リメイク第二章 その目に見るは狂気に満ちた王
「はい?」
俺はその救急隊員をそう呼んでしまった、と言うのもそっくりだったんだ。他人のそら似なんてレベルじゃない、眼鏡は無いけど少しボサっとしたポニーテールと、このハキハキした喋り方、シズ先輩そのものだった。
「あれ?あなた、何処かで会ったりした?」
「いや、俺ッスよ。シズ先輩こそなんで急にこんな事してるんです?」
「なんでって、私の仕事は今はこれよ?それよりあなた名前は?それにどうして私の名前・・・」
なんだぁ?なんか違和感が出てきた、このテキパキ具合。マジの救急隊にしか見えない。やっぱり俺の間違い?でも、名前はあってるんだよな?
「坂上 桜蘭ッス」
「変わった名前ね、けど知らないわねそんな人・・・あなた、やっぱり私を誰かと勘違いしてないかしら?」
「かも、しれないッスね・・・因みに名前って静也丸 峰子じゃないッスよね?」
「そんな変な名前じゃないわよ、私の名前はシィズ・ナナよ?」
シィズ?それこそ変な名前な気がするけど?
「ちょっと身体触るわね・・・って、あれ?あなた」
「何スか?」
「これ、全然怪我して無いじゃない」
「へ?」
俺は今気がついた、さっきまであった激痛がいつのまにか無い。それどころか流れ出てた血も、怪我も一切無くなっていた。
「あなた、それ・・・誰の血?」
明らかに警戒した声・・・
「いや、なんなんスかこれ!?こっちが聞きたいッスよ!!俺さっきなんか急に吹っ飛ばされて、気がついたらここにいて、そもそもここ何処ッスか!?」
俺は少しパニックになった。血だらけなのに怪我はしてなかった、気がついたら知らない場所にいた。
「わ、分かったから落ち着いてね!?住所は?言える?」
「千葉県 〇〇市、〇〇〇ー□□ー△△△ッス」
俺が住所を言った瞬間、シーンと静まり返った。あれ?変な事言った?
「え?何処って?ちばけん?なにそれ?」
いや待て、それはこっちのセリフだろ。流石にそれは無いだろ、千葉県だぞ?東京の隣、落花生が有名な夢の国がある所だぞ?
「あの、冗談ッスよね?千葉県ですよ?東京の隣の・・・てか、日本ッスよ?」
もういいや、流石に国まで言えば分かるだろ」
「ニホン?」
だーめだこりゃ、よりぽかーんって顔になった。分かったぞ、絶対イタズラだこれ。シズ先輩、迫真の演技だな。趣味悪いなぁ・・・
なんか後ろでヒソヒソ話し始めた・・・何してんの?
「あの、ごめん・・・もう一度名前聞いても良い?」
「坂上 桜蘭ッスよ?フルネームだと坂上 レイノルド 桜蘭になるッスけど・・・」
「まさか・・・こんな事が、サクラ君。立てる?」
「え?あ、はい・・・」
俺は立ち上がった。さっきは気持ち悪くて立てなかったのに、もう行けるのか・・・
「よし、大丈夫そうね。私に付いて来てくれる?君が困惑してる理由、分かるかもしれないわ」
困惑って、何に俺は困惑すればいいんだ?言うなればあんたに困惑してるんだけど・・・
そして俺はなんか町の定食屋さんみたいなところに案内された。
「らっしゃい!お、シィズちゃん。男なんて連れてどうした?ついに彼氏か?」
店長らしき人はこの、シィズさん?をおちょくる感じで出てきた。
「ちっがうわよ!あんたこそ客いないじゃない、そろそろ閉める?って、そんな事言ってる場合じゃない。むしろ誰もいないのは好都合ね・・・国王は今どうしてる?」
「そろそろいつものじゃないか?てか、陛下がどうしたんだ?何か関係が・・・まさか」
「そのまさかよ。彼の名前はサカガミ サクラ、出身はニホンらしいわ」
「マジか・・・」
一体なんの話なんだ?国王?陛下?日本って王国制じゃないだろ?全く状況が読めないんだけど?
「あの、これ一体なんなんスか?」
もういい、質問しよ。流石に飽きてきたぞこの空気。
「あ、すまん。それより兄ちゃんよ、ミカミ レイって奴を聞いたことはあるか?」
「三上?」
あれ、どっかで聞いたことあるような・・・ま、三上なんてあちこちにある名前だからな。どっかで聞いただけかも、知り合いに三上なんていないし。
「知らないッスね、そいつがどうしたんスか?」
「今から説明する。その前にだ、兄ちゃんに一つ重要な事を伝えておかなきゃいけない。心して聞いてくれ、ここはニホンって国ではない」
ぽかーん・・・俺はしばらく何も考え無かった。流石に誰だってそうなるだろ、さっきまで俺がいた場所は?日本国じゃなきゃなんだ?大日本帝国か?何十年の話だってんだ。
当たり前な事をいきなり否定されたらしばらくは、現実と受け止められねーよ。
「はぁ・・・」
そして、俺はこう思うしかなくなる。嘘だって、いくら迫真の演技をされても流石に嘘としか思えない。だから俺は少し呆れ気味になる。
「ここはね、アダムス連合王国、ボーダー地区って呼ばれる場所よ。サクラ君、聞いたことある?」
「いや、なんスかそれ?連合王国?ボーダー?何、なんかの演劇の舞台かなんかッスか?」
「はぁ、こりゃだめね・・・」
思いっきりため息出された、マジでなんなの?俺はどう対応すべきなんだ?真面目に受け答えした方がいいのか?
