リメイク第二章 その笑顔はあらゆる者を支配する帝王
奴と出会ってしまった、馬鹿な真似した罰か?俺の目の前には、ついさっきえげつない処刑を繰り広げた張本人が現れてしまった。
逃げるべきだ、俺の頭はそう言ってるのに、こいつの爽やかすぎる変な笑顔を見たら汗が止まらなくなった。指先一つ動かせない。
「そんなにガチガチにならなくても良いのに・・・僕別に君に何かする訳じゃないんだよ?あ、それよりもさっきここで救急の連絡あったらしいけど何か知らない?血まみれで倒れてる人がいるって聞いてさ」
落ち着け俺、今やるべき事を考えろ。
「い、いや・・・俺は何も」
「そうなの、それより君こそ怪我は良いの?服はボロボロになっちゃってるし、服に血もついてるよ?」
「あ、これも大丈夫ッスから」
どうすればこいつから逃げられる・・・
「そう?まぁ確かに元気そうだけど・・・それにしても君は僕を怖がり過ぎてるね、まるで初めて僕と言う存在を知ったみたいだ。君、名前は?」
な、こいつ何なの!?俺を見ただけで俺の存在に疑問を抱いてる!
「いや、俺はっ!その!」
「あはは。ま、そう言う人もいても仕方ないのかも。君は多分僕を悪の帝王みたいに見えてるのかもしれないけど、それは勘違い、僕は善良な国民の味方だよ。毎日処刑するのは、この国の危険な存在を抹消してあげてるだけなんだから。君はそうじゃないでしょ?」
三上は俺に顔を近づけじっと見つめて来た。駄目だ、俺にはこいつに敵対なんて出来ない。そもそも俺は正義感なんて持ち合わせてないもやしだ。この誘導されるような喋り方、付くべきはこいつについた方が良いって言ってる。
「そ、そうッスね」
「うーん・・・まだ怖がってるなぁ。ま、こうして出会ったのも何かの縁だ。ここの近くに僕の気に入ってるケーキ屋があるんだ。君甘いのは好き?」
「あ、まぁ・・・」
「なら、一緒に行こうよ。僕のお気に入りの店なんだ」
これは、付いて行くしかないだろ・・・
「わ、わかったッス・・・」
「そこのタルトが本当に美味しいんだ」
あ、そう。確かに俺、甘いのは好きだけどさ、こんな時に味わえるか。
「そこの角を曲がるとあるよ」
俺は三上に連れられ、街中を歩いた。そして角を曲がった瞬間、やばい事になった。
「あ、サクラ君!探したわよ!?はぁ、さっきはごめんね?勝手に話を続けちゃって・・・」
「あ、あのシィズさん・・・」
なんでこんなタイミングで出くわすんだ。シィズさんもそこまで言ってようやく俺の隣にいた人物に気がついた。
「あ、シィズさん。どもです」
「っ!!ミカミ!国王陛下!!」
シィズさんはビシッと三上に向かって敬礼した。
「そんなにかしこまらなくて良いっていつも言ってるのに。あ、サムさんもいたんだ」
そしてすぐ近くに来ていたサムさんにも三上は気がついた。
「これは陛下、何故ここに?」
「この彼に僕のおすすめの店を紹介しようと思って、彼、えっとサクラ君?とさっき思いっきりぶつかっちゃってね、お詫びと言っちゃなんだけど、ケーキ奢ってあげようと思ったんだ。それより、サムさんは今日の仕事順調?」
「はっ!本日は特にこれと言った事件は起きておりません」
サムさんはビシッと言い放った。ん?いや駄目だ!!サムさん墓穴掘った!!
