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第四話☆パンクバンドとぬいぐるみ☆

あと残り二回分、ボチボチ頑張ります。

第四話☆パンクバンドとぬいぐるみ☆




パンクロッカーたちのマネージャーは、思った。


「この人たちと心中するなんて考えられないこと!」


パンクロッカーたちのマネージャーは、若く、美しい女性である。


パンクロッカーたちの女子の魅力的なマネージャーは、自分からは口に出すことをしないが、周りの意見として彼女が面倒を見ているこの年を食ったパンクロッカーたちよりも才能に恵まれ、売り出すのも手間がかからないように思えた。


「彼女も、パンクロッカーたちのためにやれることは十分にやってきたわけだし、自分の将来のことを考えてこれから私たちは自分たちのそれぞれの目標を目指して、別々に頑張って生きるようにした方がよいね」


つまりは、


「見切りをつけるには今が最高の頃合いかもしれないわね。今ならお仕事の話はいくらでもあるわ。こちらがマネージャをつけてもらいたいほど」ということである。


一度ハッキリとけじめを付けなければ、若い女子のマネージャー、老いたパンクロックバンドとの腐れ縁的なつながりは、だらだらと必要以上に続いていき、若い女子のマネージャーの将来にも悪い影響を及ぼしそうに見えた。


彼女自身でさえ、最後にはこんな風に決心した。


「往生際の悪い人たち! この人たちに、キチンと宣告して、思い知らせてあげなければ!」


パンクロッカーのマネージャーがこのように結論を下したとき、いつの間にか彼女の前に立ち、彼女の顔をのぞき込んでいる原田の存在に気がついた。


原田というのは、これこそ、彼女がマネージャーを務めている問題のパンクロックバンド『一年花組』のリードボーカリストであった。


原田は、不躾ぶしつけにも、若くて魅力的な女子のマネージャーの顔を覗き込んだまま、いつまでも、彼女の顔面のあちこちに視線を向けたままである。


このパンクロックバンドのマネージャーの心にぶしつけな視線に対して、怒りがこみ上げてきた。


ところで、このパンクロックバンドのマネージャーは、バンドのメンバーから志津香と呼ばれていた。


原田が、あまりにも志津香から視線をそらそうとはしないので、志津香は、大爆発も秒読みの段階に入っていた。


* *



その日、志津香は、マネージャーをやっている年寄りのパンクロックバンドに対してお別れの宣告を行うために、ミーティングルームでの会議をセットしていた。


先ほどから、このミーティングルームには、パンクロックバンド『一年花組』のメンバー全員と、マネージャーの志津香がすでに集まっている。


マネージャの志津香は、いつまでもガンミをやめない失礼なリードボーカルの原田に言った。


「なんですか、失礼じゃないですか。こんな近くで人の顔をじっとにらみ付けているなんて、『一年花組』の皆さんには、今日は私から大事なお知らせをお伝えするためにここに集まってもらったです」



      *      *



パンクロック『一年花組』のリードボーカリスト、原田は志津香の顔をじっと見ていた。原田は、あまりの驚嘆のせいで、志津香の顔から目を離すことが出来なかった。


リードボーカリストの原田は、マネージャーの志津香に言い返すことはなかった。原田は、それでも志津香の顔をガンミすることを止めなかった。


ミーティングルームを支配する緊張感の中、リードボーカリストな原田はつぶやいた。


「なんで俺は、こんな大事なことにこんな長い間気づかずにいたのだろう? 俺たち『一年花組』というパンクロックバンドのマネージャーは、まさにあの時のあの女そのものだということか? あのとき以来、あの女に再会するようなことがあったら、ひとこと言いたかった」


原田は、そう言い終わると志津香をガンミすることをやめた。


原田の言いたいことが、志津香に伝わった。



      *      *


何年も前のことだった。その頃には、パンクロックバンド『一年花組』は、すでに結成されていた。とはいえ、バンドのメンバーには、夢はあってもなかなか思い通りには行かないことの連続のバンド活動であった。


バンドのメンバーや友人たちは、暇になるとあるゲーセンにたむろしていたものだった。


原田は、ある日、そのゲーセンに何の当てもなく、暇つぶしのために訪れた。


ゲーセンにも、その頃、クレーンゲームがあって、そのクレーンゲームの中には、たくさんの景品が並べられていたのだが、そのクレーゲームの中のいかにもとりづらそうな位置を選んで、特賞の景品に相当する三個の熊のぬいぐるみが置かれていた。そして、店の主人は、毎日なんども、その三個のぬいぐるみを位置替えして、万が一にも、その三個の熊のぬいぐるみが、客の手に渡らぬように、常に心配りをしていた。


熊のぬいぐるみは、その位置のおかげか、ほかの景品が、入れ替わっていっても、その三個の熊のぬいぐるみは、そのクレーンゲームの中に居続けていた。


原田は、その日、いつものゲームセンターにやってきて、とんでもないことに気がついた。


クレーンゲームの中に、これまでずーっとあった三個の熊のぬいぐるみのうちのなんと二個が姿を消していたのだ。


そして、クレーンゲームの中には、三個のうちの残った一個の熊のぬいぐるみがまだあった。


取り残された熊のぬいぐるみも、いつもとは違い、容易にクレーンでとれそうなところに置かれていた。


原田は、何も考えずに小銭を探してポケットをあさった。そして、原田はありたけの百円玉を投じて、この特賞の熊のぬいぐるみを手に入れようと、クレーンゲームにチャレンジした。原田は、手持ちの百円玉ではこの特賞の熊のぬいぐるみを回収することは出来なかった。原田は、この熊のぬいぐるみをクレーンゲームから回収するために、さらに何枚かの千円札を使うことになった。


