リメイク第二章 この異世界より真実を込めて
・・・・・・
「あら、そなの」
こんな返答が僕の口から出た。考える以前に今咄嗟にすべき事を優先した結果、こんなへんちくりんな回答をしてしまった。
その直後、一気に思考が頭を駆け巡った。
「え、はい?ごめんもう一回言ってもらって良い?」
「私 結婚したいから」
うん、何度聞いてもグレイシアの口から出たのは何をどうしたのか、これまでそんな片鱗を見せた事の無い全く無縁の単語、結婚だ。
「んお?まさか!告白でもされた!?で!?誰と!?誰と!?」
フォックスはすぐに状況を飲み込めたらしい。そうか成る程、やっと良い人が出来たのか、挨拶も無しにいきなり結婚は流石に早過ぎる気はするけど、そうか良かった・・・グレイシアも人並みに恋なんてするのか。僕は少し落ち着いてなんだか今度は感動してきた。
それにしても、確かに顔はいい方だとは思うけど、ぐーたらでいつもぼーっとどこか見てて、急に行動を起こすこの子を好きになる人ってどんなだろ。と言うか、そのグレイシアが好きになった人って誰?思い当たる節がない。
「そ、そうなんだ。相手はどんな人なの?」
つ・・・
「んお?グレイシア、何してるの?人差し指なんか伸ばしてさぁ・・・」
グレイシアはまるで一つの方向を指差すような行動を起こした。
「どしたのグレイシア、あれ?僕に何か付いてた?」
さっきの洗濯物ズボンに引っ掛かったかな・・・僕は鏡を見る。特に何もないなぁ・・・
「・・・・あのさ?グレイシア? ま、まさか その指の意味ってさ、礼兄ちゃん 指してる?」
こくり
フォックスが言葉を詰まらせて質問した。そしてその質問の答えにグレイシアは頷いた。
ふむふむ、冷静になって考えよう。結婚したいと彼女はそう言った、そして相手は?と僕は質問した、そしてグレイシアは僕に指を向ける。
そこから導き出される答えは・・・
「僕と?」
こくっ・・・
『ぇぇぇぇええええ゛え゛え゛え゛゛っっ゛!?』
僕とフォックスは同時に訳の分からない驚嘆の声を上げた。グレイシアの言ってることはこうだ、僕と結婚したい。
待て待て、彼女は二十三歳だぞ?ちっちゃい子がお父さんに『将来、お父さんよお嫁さんになる』って言ってるのとは訳が違う。それによく見ろ三上 礼よ、グレイシアの顔が真っ赤な理由、それは極度の緊張と興奮の顔だ。つまり本気と言う意味を持っている!けど、僕は彼女と血はつながらないとは言え一応親だ。落ち着け、そしてよく見ろ、臆病者め。それから僕の口で言うんだ、いいね?
「な、なんで?あ、あのさ、僕は君の親であってその・・・」
ばっか!!!こんな風にどもるな気持ち悪いっ!!ここは毅然とした態度を示せよ僕よっ!?
「やっと分かったから。レイは親じゃない・・・恋愛対象だった」
なんで、どこで間違えた?何か変な本でも読んだかな・・・それしか考えられない、だってグレイシアだもん。
「ぐ、グレイシア?何で僕なの?きっかけは?」
「ずっと考えてた事、それを調べてた。ここ最近、ずっとここの奥の方がもやもやしてたから・・・」
グレイシアは胸をさすってる。心のもやもやってやつか。
「それってつまり、僕の事を考えてたらもやもやが増したとか?」
「そう」
「ぐ、グレイシア・・・それ、調べたのってどこ?」
「図書館」
おのれ図書館、グレイシアになんて事を吹き込んでくれたんだ。少し落ち着いたぞ、やっぱりこれはグレイシアのいつものとんちんかんだ。こう言う事も教えなきゃダメだったかなぁ・・・
「あのさ、グレイシア・・・ちょっと今日大学に忘れ物して来たから取りに行って来るね?」
「分かった、待ってるから」
待ってるね・・・流石について来るとは言わなかったか、良し。
「てなわけで、フォックス?留守番頼んだ!」
「あ、あちょ!?礼兄ちゃん!?このほわほわほくほくしてるグレイシアとおいら一緒に置いとかないでよぉ!?」
「後でアイス買ってきて上げるから!んじゃっ!!」
僕はフォックスとグレイシアを置いて家を飛び出した。
やれやれ・・・図書館に行こう。グレイシア、一体どんな本を読んだんだ?恋愛小説でも読んだかなぁ・・・
「あ!ミカミ様!!」
「あ、ワンちゃん」
街中を歩いていたら珍しく人を見かけた、以前僕と戦ったワンコって人だ。ワンコ、ニャンタ、ポンサンの三人で行動し、その名前と性格から犬猫狸トリオだなんてよばれてる。
「我っ!遂にアダムス王国軍への入隊が決まりました!!」
「あ、そうなんだおめでとう」
「これより我が人生、貴方に忠誠を誓いましょう!!」
「いやアレックスさんに誓ってよ、僕は家電会社の社長だよ?」
「だとしても!!十八年前のあの日より我は誓ったのだ!!我は、何があろうとも貴方に忠誠を誓うと!!」
ワンコさんは強く拳を握る。
「まぁたやってるね〜ワンちゃん」
そこはニャンタもやって来た、あれ?警察の服?
