リメイク第二章 裏切りは反逆への意志を掲げる者達
「あ、はいいらっしゃ・・・」
俺は客が来たと思ってたけど、店長さんの反応からして多分違うなこれ・・・だって明らかに雰囲気がちがう。
女の人だ。長いフード付きのトレンチコートを着ていて、それだけでも結構目立つのに、それ以上に俺が反応したのは髪だ。なんて言うのかな、エメラルドグリーンに近いようなターコイズブルーって感じなのか、とにかく不思議な髪色だ。そしてその青い髪の中には真っ赤な髪が混じってる。こんなコスプレのウィッグをしたようなやつが急に入ってきたんだ。
てかあれ、地毛?眉毛もまつ毛まで青緑だぞ?俺がそう思って見惚れてたらその女の人は俺の目の前に立った。
「な、なんスか?」
「ちょっと来て・・・」
「へ?」
俺はその女の人に腕を掴まれたと思ったら、とんでもないパワーで店の外に連れ出された。
「あ、ちょっ!!グレイシア様っ!?」
グレイシア?この人の名前か?
「少し借りるから・・・後で返す」
俺は店の裏へと連れて行かれた後、壁ドンされた。その時ようやくこの人の顔を見たけど、すんげー美人だ。ピンク色のダイヤモンド見たいな綺麗な目。これが人間の顔か?芸術そのものじゃん・・・
「君なら、出来るから・・・」
女の人は俺に言った。そして顔を近づけてきた。ま、マジで?いきなりこんな展開なんてアリ?
俺はさっき見たショッキングな映像なんて記憶から消し飛んで、目の前の出来事に興奮していた。けど、
ぐりっ・・・
あれ、なにこの硬いの・・・
「これ、使っていい」
女の人は何故か俺の顔面に何か硬い物を押しつけて来た。言っておくが、アレじゃないぞ?普通に金属っぽい感触の物だ。
「あ、すんわへん・・・なんれがんめんらんスか?」
「・・・・・・・・ごめん?」
何に対して謝ったのか分からない感じで謝られた。けど、その物体はちゃんと手元に来た。
「君なら、倒せる。レイは変わってしまった。君は全てを変えられるから・・・だから、レイを倒して。じゃ、行くから」
「は?」
女の人はそれだけ言って居なくなった。何だったんだ?レイを倒せ?レイって、三上の事か?てか、あの人、俺に何を・・・
そして俺は手元を見た。
「はい?は?はぁっ!?これ、これって!!あれじゃん!!マグナムとかって言うアレじゃいッスか!!てか、装飾派手だなオイ!!」
俺の手元にあったのは一丁の拳銃だ。けど、ただの銃じゃない。言うなれば無駄に派手な装飾拳銃。俺、そんなに銃に詳しくは無いけど分かる。多分俺の世界でこんな銃は出回ってない。
だってあれだもん、この先端の狙いを定めるとこには鷲のエンブレム。グリップにも似たような鷲が七羽描かれている。それ以外にもスライドやら、やたら長いバレル何かも全部派手で悪趣味な装飾が施されていた。
「み、店戻ろ・・・てか、シィズさん何してるんだ?」
店のすぐ裏にいたんだから簡単に来れるのに・・・と思っていたら原因はすぐ分かった。
『ガッ!!』
「硬っ!てか冷たっ!?」
俺が店のドアに手をかけたらめちゃくちゃ冷たくなってた。そして反対側でシィズさんと店長さんが何やらこじ開けようとしてるのがわかる。加勢しなくちゃ・・・
「ぐぬぬ!!なんスかこのドア、なんで凍ってんのさ!!うりりり、うりゃぁ!!って、どぅわぁっ!!」
ドアはバキッて嫌な音を立ててようやく開いた。俺はすっ転びながら店内に入る。中では店長とシィズさんもすっ転んでいた。
「いててて」
「あ、サクラ君。大丈夫だった?グレイシア様は?」
シィズさんはすぐ起き上がって俺を見てくれた。
「いや、なんかこれでレイを倒せって・・・」
俺は銃をシィズさんに見せた。それを見て反応したのは店長さんだ。
「おい、そいつはミカミ国王のセブンスイーグルかっ!?」
「そんな名前なんスか?」
セブンス?そんな名前だっけ?
「ってか、三上の?」
「そうよ、『セブンスイーグル』現行の拳銃の最先端が詰まった武器。ミカミ国王はそれと『流血光刃』って言う白い刀身の剣をいつも携えていたわ、さっき処刑に使ってたやつね」
そんな事を聞いたら疑問は当然出て来る。なら、あのグレイシアって女の人は何者なんだ?三上となんの関係があるんだ?