「あれ?サムさん。さっきここの近くに救急要請が出てたらしいよ?でも僕が行ったら誰もいなかった。それはどう言う事?シィズさんと一緒にいるって事はそれ関連じゃ無いんですか?」
「いえ、その件はあまり重症ではなかったので」
「そ、そうなのよ」
「ふーん、僕はあまり関心出来ないよそれ。一応は病院に連れてった方が良いと思うな。聞いた話だと、大分血を流してたらしいし?なのに救急車はそのまま帰ってたらしいじゃない、てかその怪我人って彼だよね?さっきのやりとり見る限りそうだ」
三上は俺を指差した。
「えぇ、そうです」
「そう。ならちゃんと病院に送ってあげてね?」
「申し訳ありません」
「いいよ・・・けど一つ聞いて良い?サクラ君は一体何から逃げてたの?見た感じ、怯えが目に映ってた。そして逃げ方もここを何も理解している逃げ方じゃない、この世界を初めて見るような動きだ、とりあえず真っ直ぐ走って、何処に何があるのかもわかってない。だから僕に気が付かずに激突した。そして僕は結構ここに来るけど『サクラ』なんて名前は聞いたこと無い。ねぇ、シィズさん。サムさん、他に僕に何か隠してる事はない?」
本当になんなんだよ・・・こいつ、多分俺の正体に今のやりとりで気がついてる。つまり俺は異世界の存在だってバレた。
「君たち、彼を僕から隠そうとしてたよね?僕は確かに彼がどんな存在かは知らないよ?けど今ので察しが付いた・・・何処から来たのか理解出来た。そして、君たちの作戦も・・・」
三上は腰にある剣に手をかける、そして俺も理解した。てか、最初から俺は三上に誘導されてたんだ。シィズさんたちがボロを出す状況を俺を動かして作った。
「可哀想だって思わなかった?何も知らない人に、いきなり僕を殺させようだなんて、ひどい人たちだな・・・僕、君たちの腕前は勝ってたのにな」
「くっ!!」
「こうなったら仕方ないわっ!!」
サムさんとシィズさんは攻撃の構えを取る。俺は、俺はどうしたら良いんだろ。
「攻撃の構えを取るか・・・浅はかだよ、君たちの行動は
・・・僕にはまだ君たちの裏切りほ証拠は無い、僕は憶測を言っただけ。だけど君たちは僕の言葉に惑わされ、判断を誤った。裏切りを、自らの行動で示してしまった。残念だな、今日の処刑はもう終わった筈だけど、どうやら今日はそれで終われないらしいね」
「どの道私たちはあなたに反逆するつもりだったのよ、だから今行動を起こすわ!」
「あぁ、お前こそ今一人だ。二対一で勝てるか?」
単純に考えれば、この三上に今護衛なんていない。一人きりだ。それに俺も加勢すれば三上を倒せるかも、銃も今俺の手元にある。
そう思って三上を見た瞬間、俺は諦めた。
「あはは・・・いい目だ、この憎しみ・・・僕に刺さるよ!!あははははっ!!でも勿体無いなぁ、僕はこんな芽を摘み取らなくちゃいけないんだ『全ては平和の為に』ね!?」
あの可愛らしいような素敵な笑顔に狂気が入り込んで来た。今の三上の表情だけを表現するなら屈託のない笑顔だ。けど、この空気とこの状況。それでその顔はあまりにもあり得ないんだ。澄んだ笑いをする・・・人を殺す時にする顔じゃ無い。けど、こいつの目線と剣からヒシヒシと殺意を感じるんだ、呼吸をするのもしんどくなる。
俺のすべき事はとにかく逃げる事、一緒に戦うとかそんな事は不可能だ。勇気を振り絞って奴の前に立っても足手まといにしかならない。だから今はとにかく逃げろ、その為にシィズさんとサムさんは三上から俺を守る為に今立ちはだかってるんだ。だから俺は逃げなきゃいけない。けど、足が全く言う事を聞いてくれない、気持ち悪くて吐きそうなんだ。
「さぁ・・・かかっておいでよ。行かないのなら僕から行くよ?」
三上はゆっくりこっちに歩いてくる。サムさんとシィズさんは一歩も動けない。そりゃそうか、俺にはよく分からないけど三上のあの佇まいに隙なんて無いだろうからな。
