リメイク第二章 拳を突き上げるは王に刃向かう者達
「はぁ、はぁ・・・」
俺、今息してるよな?あれ?俺今、どうなってんだ?
「はれ?」
俺は呼吸を思い出した瞬間、全身の力が一気に抜けて、地面に座り込んでしまった。
「あ、あの誰か・・・俺って今生きてるッスか?」
とりあえず誰かに助けを求めてみた。
「生きてはいる。しかし、助かったとは言い難いかもね・・・」
答えたのはサムさんだ。
「そうね、寿命が少し伸びただけって捉えた方が良いかもしれないわ」
「あいつ、三上・・・あれなんなんだよ。あれ、人間なんスか?あのなんつーの?見られてるだけなのに、精神をとろろ芋みたいにすりおろされた感じッス」
「それがあのミカミ国王だ、いついかなる時でも我々を見ているぞ、奴の言葉は常々この世界の住民たちをそう思わせる。だから我々『反逆者たち』に参加する者は決して多くはないんだ。反抗する事を考えてる事も、奴の前に出てしまえばその全てを見透かされてしまう」
「それッスね、何もかも見透かされた・・・そんなチート野郎が俺たちの世界にいたの?あれ本当に人間なんスか?」
「それはもう分からない。けど、君はその人間かどうか分からないレイに勝たなきゃいけないから」
会話の間に入り込むように、グレイシアさんが入ってきた。
「みんな大丈夫?」
「はい、私はなんとか。しかし、グレイシア様が我々に協力するとは驚きです」
サムさんは起き上がって敬礼した。
「だから、様はいやだから・・・レイは、もういない。私が愛して、求めていたあの人はもう戻らない。あのレイは殺してあげなきゃ、ダメだから」
グレイシアさん、拳を何度も握り直してる。その覚悟って、どれくらい辛いんだろ・・・俺には分からないけど、家族をその手で殺す気って事?ダメだ、より理解出来ない。出来ないけど、この人にそんな思いをさせたあの男・・・許せない。
俺のはらわたが煮えくりかえってきた。さっきまでビビり散らかしてたけど、あいつだけは一回痛い目見させなきゃ気が済まない。
「そうッスねグレイシアさん。俺、やるッスよ・・・触らぬ神に祟りなしって言葉はあるけど、俺はどうやらその神を触っちまったらしい、俺が勝手に飛び出してみんな巻き込んだ俺の責任ッス・・・」
「いずれはこうなっていた事だ。君が気にすることではない」
サムさんは気を利かせてくれたけど、俺は話し続けた。
「けど、それ以上にあいつに触れちまった事で俺の中にどうしようもなく怒りが込み上げてきた。何が何でもあいつをぶちのめしてやる、協力させて下さいッス!!」
「・・・よし!まぁこの先どうなるのかはまだ全然分からないけど、今を悔やんでも仕方ない!!反逆者なら反逆者らしく、いっそのこと正々堂々とミカミに反旗を翻そうじゃないのよ!!今こそ『反逆者たち』が立ち上がる時よ!」
そしてシィズさんも立ち上がった。
「そうだなシィズ。改めて我々はあなた方を『反逆者たち』に迎え入れよう。私は一応代表のサム・ヨゥ。表向きは警官として生きている」
「改めて、私はシィズ・ナナ『反逆者たち』の中では参謀ってとこかしら。表向きはサクラ君の知るように救急隊をやってるわ。治療なら私に任せて」
二人の自己紹介が終わった。後は・・・
「グレイシア ダスト・・・現在、無職・・・」
あぁ、三上裏切ったって事は専業主婦だった人がいきなり離婚した感じか。て、待てよ?俺は・・・
「俺、坂上 レイノルド 桜蘭ッス。こっちにくる前は大学生でしたけど、今は無職ッスね」
俺も無職だ。
「ま、今は仕事なんかやってる場合じゃないわよ。あんな事したからには、私たちも全員無職にならざるを得ないわ。みんな無職って事で」
「まぁそうッスね」
「よし!なら一旦アジトまで帰ろう!!」
シィズさんは元気にアジトへ戻ろうとした。そして俺も立ち上がれ・・・