「それにしても、何でグレイシア様がこれを・・・まさか、もうサクラ君の存在が三上にバレてるのか?」
「あ、あの・・・その、グレイシアさん?でしたっけ?その人俺にレイを倒せって言ってたッスけど」
とりあえず会話に参加しないとついて行けなさそうだ。
「え、まさかグレイシア様がそんな事を?」
「あ、はい・・・あの、グレイシア様?ってなんなスか?」
思い切って聞いてみよう。あの人が誰だか分からないとついて行けない。
「あ、そうか。君は何も知らないものね。えっと、簡単に言えばグレイシア様はミカミ国王の奥さんよ、グレイシア ダスト アダムス。今はそう言う名前で通ってるわ。つまりは王女様ね」
あー・・・佇まいと言い、只者じゃ無いとは思ってたけど、王女様かい。三上、あんな人を奥さんにしてんのかよ。腹立つ・・・でも待てよ?
「なぁ。グレイシア様は、サクラ君にレイを倒せって言ったのか?」
丁度俺が言おうとして事を店長さんが代弁した。そうだよ、そんな人がレイを倒せってどう言う事だ?
「確か、俺は全てを変えられるとか、あいつは変わったとかなんとか言ってたッス」
「まさか、グレイシア様がミカミ国王を裏切ったの?」
「実の旦那をか?考えられないが、現に今サクラ君の手元にはセブンスイーグルがあるのは事実だ」
「て事は、はやはり・・・」
その結論が出た瞬間、またドアが勢い良く開いた。
「シィズ!!ジョシュ!!いるか!?」
店にやってきたのは警官だなあの格好は、40代ってとこの男の人だ。
「サム?どうしたの?慌てて」
「街で既に噂になってるぞ、ここにニホンから来た奴がいると・・・彼がそうなのか?」
警官は俺を指差した。
「えぇ、でも何でもうバレてるの?噂が広まるにしては早すぎるわ。さっきグレイシア様がここに来たのも何か関係が?」
そうか、そう言われたら変だよな。俺がここに来たのはついさっきだ。それなのにあのグレイシアさんは何で俺がここにいるって分かったんだ?まさか、俺をこの世界へ呼んだのは三上か?
「は?グレイシア様が何故ここに?それよりもだ、噂がこんな速さで広まってる原因は他にあるんだ。心して聞いてくれ、ほかの『反逆者たち』の連絡によると彼の他にも、この世界へ来た者がいるんだ」
流石に俺もこれは聞き逃さなかった、ここに来た者が他にいる。つまり俺と同じような状況の奴が他にいるらしい。
「あ、一週間くらい前から変な噂を耳にすると思ったらそう言う事!?」
「そうだシィズ、一人はエイド南、朱雀。そしてもう一人エイド西、青龍で保護した。そしてさっきお前たちから血まみれの怪我人がいると聞いたんだ。それのせいで異世界の存在の噂は広まったらしい」
しかも2人かよ。なんだか、少しだけ心細さは無くなった気がする。
「そう、何とか私たちだけで見つけられたのはラッキーだったわね、もしサクラ君たちがミカミ国王と出会ってたらどうなるか分からないわ」
「あぁ。ゼロ、レイ、それに引き続きこの彼ら。どうなるか分からん・・・」
なんとなくだけど分かった気がする。何でシィズさんたちが俺を病院に連れて行かずにこんな店に入れたのか。警戒されてたんだ・・・俺たちは三上のような危険因子なんだきっと、けど俺があまりにトンチンカンだったから、とにかく三上に合わせないようにと動いている。だからこんなにさっきからみんなカリカリしてるんだ。
「・・・あのさ、サム。これは私の提案だけど、賭けてみる気はない?」
シィズさんは何故か少し興奮気味に口を開いた。
「賭ける?何をだ?」
「サクラ君と、その二人を『反逆者たち』に迎え入れる」
「な、それは駄目だろ。ただでさえ異世界の住人だぞ、それ以前にこの子たちはミカミとは無関係のはずだ。そんな彼らを我々には引き入れられない」
「王の処刑は本当に見境いが無い、それにこのまま放置は出来ないでしょ?かと言って私たちなんて、本当に国家に反逆を企てようとしてる組織、ミカミ国王のモロ処刑対象じゃない。サクラ君やその二人には悪いけど、巻き込まなきゃ守れはしないわ」
「しかし・・・はぁ、分かった。とりあえず署まで連れてきてくれるか?緊急で会合を開く」
警官は諦めたように俺をその署というところに案内しろと言い外へ出た。
そして俺もシィズさんに付いて外へ出た。
「よし、誰もいないわね。来てっ!」
この時俺はようやくこの世界が異世界だと認識させられた。街並みはモロに西洋だったんだ、レンガ造りの家々、綺麗な装飾の街灯、運河を通る船。その全てが日本ではない事を認識させられた。
けど、街の信号機からはカッコーや、ピヨピヨとか聞こえたり、高架を走る電車も都心部にいるとよく聞こえた音だ。てかそもそも、街中で聞こえる言葉は日本語だ。だから最初は全然異世界が無かったんだ。