あぁ、諦めた方が良いかも。俺の人生はここまでって事ににしよ、シィズさんとサムさん、巻き込んでしまって申し訳ないなぁ。俺が最終的に至ったのは諦めになった。色々考えていたら疲れたんだ。俺は突然異世界に飛んでそこで死ぬ。他とは違う変わった死に方が出来たんだから良しって事にしようぜ?俺よ・・・
「させないから・・・」
「え」
『バギキキキキィィィィッッ・・・・・』
その直後、その俺に喝を入れるような冷気が襲ってきた。
「さ、寒っ!!なんなんスか!?急に!!冬将軍到来!?」
目の前にあるのは氷の山、その中に三上が閉じ込められている。
「三人とも早く逃げる」
後ろからついさっき聞いた声が聞こえてきた。
「ぐ、グレイシア様っ!?」
「様呼び、いやだから・・・それより早くする。レイはこんなのすぐに打ち破ってくる」
グレイシア ダスト。三上の奥さんでその三上を裏切って俺に三上を倒せと言ってきた人物だ。
スタスタ・・・
「だから、早くにげろ」
『バッギィッ!!!』
「んげぇっ!?」
そのグレイシアは俺に近づいてきたと思ったら、思いっきり殴られた。確かに俺が放心状態だったのは悪かったよ。でも、ぐーで顔面殴るか!?
「うん、これで動けるね・・・ほら、早く」
「わ、分かったわっ!!感謝しますグレイシア様っ!!サクラ君!サム!!行くわよっ!!」
「は、はいッス!!」
これでなんとか逃げられるかもしれない、けど今のはなんなんだ?急に冷気が襲ってきた。そう言えばさっきもグレイシアさんと最初に出会った時、店のドアが凍ってたな・・・
俺は何とか気を取り直して足を動かした。けど、
「そう簡単に僕から逃げられると思ってるのなら・・・勘違いだよ」
『バギバギバギッッ!!!!』
思ってたよりも数倍早く三上は氷を砕いて出てきた。
「にしても、何のつもり?グレイシア・・・」
三上の顔、明らかに不機嫌だ。さっきの笑顔は無くなってる・・・
「私はもう、あなたの敵だから・・・レイ」
グレイシアさんは三上に言い放った。
「あ、そうなの・・・」
それに対して三上の反応は普通だった。そして、今度は大層嬉しかったのか?笑い出した。
「あは、あはは!!アハハハハッ!!!!まさか、君がそんな事をするとは思わなかったなぁ!!グレイシア、それの意味はわかってる?」
「私は、この世界の敵になると決めた。だから、あなたを・・・必ず殺すから」
「成る程、良い心構えだよ。なら、その世界に歯向かった結末を見る事だ!グレイシアッ!!」
こいつ、まさかグレイシアさんを攻撃する気なのか?奥さんなんだろ?いくら裏切ったからって・・・いきなり殺すのかよ。
ふざけんなよ、このガキ・・・俺今、頭きた!!あいつを、ぶちのめす!!
「させるかっての!!」
俺は一気に前に踏み出せた。三上、こいつは絶対に許せない。流石の俺も一発殴らないと気が済まない、こんな人間のクズ初めてだ!!
「うおおおっ!!」
「ん、これは・・・」
『ビシッ・・・バリバリッ!!』
俺の拳が、なんか光り出した。そして俺の手の周りには小さな稲妻がたくさん走ってる。
「くらえっ!!」
俺の拳と三上の剣がぶつかり合った、防がれはしたが、三上は驚きの表情をしていた。その顔って事は、一矢報いたらしいな。
「成る程ね・・・あはは、あははっ!!サクラ君、君に感謝しなきゃ。面白い、実に面白いよ。僕は今面白い気分になれた、君のお陰でね。
僕は君たちを見逃す事にするよ。僕に反逆する者たちか・・・どれくらいのものになるだろうか。いずれは僕を倒せるようになるのかなぁ、それを考えたら楽しみになっちゃった、サムさん。やりたいようにやってみて。僕は君たちの切り札に逃げも隠れもしないよ・・・」
三上は剣を納めた、そして俺たちに背を向けて歩いて消えた。