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人造神話  作者: 不覚たん
灰燼編
25/39

広島防衛戦 一

 アンナからメンバーの名前を確認したが、誰が黒幕なのかを推定することはできなかった。

 千年前の記憶しかないので、名前だけ聞いても、いったいどんなヤツだったのかサッパリに忘れている……。


 のみならず、アンナがこちらについたからといって、第二波がなくなったわけでもなかった。

 もしヨーロッパからアメリカへ軍隊を輸送するなら、大西洋を横断しなくてはならないが。

 日本海を超えるだけなら、そこまで難しいことではないのだ。


 総大将が部下を率いて戻ってきた。

「いちど帝都へ使いを出し、陛下の指示を待つ。それまでここに駐留することになるだろう」

 すると参謀が表情を曇らせた。

「食料はどうします?」

輜重隊しちょうたいの派遣を要請する」

 輜重隊というのは、物資を運ぶための部隊だ。

 現地調達では食料をまかなえなかったのだろう。きっとこの広島の都は、すでに空っぽだったのだ。


「ここにいた敵は、いまどこへ?」

 俺がそう尋ねると、参謀は得意顔で応じた。

「私の推測によれば、九州ではないかと。もともとそこから上陸したようですし、なんらかの拠点もあるはず」

 天王山の次は元寇か。


 アンナの話では、日本の征服は簡単に済む予定だったらしい。

 なんなら第一波で終わるはずだと。

 完全にナメられていたわけだが、そのおかげで助かった。


 参謀は神妙な表情で続けた。

「きっと敵は、本国に使者を送っているはず。第二波が到着する前に、九州まで攻め上がり、敵の橋頭保をすべて占拠すべきかと」

 これに総大将も「よかろう」とうなずいた。


 だが、それをするためにも食料が要る。

 いくら移動が楽になったとはいえ、飲まず食わずでは兵も戦えない。


 *


 数日が経過したが、しかし本国の対応は渋かった。

 散発的な補給はよこしてくるが、ただそれだけ。

 食料の値段が高騰しており、広島に送る余裕はないというのだ。


 なのに、九州を攻めろという催促だけが来る。

 総大将はメシがなければ進めないと返す。

 また申し訳程度に輜重隊が来る。


「なんなの? いったいいつまで待つの?」

 アンナはすっかり壺に隠れてしまった。


 ただでさえ毎日クソ暑いのに、総大将はイライラしっぱなしだし、参謀もゲッソリと痩せてきた。

 兵士たちもこの状況にうんざりしている。

 コンディションはよくない。


 アンナの家が街全体を覆っているから、街は日陰になっている。

 そして家そのものは高所にあるから、だいぶ風が吹き込んでくる。

 だからいくらか暑さの対策にはなっている。

 もしこれがなければ……。俺たちは干からびていたかもしれない。


 ピーと遠くで音がした。

 鳥の鳴き声だろうか。


 いや、これは笛の音……。


 机に伏せていた総大将が、がばと顔をあげた。

「敵襲か!?」

 すると武将たちもあわただしく動き出した。

 窓から望遠鏡を突き出し、西を見る。


「どうだ?」

「……」

「どうした! なにか報告しろ!」

 総大将が怒鳴りつけるが、武将は望遠鏡を手にしたまま、息をのんで固まるばかりだった。

 じれた総大将は「よこせ」と望遠鏡を奪い取り、窓の外を覗いた。


 各所でピーピーと鳴り響く笛の音。

 総大将はわなわなと身を震わせた。

「ふざけるな……。死体が歩いているぞ……」


 第二波の死霊術師ネクロマンサーだ。

 俺たちがぼやぼやしている間に、九州から上陸してきたのだ。

 おそらく現地に保存していた死体を使ったのだろう。


 総大将は深呼吸をし、仲間へ向き直った。

「急ぎ戦闘の支度をせよ」

 すると望遠鏡を受け取った参謀が、必死に外の様子を確認した。

「街に引き込み、迎撃しましょう。苦戦するようであれば、街ごと焼き払うがよろしいかと」

「街を焼く? ここは今後の拠点にするのだぞ!?」

「しかし、あの数では……」

「敵の動きを見たのか? あんな動きなら、目をつぶってでも戦える。街は死守する。火は放つな」

 この参謀、どうしても火を使いたいらしい。

 効果的だとは思うが。

 拠点として使いたいという帝国の計画とは相いれない。


「柴殿、出動できるか?」

「すぐに」


 *


 俺は移動要塞のドアから飛び出し、着地する前に土偶を展開。そのままエーテルを噴射して姿勢を立て直し、高度をあげた。

 荒野を行く死体の集団は、武器を手に、のたのたと都を目指している。

 夏場だからか、腐敗の具合がひどい。

 コケて足を失い、そのまま立ち上がれなくなっているものもいる。

 すでに命を失った人間をムリヤリ動かすなど、許されることではない。


 俺はエーテルを収縮させ、一条のビームを放った。

 できるだけ広範囲に、兵士の負担を減らすように。

 しかし長時間の照射はできない。

 連射も効かない。

