内側でお待ちください」

 静かなホームで音質の悪い放送が流れる。


「あの子外国人かな。日本語わかってない?」

 千草の疑問で気が付いたが、黄色い線を優に越えている場所で立っている。ありゃあぶねぇな。


「ちょっと注意してくる。あぶねぇし」

「おーう落ちんなよ」

 不吉なこと言うな。


 にしても彼女、なんか目が虚ろじゃないか…?

 日本語で話しかけても分からないと踏み、ジェスチャーで伝えることを試みる。が、こちらに気付く素振りはなく、肩に触れようと手を伸ばした時…。

「え?」


 彼女が視界から消え、ドサッという音がした。一瞬脳みそがバグり呆然としたが、電車が近づいてくる音でハッとする。

「真冬!」

「…っ!」

 女の子が線路に落ちた。


「おいおいまじか!」

「きゃああああああ!」

 静寂に包まれていたホームは一気に阿鼻叫喚の発生源に変わった。


「真冬下がれ!」

 千草に腕をつかまれひきよせられ、二歩ほど後退する。よろめきながらもなんとか起立を保つが…。動揺が隠せない。

「電車くるぞバカ!」

「あ、ああ…」



 呆然としながらなぜか腕を振りほどいて、俺は線路へと降りる。

「おいばか!」


 電車は速度を緩めることなくこちらに向かってくる。いつもはうるさいなぁくらいにしか思っていなかったあの轟音が、こちらに向けられている恐怖に足がすくむ。


「おい起きろ!おい!」

「………」

 女の子の額には汗がにじんでおり顔も真っ赤だ。さっき凛としてたっていうよりぼーっとしてたのか。

 見るからに脱水症状で動けない女の子と俺をどうやって生還させようか!


 やっべぇあと十秒くらいで衝突する!

 急ブレーキのせいでいやな金属音がなり耳が壊れそうだ。あーもうなんでこんなことしてんだ俺!!


「うるぅああああああ!!!」

 女の子の腰と首元に手を回し火事場の馬鹿力で持ち上げる。持ち上げたはいいもののどうしよう!この子をまず助ける!けど思ったよりさっきいたところと線路って高さに差があるな!?

 あんまり持ち上がんねぇええ!



「真冬ッ!!」

「千草ッこの子をたの」

 千草が手を伸ばそうとしているのを視認した次の瞬間、俺の視界は大空を見ていた。

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