更に見るとオンボロ三輪トラックが走ってるのが見える。さっきの定食屋のテレビも小さいブラウン管だった。ここにある家電はなんか俺の知ってるやつより少なくとも30年近く古い気がする、西洋と昭和が変に合わさっているんだ。
そして俺は署にたどり着いた。署って一体なんの事かと思っていたら、署は署だ『ボーダー地区警察署』と書かれてる建物に俺は連れて行かれた。
「よし、今よ」
けど俺はその警察署の正面には向かわず、コソコソ隠れながら裏へと回った。
警察署の裏、そこの地下入り口の壁に着いた。そしてシィズさんはその壁の何もないところに手をかざすと壁の中から暗証番号を打ち込む装置がニョキッと出てきた。そしてそれを十桁以上打ち込んで、最後に指紋認証したら壁に扉が出てきた。
おー、スパイ映画みたい。そんな感想をよそに俺はその中に入る。そしてそこから更に地下へのエレベーターがあり、それに乗り込む。どうやら地下洞窟みたいなところに繋がってたみたいだ。
そして最下層に着くとそこは大きな広間のようになってて、大勢の人がそこに集まっていた。みんな木刀振ったり何なりして訓練してる。
そしてその中心にはさっきの警官のサムって人がいた。
「みんな、よく聞いてほしい。今日、この世界でとてつも無い事が起きた。噂で聞いた者もいるかもしれないが、ここは全員に確実な情報を伝える。噂は本当だ、異世界の存在が再びこの世界に現れた。しかも、三人だ」
サムさんの演説の中の3人と言う言葉に、周囲はどよめき立つ。
「幸いな事に、その存在はミカミ国王にはまだ知られていない。それに加え、グレイシア様がどうやらミカミ国王を裏切ったと言う情報も手に入った。グレイシア様は異世界の住人の一人にミカミ国王の武器の一つ、セブンスイーグルを渡し、ミカミ国王を倒せと言う依頼をされたと聞いている」
そしてそのどよめきは更に湧き上がる。そのタイミングで俺がみんなの前に出され、そのセブンスイーグルって銃を見せた。そしたらそのどよめきは徐々に興奮気味へと変わった。しかし、それをした事で少しずつ賛否の声が聞こえ始めた。
「これはとんでもない事だぞ!?グレイシア様まで味方になるのなら、国王はもう負けたも同然だ!」
「いや待て!それをする事がミカミの罠ならどうする!?俺たちを炙り出す策略かも、それに異世界の存在はミカミと同じ存在だろ?」
やっぱり、こうなるよな・・・
「みんな、少し落ち着け。そしてよく聞いてほしい、我々『反逆者たち』はこの異世界の住人、サカガミ サクラと残る二名を我々の仲間へ迎え入れたいと思っている。
先も言ったようにミカミ国王は異世界の住人が来た事実をまだ知らない、仮に知っていたとしても私の目にはこの青年はミカミ国王を全く知らないように見えた。みんなの危惧している事は分かっている。だからこそ我々がこの異世界の住人たちを保護しなければならない。再びあの王が生まれないように。だからすまない、異世界の住人の保護に協力してくれ」
サムさんはみんなに頭を下げる。この人、多分ここで結構上位の階級の人っぽい。みんなこのサムさんの元に集まって来たって感じがする。だからこの人の頭を下げる行為で反論が無くなった。
けど、俺はどうしてたのかな、多分動揺してたんだ。今のこの状況になんかイラついてしまった。俺、あいつと戦う気なんてさらさら無いのに、なんだかいつのまにか俺はあいつと戦う運命にあるみたいな言われ方して、ここの居場所に恐怖を覚えた。
そもそもここの人たちは国王を殺そうとしてる組織、なら逆に俺、何もしない善良な市民であれば良いんじゃ無いのか?このまま行けば俺、引き返せない所まで行ってしまう気がする。
「いやだ、俺は嫌ッス!!あいつと戦うなんて冗談じゃない!!みんないい人かもしれないけど!!俺はこんなとこいられないっ!!」
俺はそう言って逃げ出してしまった。ここが異世界なんてそんな事は忘れて、兎に角今はこの空間から逃げたくなった。エレベーターに乗り込んで、外へ出た。
何処へ行く?そんなのは後で考えろ、今は走れ。そうだ、最初に俺がたどり着いた場所なら、あそこに何かあるかも。
「んげっ!!」
そんな慌てて走るから俺は誰かとぶつかってしまった。俺はズテーンと盛大に転んだ。
「あ、ごめんね」
「あ、あぁ」
俺はそいつに目もくれず、伸ばされた手も無視してまた走り出す。けど、俺はそいつに呼び止められた。
「ちょっと待ってよ、今怪我したでしょ?大分な衝撃だったもんね。治してあげるよ」
「いや、俺は・・・っ!?」
馬鹿だ俺、まさかこんな所にいるとは思わなかった。ボロボロの長いコート、丸いボブヘア、そして女の子っぽい綺麗で爽やかな笑顔を俺に向けたその少年、俺は思わずそいつの名を呼んだ。
「三上 礼・・・」
「あれ?見ない顔、最近引っ越してきたの?」