「へな?」
どしん・・・俺は尻餅をついた。
「あ、やべ・・・シィズさん、多分俺・・・まだ俺腰抜かしてる」
立てれん・・・あまりに緊張してたから、いまいち力が入らない。
「あれま」
「・・・・・顔面殴れば良いと思う」
「なんで!?」
グレイシアさん、いきなり物騒な事言わないでよ。
「殴れば、飛んでいくから・・・」
グレイシアさん、俺の勝手なイメージでクールビューティーな人だと思ってたけど、多分違う。ど天然&ドSだ。
「・・・冗談?」
なんで疑問系なのグレイシアさん。でも一応は手を差し出してくれた、読めねーなこの人。
俺はグレイシアさんに担がれて、サムさんとシィズさんと一緒にアジトへと戻った
「よし、何とか戻ってこれたわね」
アジトへの帰還は難なく行った。
「もう家には帰れないだろうな・・・これからはここが家になるだろう」
サムさんの言葉がなんか刺さった。こうしてしまったのは俺の責任だからな。
「本当、すんませんッス・・・」
「いや、気にしなくて良いよ。それより、これからどうするべきかを考えよう・・・ミカミ国王は次、何をしてくるか」
サムさんは一人考え出した、俺も考えてみよう・・・そもそも俺がここを飛び出したの理由って、この異世界のギャップと孤独感が突然噴き出して、それに耐えられなくて俺は飛び出した。そこに至る前、俺たちは何しようとしてた?
「あ、あと2人」
俺はボソッと呟いた。
「そうだな、次狙われるとしたらあの子らだ・・・」
あ、サムさんは普通にそれのこと考えてた。俺は俺の事で頭がいっぱいで俺と同じ存在があと2人もいた事を忘れてた。
「・・・二人?」
けど、そこに疑問を浮かべたのはグレイシアだ。
「あ、グレイシア様には教えてませんでした。と、言う事はミカミもそれを知っていない?実はサクラ君以外にも異世界から来た者がいるのです、それがあと二人、つまり合計三人の異世界の人間がいます」
「それは、多分レイも知らない・・・レイは何故か知ってた、新たにこの世界に来るものが現れるって。でも、三人なんて言ってなかった」
やっぱり、あいつが俺をこの世界に寄越した張本人って訳か・・・けど、俺以外を知らないってのはどう言う事だ?
「て事は、このピンチは絶好のチャンスとも言えるわね・・・」
「あぁ、残る二人は既に我々が保護している。これもまた巻き込む形になるが、ミカミの手から守るにはこうするしか無い」
「そうッスねサムさん。俺以外のその2人、どんな人かは知らないッスけど、俺がこんな目にあったからにはその2人も同じ目に遭うのは確実ッス。俺は決めた、その2人に三上を倒すために協力させる。今のままでは必ず勝てない、でも、単純計算で三上と同じ存在が三人揃えば確実に勝てると思うんス。俺が必ず説得させるッス」
俺一人では何ともならないのは、直に奴に触れて痛感した。だからこそ巻き込ませてもらう、三人でなら、あいつに勝てる筈だ。それに勝たなきゃ俺は奴に殺されるだろうし、元の世界へ帰る手がかりも無くなる。
それに、俺が何とか引き入れないとその2人がもし三上側に行ったら、より最悪な事になる。
「よし、今は私たちの仲間を信じよう!てなわけで、ここが私たちのアジトよ!!」
アジトへ繋がるエレベーターのドアが開いた。そして広間へと向かうとサムさんは再び演説を始めた。
「『反逆者たち』よ!!心して聞いてほしい!!我が組織は!遂にミカミに見つかってしまった!!」
サムさんの突然の発表に、周囲がいきなりざわついた。
「そ、そんな!!」
「サム!!それはどう言う事だ!!まさかそいつのせいか!?」
うん、俺のせいッス・・・
「彼を責めるな。サクラ君はミカミ国王の所業に怒り単身、彼に挑んでくれただけだ。しかし、サクラ君ではまだ彼に勝てなかった」
うん?フォローになってるか?