結局は、原田の執念は実り、熊のぬいぐるみをクレーンを使い、回収のための穴に落とすことが出来た。


原田は、景品の取り出し口から、景品を取り出そうとした。


原田が景品の取り口から、熊のぬいぐるみを取り出そうとしたときのことである。原田の背後にいた影が、原田に気づかれぬようなスムーズな足取りで、クレーンゲームに近づくと、景品の取り口から、原田に先んじて、その特賞の熊のぬいぐるみを取ると、ゲームセンターの出口めがけて一目散に逃げ出したのである。



      *      *


パンクバンド『一年花組』は、はじめの頃は、思いのほかうまいスタートを切れたように思えた。


しかし、よかったのは最初の頃だけであり、「こんなはずではなかった!」 と思ってしまうような出来事がパンクロックバンド『一年花組』には頻発した。


「こんなハズではなかった」が、このバンドメンバーの口癖であるのだが、ほんとうに、それまで見えていると確信していたものが、何かボンヤリとした、あやふやなものに思われるようになったのだ。


パンクロックバンド「一年花組」のメンバーは、とある気になることについて何度も話し合っていたに違いない。自分たちに降りかかってきた不幸、この不運の原因について。


そして、今、メンバーは、気づいのだ。


志津香が、あの女ソックリだということに。


確かに、リードボーカリストの原田の言うとおりだった。


志津香の姿は、志津香の姿が、ドンドンとあの時の「クレーンゲームに宿る女神めがみ」に見えてきた。


それは、パンクロックのバンド「一年花組」のメンバーたちの心を打ち砕いた。



* *


パンクロックバンド「一年花組」のメンバーは、互いの顔を見返した。


パンクロックバンド「一年花組」のメンバーは、以心伝心の会話を行うことができた。


メンバーは、全員同じ思いであったのだ。


その思いは、次のようにまとめることができる。


* *


あの時、ゲームセンターのクレーンゲーム、原田君がやっとの思いで手に入れた特賞の熊のぬいぐるみを、クレーンゲームの景品の取り出し口からひったくって逃げ出した女がいたよね。


あの時、引ったくっていった女を追いかけて、ついにはその女に追いついた。そして、捕まえた。


驚いたことに、捕まえた女には、全く悪びれた様子はなく、さらに驚いたことにそのひったくり女は、自分のことを「クレーンゲームに宿る女神めがみ」と名乗ったことだ。その時のひったくり女は、とにかく、堂々としてそれが印象的だった。


彼女は、自分が持っていたショッピングバッグから、熊のぬいぐるみをひとつひとつ、順に1個取り出しては仕舞い、3個取り出した。その3個の熊のぬいぐるみは、見かけはほとんど同じにみえた。ただ、3個の熊のぬいぐるみは、それぞれ可愛らしい蝶ネクタイをしていた。その蝶ネクタイは、金色の蝶ネクタイと銀色の蝶ネクタイと銅色のネクタイがあり、その蝶ネクタイの色で、3個の熊のぬいぐるみの区別がついた。


さて、この「クレーンゲームに宿る女神めがみ」と名乗る女性は、俺に、俺に向けて1個1個指し示しながら、俺にきいてきた。


「あなたたちが、私に、引ったくられたという熊のぬいぐるみはどれ? 金の蝶ネクタイの熊のぬいぐるみ? それとも、銀の蝶ネクタイの熊のぬいぐるみ? それとも、銅の蝶ネクタイの熊のぬいぐるみ?」


俺は、原田君が熊のぬいぐるみ取ろうとクレーンゲームで奮闘していたその様子をズーッと原田くんのすぐそばで見守っていた。だから、女によって引ったくられた熊のぬいぐるみは、銅の蝶ネクタイのぬいぐるみだと、分かっていた。


そうだ、あの時、正直にあの女に銅のネクタイの熊なぬいぐるみと伝えて、銅のネクタイのぬいぐるみを返してもらえばよかった。


* *


「今更、後悔をしてみたって始まらないこと」


「しかし、『こんなハズではなかった』の全てがここから始まっているような気がする」


「俺たちは、こんなものではなかったハズだ」


バンドのメンバーの頭に、あの時の情景がよみがえってきた。


「クレーンゲームに宿る女神めがみ」と言う女性が現れた。


そして、熊のぬいぐるみを一個一個差し出して来た。


「あなたたちに、熊のぬいぐるみを返して差し上げましょう。だから、教えてください。」


あの日の情景と全くそのままの情景だった。


「この金の蝶ネクタイのクマのぬいぐるみを銅の蝶ネクタイのぬいぐるみに交換してください。そして、できることならば人生をもう一度、ここからやり直させてください」


過去の幻に、懇願こんがんしても、もう終わったことは取り返しがつかない。


しかし、それは、彼らの正直な気持ちであった。


* *


志津香は、自分がマネージャーを担当しているパンクロックグループ「一年花組」のメンバーたちが、涙を流しながら懺悔ざんげする姿を、覚めた目で見守っていた。


十分な時が過ぎた。


沈黙を破って、思いもかけない言葉が志津香の口をついて出た。


「本当にそこに気づいてくれたら、やり直せるかもしれない」


同時に、志津香は、驚いた。


志津香の心の中にこれまでズーッとあった、パンクロックカーたちに対してあった、苦々しいわだかまりの塊が、この時、志津香の心の中でスーッと消えていったからである。


私って、「クレーンゲームに宿る女神めがみ」? 志津香は、そう思うくらい悟ったような気分になっていた。


確かに、理屈はハッキリしないが、志津香は、そんな気持ちになった。


fin


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