「あ、あの。ここがその、なんちゃら連合なのは良いとして、三上ってのはなんなんスか?そいつがこことなんの関係が?」
「そのミカミこそ、この国の王だ。異世界の勇者、奴はそう呼ばれていた」
異世界・・・あー、成程。異世界転生ってやつか、いやこれは転移か?って待て、もしかして俺、その異世界転移が実現したパターン?
だとしたら、何かしらチート能力が欲しいよなぁ。
「あ、その三上って奴は昔この世界に現れて、チート能力で世界を救ったとかなんかッスか?で、それから王様になったと」
「ちーと?まぁ、何となくは伝わるか。まぁそんなとこだな。ざっくり説明するとだな、二十年前、この世界にはゼロって言うやべーのがいたんだ。それはバケモノを使ってこの世界を支配しようとしてたのさ。けど、ある日予言の書ってのが見つかって、その一週間後か。ミカミは突然この世界に現れた。
んで、ミカミは予言を悉く達成したんだ。本人にその意思がないにも関わらずミカミは予言を達成し、ゼロの脅威からこの世界を救った。なんならミカミはゼロ以前のこの世界の闇すら打ち破った。更にはミカミは異世界の技術をこの世界にもたらして、さらに発展させてくれた」
うん、どチート野郎だな・・・よくある展開の俺、何かやっちゃいました?的な感じだろ?
「んで、そいつは今王様やってんスね」
そりゃそんなことやり遂げたらそうなるだろうな。
「いや、当初ミカミは王になる気なんてサラサラ無かった。奴はごく普通の家庭で暮らしたいと言っていた。実際、ミカミは社長にはなったが、国王という座に興味はなく何なら国王とは親友のような関係だった。二年前まではな・・・」
2年、その単語が聞こえた瞬間に空気が変わった。俺はそんな事に気が付かずズカズカと質問を続けた。
「あー、そう言うタイプの人ッスか。急に心変わりでもしたんスかね?ハハハ」
「・・・かもな、奴は2年前、突然先代国王のアレックス アダムスの会食パーティを襲撃し、この国を乗っ取った」
店長さんは重々しい表情になって言う。流石に俺もこの空気に気が付いた。なんか変だ・・・何でみんなガチな感じになってるんだ?
「時間ね・・・」
シィズさんが時計を見て呟いた。時間?なんの話だ?
『ブッ・・・・ブゥゥゥン』
突然テレビの電源が入った。誰か付けたのか?リモコンは店長の前に置いてある。じゃ誰が?
「ミカミは、国王になって以降、必ず一日に一人、反逆者と称して人を殺し続けている。毎日、毎日・・・誰かが奴の手によって殺される。全員の目に焼き付けさせる為、この世界全てのテレビをジャックして、この時間に処刑の映像を全世界へと流すのさ、サクラ君。すこしショックな映像を見る事になるが、心して見てくれ」
店長が話し終えるとテレビの画面からボヤボヤが取れて鮮明になってくる。そして映っていたのは少年だ・・・俺より遥かに若い。そしてその男の子の前には歯を食いしばっている男が立っている。
『やぁ、みんな見てる?コンセント抜いたりしてないよね? うん、視聴率は強制百パーセントだ。よしよし、さて、今日もまたこの僕へ反逆を企てた者がいます。フランソワ デイビット。彼はこれより国家反逆の罪で処刑します。フランソワさん、最期に何か言う事あるかな?』
俺は今の今まで、ここを夢か何かだと思って他人事のように感じていた・・・奴を見るまでは・・・
三上 礼という男は俺の目線を強制的に現実に戻してきた。あいつはなんなんだ?笑ってる・・・笑ってるけど、楽しそうには見えない。
三上は鞘から剣を抜いた。なんだあの剣、真っ白だ・・・
『ふっ・・・やるならやれっ!!いつか、いつか必ず貴様は報いを受ける!!さぁ、殺せっ!! っ!!!』
三上はその笑顔のまま前で叫んでいた男の心臓を突き刺した、男は徐々に力を無くしていく。
『そんなに叫ばなくてもいいじゃない、ちゃんと聞こえてるよ?さよなら、フランソワさん・・・さ、今日の処刑はこれくらいかな?僕はそろそろ夕食の準備あるから、またね』
ブツッ・・・
テレビの画面が消えた。
俺は身体が震えていた、あの三上の一言一言がなんだか凄く重く感じたんだ。
「ミカミ国王は、あーやっていつもいつも殺してるんだ。ある日突然、急にな」
「本当に分からないわね。何が楽しくて、殺すなんて事を笑ってやれるのかしら・・・」
そしてこの二人の重たい空気の意味もやっと分かった。
「あれ、あれなんなんスか?人間で、いいのかよあれが。化け物だ・・・」
俺、異世界転移でもとんでもないとこに来ちまった。敵がチートってパターンだ・・・どうすんだよこれ、まさか俺、俺あいつと戦うのか?無理っ!!画面越しで腰抜かしそうになってるんだぞ?そもそも、俺にはチート能力的なのは無いのか?
俺がそう考えた瞬間。
『ガラッ!!』
店のドアが突然開いた。