「あ、我ね〜、警察官になったんだ〜。国の為に忠誠なんか誓えないからね〜、我がやれるのは街の治安を守ること〜」
この人は逆に呑気と言うか。けど、実力は正直めちゃくちゃ高いんだよね。
「お前の場合実力はあれども性格に難ありと言われたんだろ?それで地方の警察に飛ばされ、それでも尚配属初日から遅刻、昼寝」
そしてポンサンもやって来た、こっちは軍服だ。
「でも強盗捕まえたよ〜?」
「その癖こいつ、手柄はすんごい取るんだよな・・・あ、ミカミ様はこっちに何の用で?」
「まぁ、ちょっと図書館にね。君たちは?」
「今日、軍と警察の合同訓練があったんだ〜。それで我も南オーシャナからここに行けーって命令されたの〜」
そう言えばニュースでそんなことやるって言ってたっけ。
「それで今は丁度訓練が終了した所だ、それで久しぶりにニャンタと再開を楽しんでた所だ」
「久しぶりだけど二人ともかわってないね〜」
「それはこっちのセリフだニャンタ」
この三人は相変わらず仲良いなぁ、まるで家族だ・・・
か、家族か・・・
「んじゃ、僕はそろそろ行くよ」
「お気をつけて!」
そしてこの中央にある図書館へとやって来た、貯蔵数は世界一、奥にはこの国の秘密にされている蔵書が眠ってたりもする。
「あのー、今日グレイシアが読んでた本ってどれです?」
僕はこの図書館の職員に聞いてみた、僕も家電に関する事とか、大学での研究の事とかでよく利用するから顔見知りなんだ。
「あ、それならこれ読んでましたよ?私もこの話好きなんですよねー」
「どんな話?」
「簡単に言えば禁じられた愛ってやつですかね?育ての親に恋をした一人の女の子のお話で、互いに両親を無くした歳の離れた兄妹がいたんですけど、妹は元貴族のお嬢様で、兄は街のゴロツキ、そんな二人はあるきっかけで出会って家族同然に暮らしてたの。けどそんなある日、その二人は事件に巻き込まれてそれをきっかけに距離が・・・」
すごい語ってくれた。成る程、思いっきりこの話の影響を受けた訳ね・・・
「その本は何処に?」
「あれ?ミカミさんも読みたいんですか?あ、まさか二人の関係、似てなくもない・・・まさか!?」
この職員の人は顔を真っ赤にして悶え出した。鋭いと言うか何というか。
「いや誤解ですからね?」
「あらそうなんですか、けど似合うと思いますけどね二人・・・ま、いささかミカミさんが年下過ぎますね。えっとこの棚にありますよ。ここ、恋愛小説の棚です」
流石は国内最大の図書館、恋愛小説ってジャンルだけで何列あるの?
「ん?これは?」
僕は随分と古い本を見つけた。
『この異世界より真実を込めて』
タイトルはそう書かれている、僕は何故か不思議とこの本を取った。
「あー、それ。すんごいつまらないやつですね、昔からずーっとあってだーれも借りないんですよ」
そうなの?いや、でも何だかこの本、確かにタイトルはつまらなさそうだけど、やたら古いからなのか?どうにも気になるな、作者は・・・読めなくなってる。いや、辛うじてうっすらと残ってるな。えっと?
