17.勇者はニュースを知る③
どうも、齋藤です。
遅くなりました。
では、どうぞ。
「民夫、それはどういう事だ?」
さっきまでテレビを見ていたはずの民夫が、今はネイサンの目の前に立っていた。
その目はどこか物悲しげであった。
「わざとラノベ勇者達を会わせようとする人がいる、そう言う事です」
「なっ!?」
ネイサンはまたも驚愕した。
「どうしてそんな事をするんだ?」
「理由は色々あると思います。そのラノベ勇者が嫌いだとか、作者が嫌いだとか……」
「……酷い、そんな理由で」
「まだそれ位なら生優しいものじゃよ」
今度は育代が民夫の話を受け継いだ。
「ど、どういう事だ……?」
「さっき民夫が言っておったじゃろ、作者が嫌いと」
「……まさかっ!?」
「そうじゃ、自分が売れたいが為に自らが動いたり、他の人間に依頼する輩もいたのじゃ」
「なんてことだ」
ネイサンは人間という生き物が、とてつもなく愚かな生き物である事を再認識した。
思わず片手で顔を覆ってしまった。
もしかして自分達が命を懸けて救ってきた世界でも……。
民夫はネイサンの隣の椅子に座り、優しい声で話し始めた。
「勇さん、とても辛いと思いますがこれから話す事もとても大切な事です。聞いてもらえませんか?」
民夫の優しい声が聴こえたネイサンは、両手を下げ、一度深呼吸をしてから民夫の方を向いた。
「……分かった。聞かせてくれ」
低く、静かに声を出したネイサン。
その声には決意や覚悟の様なものが含まれていた。
民夫は一度、育代の顔を見た。
育代は何も言わずたった一回、首を縦に振った。
それは了承の意味が含まれており、同時に頼むという意味でもあった。
「実は勇さんがここに来る半年前、一人の男性が転生しました。
男性の名前は『ジョン・ライター』、日本での名前は『本衆 作人』と言います。
作人の描かれたラノベでは作家が物を言う世界でした。
勿論、彼も作家に憧れていた人間の一人です。
お話の内容は色んな人と意見を交換したり、手を組んだりし、敵である『世界作家協会』を打ち倒すという物語です。
僕も読んでみましたが、とても読み応えがあり、大逆転もあって面白かったですね」
「民夫も絶賛する程面白いのか」
「はい。今度、時間がありましたらお貸ししますね」
民夫はさっきと打って変わって笑顔になった。
その顔を見たネイサンも、釣られてほくそ笑んだ。
(やっぱり、民夫は笑顔でないとな)
ネイサンは心の中で改めて感じた。
「すみません、話の腰を折ってしまいましたね。
先程、打ち倒すという様に言いましたが、直接手を下す訳ではありません」
「じゃあどうやって打ち倒したんだ?」
「本の売上記録です。どちらの本がより売れたかで勝負をしたのです」
「なるほどな」
意外にも平和的である事に、虚を突かれたネイサンであった。
しかし、今の民夫の話を聞いてなんとなく分かった事もあった。
「なぁ、もしかしてだがーーー」
育代や民夫達が言いたかった事、それは。
「その作人とか言う人は自分がこの世界でも売れたいが為に、自ら悪へと進んだ。そういう事か?」
「ご名答……です」
民夫は下唇を噛みながら答えてくれた。
その顔は苦虫でも噛んだかの様であった。
やはりそうであった。
作人という人物は『作家』という自分にとっての人権を手に入れてしまったばかりに、ここ日本でも欲に溺れてしまったのだ。
理性という水が無くなってしまい、本能という着火剤に火が着いてしまったのだ。
一度欲に溺れてしまった人間というのは、どうしてもその欲に縋りたくなってしまう。
過去の栄光とはとてつもなく甘美な美酒なのかもしれない。
だが、作人の考えも分からなくもない。
ライバルは少ない方が良い。
これは競い合う上では、どうしても一度は考えてしまう。
しかし、賢い人間はこれを『フェアではない』と考える。
だからこそ正々堂々と戦い合うのである。
「なるほど、そういう事があったんだな」
「分かってもらえたでしょうか……」
「あぁ、十分にな」
ネイサンは片手をゆっくり民夫の肩に置いた。
「どうして民夫がアレ(テレビ)を気にしていたのか」