「なら、俺たちはこれからどうすんだ?」
「我々の裏切りはミカミ国王に見つかってしまった事は事実だ。だが、我々にはミカミ国王すら知り得ない情報と、そして味方を手にした・・・まずその味方が彼女、グレイシア ダスト様だ」
グレイシアさんがみんなの前に出てきた。ざわざわしていた空気が「え?」となって止まった。
「ど、どう言う事?本当にグレイシア様が!?」
「と言う事は!?」
「そうだ。グレイシア様はミカミ国王の行動を見限り、我々への協力を申し出てくれた。ミカミ国王の持つ武器、セブンスイーグルを手土産に・・・」
その瞬間、このアジトに歓声が巻き起こった。意外だな、グレイシアさんはミカミの奥さんだろ?普通はスパイじゃ無いか?とか疑いそうなのにな。
「グレイシア様が味方なら百人力だぁ!!」
「目の保養になる〜!!」
「踏んでくれ〜!!」
ん?なんかこの歓声の中に変な声混じってね?感覚的にはアイドルが来た感じになってる?まぁ、めちゃくちゃ美人だしな。
「そして我々の味方はそれだけでは無い。この異世界の彼、サカガミ サクラ君もまた、我々に協力を申し出てくれた」
「ども、坂上 桜蘭ッス。三上 礼、あの男は異世界の俺からしても異常だ。あんな奴が俺たちの世界にいたのかと思うと余計に腹が立つッス、連帯責任じゃ無いッスけど、俺と同じ存在がこの世界に迷惑をかけてるなら、止めなくちゃな!」
『おー!』
あ、盛り上がった。ちょっと嬉しい・・・
「更にその異世界の存在は後二人いる。そしてその二人にも協力を仰ぐつもりだ。
グレイシア様、セブンスイーグル、そして異世界の勇者が三人。我々は今ミカミに反旗を翻せる戦力を遂に手にした。今こそ我々は真の『反逆者たち』となる。もう隠れはしない、奴に正々堂々と立ち向かう!奴の魔の手からこの世界を救い出すんだ!!『全ては平和の為に』!!!」
『うぉぉぉおおおおっ!!』
そしてその盛り上がった歓声はさらに勢いを増して、このアジトを包んだ。
これにて反逆者たちの集会は終了、みんな解散した。後はその残る二人がここに来るのを待つだけ。サムさんとシィズさんはそれについてと、それからの作戦会議を始めた。
そんな時だった。
「ここなら、大丈夫だから」
グレイシアさんが俺に言ってきた。何が?大丈夫なん?
「ほぃ?」
「修行・・・した方がいいから。レイに勝つなら、尚更・・・」
あー、修行か・・・この銃で射撃訓練でもするのか?それとも、基礎的なトレーニング?・・・腹筋やるのはやだなぁ、俺10回も持たないもん。
「そうッスね・・・とは言ったものの何から始めれば良いんスかね。この手の修行って言われてもなぁ・・・グレイシアさんは何かするんスか?走り込みとか?」
「走るの嫌い・・・胸が痛いから」
胸が・・・あー、そう言う事。てかそう言うのを思春期な男の俺の前でしれっと言うか?
「じゃ何を?」
「君の修行に付き合う、その銃の扱い方を教えるから」
お、まさかの射撃訓練かい、それなら俺でも何とかなるな。それにグレイシアさんが師匠的な感じか。なんかめちゃくちゃ強そうだし、良い師匠付いたかな?
俺はまだ知らなかった。この先の修行が走り込みとか筋トレをしてた方がまだマシだと思う程に過酷な事になるとは思いもしなかった。