あれ?これ、もしかして・・・作者日本語で書いていない?筆記体だ、これって『N』そして『i』『h』
「Nihil」
ニヒル・・・そこにはそう書かれている。
「ん?ミカミさんなんて言いました?」
「あの、これの作者って誰ですか?」
「それ、分からないんですよねー、煤けちゃってるし」
この文字を見る事も出来ないの?僕にしか見えない文字・・・アルファベット、僕は一ページ目を開いた。
『この本を読むときは、何もない草原で読むことをお勧めします。きっと驚くでしょう』
なんだこの前書き、何で何もない草原?確かにそう言うところで本を読むのは好きだけど、驚くってなんだ?確か近くに公園の芝生があったっけ。
「あの、これ借りて行ってもいいですか?」
「それを?構いませんけど・・・つまらなかったですよ?」
なんか変だ、この人やたら恋愛小説が好きでつまらない作品も語るのに、何でこれだけつまらないの一言で片付けるんだ?
今の僕の頭の中にはこの本の事でいっぱいになった。結婚だとか恋愛だとか、そんなものは頭から消え失せた。止められない、僕はこの本を読み進めなければならない。
僕はこの本を借りて図書館を出た、そしてミツルギと呼ばれる区域にある公園の大きな芝生広場に座った。ここが一番草原に近い感じのところだ。
そして僕は二ページ目を開いた。
「なんだ・・・確かに、つまらないねこの話。けどまぁ、驚かされはしたか。あは、あはは・・・」
僕は何でか笑いが込み上げて来ちゃった・・・
「さて、帰るか。グレイシアも待ってるもんね」
僕は本を持ち、家へと帰った。
「や、ただいまグレイシア」
「んお!?やぁっと帰って来たよぉ!!もー!!グレイシアどうすんのさぁ、おいらがなんとか言っても法律的に問題ないとかでさー!」
フォックスが僕が帰るや否や頭に乗っかりグレイシアをどうしたものかと言ってきた。
「結婚の話なら、オッケーを出しても良いと思うよ」
「・・・・・・・・・・ほへ?」
僕の突然の答えにフォックスは変な声を出した。
「いいの?」
「ちょちょちょい!!礼兄ちゃん!?なにとち狂ったこと言ってるのさね!?親子の結婚だよぉ!?確かに血は繋がってないけどさぁ・・・なんか、こう・・・変な感じする!!」
フォックスは慌てて僕たちを止めに入る。
「そうだね、確かに変かも・・・けど、決めたのはグレイシアだよ。だからグレイシア、君に聞いておきたいんだ、君が僕を愛しても、僕は君を愛せなくても良い?」
「私の望みは一つだけ、レイを愛し続けたい。一緒にいたい・・・それだけだから」
「えー、なにこれ、なにこれ!なんかマジの雰囲気ぃ!?」
「それともう一つだけ聞いて良いかな、君は僕がこれからなにをしようと、君は僕と一緒に来てくれる?例え僕がこの世界をこれから滅ぼしてしまうとしても」
「私は、ずっとレイの側にいるから」
グレイシアは僕の手を握った、少し震えてる。僕も握り返した。
「はぇ〜、結婚指輪無しでもロマンチックになるもんだねぇ・・・」
「そうか・・・そうだね、なら最後にフォックス」
「は、はい!?」
「君は、どんな事があっても僕の家族でいてくれる?」
「・・・・・やーれやれ、真面目な話するとね、もう誰にも居なくなって欲しくないなぁ。ニヒルおねえちゃんみたいに、おいらの前から急に居なくなって欲しくないんだ。
グレイシアと礼兄ちゃんが本気で結婚するならさ、最初は驚いたけど、今思えばあのやりとりも夫婦に見えなくもないや。決めた、おいらは礼兄ちゃんとグレイシアがどんな関係になっても同じ家族でいられるのなら、おいらはそれでいい。だから、何処にも行かないでくれよぅ?」
フォックスは僕の頭の上でうずくまった。
「うん、何処にも行かないよ、僕はここにいるからね。行く時は、一緒に行くだけだ、さぁちょっとお出かけしようよ」
「何処行くの?」
「所謂、夫婦の初共同作業ってとこかな?ちょっとアダムスビルにね」