「……」
「そして、どうしてあんなに世話を焼いていたのか」
「あ、それはただ僕がやりたかっただけです!」
「……話の腰を折るな、台無しじゃないか。この正直者」
ネイサンは怒り気味で民夫を叱った、が……。
「プフッ……!」
民夫か吹き出した瞬間、ネイサンの顔も緩んだ。
そして、次第に笑いは大きくなり、遂には腹を抱えて笑い合った。
今までの暗い話や雰囲気は一体何処へ行ったのか。
暫く笑い合った二人。
その笑いが落ち着いた時、ネイサンが口を開いた。
「民夫、ちゃんと話してくれてありがとう。お陰でまた一つ、この世界の事を知れたよ」
「いえいえ、勇さんこそ僕の話を聞いてくれて有難いです」
二人は謙遜し合った。
すると、ネイサンは急に椅子からバッと立ち上がった。
そして、
「俺はここで一つ誓う!俺は悪なんかには堕ちない、絶対にな!」
ネイサンは高らかに吠える様に叫んだ。
何人かネイサンの方を見ていたが、当の本人は恥ずかしがる事も臆する事もしなかった。
そんなネイサンを座りながら見ていた民夫は、急に立ち上がり、深くお辞儀をした。
「勇さん、ありがとうございます!」
言い終えると頭を上げた。
その顔は今まで見た中では一番の笑顔であった。
周りには黒では無く、金色に光る星が散りばめられていた。
「民夫、良かったの〜」
二人のやり取りを側から見守っていた育代。
育代は民夫に対し、子供に接するかのように優しく語りかけた。
「はい、育代さん!本当に良かったです!」
三人はお互いの顔を見合いながら笑った。
いつまでもこんな幸せな時間が続いて欲しい。
誰もがそう願うであろう。
しかし、時間というのは残酷である。
事というのは非情である。
世界というのは無情である。
皆さんも知っているであろう、上手く行く事の方が少ないのが現実である。
そう、ここでもその法則が成り立っているのだ。
「民夫っ!!!」
民夫を呼ぶ声が食堂に木霊した。
それは一人の女の子の声であり、ネイサンも知る声であった。
便の声である。
その声は悲痛な声でもあり、焦っている様な声であった。
只事では無いと気付いた民夫は急いで便が居るテレビの方へ走った。
ネイサンと育代もその後を追った。
テレビの前では老若男女関係なく、色んな人で群がっていた。
ネイサン達三人は便がいる場所まで移動した。
「来たわね。コレ見て」
「ーーーっ!?」
テレビの画面を見た民夫は顔面が蒼白となった。
テレビには、一人の女性のアナウンサーが淡々と話していた。
その内容とは一人の映画監督が遺書を残し、自ら命を絶ったとの事である。
「も、もしかしてこの人って」
「はい……この方も被害者の一人です」
「!?」
民夫の冷たく感情を失った言葉にネイサンは思わず言葉を失った。
民夫達が話してくれた事を受け入れたものの、実際にはそこまで起こるとは思っていなかったのだ。
……この世界の事を甘く見ていた。
しかし、今目の前で起こっている事は事実なのだ。
現実なのだ。
もしかしたら、次は自分なのかもしれない、そう思ったネイサンは身震いした。
そんな絶望の淵に立たされているのにも関わらず、アナウンサーは緊急の放送を始めた。
「只今入りましたニュースです。
『幽霊大戦』や『平沢君はお化けと友達』などで知られている、亡骸 霊さんが今日未明、行方不明になっている事が分かりました」
「なんだってっ!?」
「嘘でしょ!?」
民夫と便が体を前のめりにする程驚いた。
しかし、驚いたのは二人だけではなかった。
テレビに齧り付いていた人の殆どが驚き叫んでいた。
「民夫、どうしたんだ!?」
「……勇さん、昨日お風呂に入る前の事、覚えていますか?」
「あぁ、覚えてるぞ」
「その時、僕が誰かとぶつかった事、覚えていますか?」
「あぁ、覚えているぞ。確か憑郎とかいう男だったな……まさかっ!?」
「はい、そうです。この行方不明にやった方、憑郎さんの生みの親です」
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
では〜