 ビームの当たった一帯はたしかに黒焦げになったのだが、白いノートにペンで直線を引いたようなものだった。威力の高い攻撃だが、大勢を相手するには向かない。

 しばらくエーテルをチャージさせなくては……。


 だが少なくとも、この必殺ビームで兵たちの士気をあげることはできただろう。

 そう思って地上を見ると、兵士たちの一部が逃走しているのを見かけた。


 死んだ人間が腐敗しながら近づいてくる。

 それは恐怖そのものだ。

 俺みたいに安全圏から撃ってるぶんにはいいが、肉迫して戦う兵士にとっては簡単な話ではない。

 生きている人間が、死んだ人間に押されている。


 するといきなりガーンと衝撃が来た。

 ミゲルの砲撃だ。

 俺は墜落しそうになるのをなんとか立て直し、そのまま都へ軟着陸した。


 あの野郎、この死体の群れに混じって攻めてくるとは……。


「柴殿が撃墜されたぞ!」

「こんなのムリだ!」

 俺が墜落したと思い込んだ兵士たちが、またしても逃げ始めた。


 ミゲルの砲撃は、続いてアンナの家をも攻撃し始めた。

 木の家だから、一発被弾しただけで派手に損傷してしまう。きっと犠牲も出たことだろう。


 いや、まだだ。

 ここは森じゃない。

 家々が立ち並んでいるものの、視界はそれほど悪くない。

 いざとなればビームで薙ぎ払うのみだ。


 俺は土偶の身を起こし、地表すれすれを低空飛行で前進した。

 そのまま死者の群れに突入し、全速力で弾き飛ばす。

 ドチャドチャと気味の悪い音とともにいろいろ飛び散っているが、気にしてはいられない。

 倒木を拾い、遠心力で叩きつける。


 俺は土偶の中にいるからいいが、きっととんでもない臭気だろう。

 吐いている兵士もいる。


 ミゲルはどうやら家への攻撃に夢中になっているらしく、同じ場所から発砲を続けていた。

 もしかすると俺を撃破したと思っているのかもしれない。


 俺は低空のまま土偶をターンさせ、ミゲルのいると思われる場所へ猛スピードで前進した。

 死者が散ってゆく。

 地獄絵図だ。

 このあと土偶を体内に回収することを考えると……。

 いや、いまは戦いに集中しよう。


 敵をかき分けて移動していると、アンナの家を狙っているミゲルを発見した。

 向こうも俺に気づいたらしく、抱えていた大砲をこちらへ向けてきた。

 至近距離で直撃を受けたら、装甲をぶち抜かれるかもしれない。

 だが、いま退いたら二度目はない。

 俺は速度をあげた。


 光の弾丸の放たれるのが見えた。

 俺はさらに突っ込む。

 凄まじい衝撃。

 俺は慣性に任せて土偶を進ませながら、勘だけで手を動かした。

 なにかをつかんだ。


 姿勢を崩して地面を転がり続け、岩場に衝突して停止。


 目が回る。

 頭がくらくらして上も下も分からない。

 状況はどうなっているだろう?


 なんとか手を見ると、ミゲルを握り込んでいた。

 かなり強く握ったせいか、彼は口から泡を吹いていた。死んだかもしれない。しかしこの死に方なら、きっと生き返るはず。


「勝負あったな」

「ぐッ……クソがッ……」

 ミゲルは口から大量の血を吐いた。

 俺は手を放し、ミゲルを地面へ転がした。


「なあ、ミゲル。俺たちの仲間にならないか?」

「ンだと? バカ言うな……。なんで俺が……」

 こいつに忠誠心がないことは分かっている。

 待遇がいいから働いているだけだ。

 相応の条件を提示すれば、寝返るかもしれない。


「こっちも帝国だ。報酬は出せるぞ」

 肝心の俺がたいした報酬を受け取っていないわけだが。

 そこは目をつむろう。

 ミゲルも顔をしかめた。

「うるせぇ……。こっちはアメリカを丸ごと手に入れる予定なんだ……。こんなシケた島国なんていらねぇんだよ……」

 アメリカを?

 丸ごと?


 すると庭師が、勝手に会話に参加してきた。

「そんなウソを信じているのですか?」

「だ、誰だ? その泥人形が喋ったのか?」

「庭師です。神器を経由して話しかけています」

 呼んでもないのにコールセンターから連絡が来るとは。


 出血多量のミゲルは、苦しそうに目を細めた。

「庭師……。塔の後継者か……。あんたにはなにが見えてるんだ? 言ってみろ……」

 庭師は「ええ」と言葉を続けた。

「アメリカ大陸の統治を任せる。そんな密約をしているのは、あなただけではありません。例の死霊術師も、それに大陸で控えているお仲間たちも、同じような話を吹き込まれています」

「……」

 庭師は中立を破り、あきらかにこちらに味方してくれている。


 ミゲルは大きく息を吐いた。

「クソが……。ま、そんなこったろうと思ったぜ……。メンバーはほかにもいるのに、俺だけアメリカってのは話がデカすぎるからな……」

「私からは以上です」

 以上、通信終わり、だ。


 俺も思わず溜め息をついた。

「ジョシュア爺さんを盾にして、この戦争を推し進めてるヤツがいるだろう? 誰なんだ?」

 さすがに少しくらい喋る気になったろう。


 だがミゲルは、不敵に笑っただけだった。

「知るかよ……。俺は話がウマそうだったから乗っただけだ……」

 興味があるのは金だけ、か。

「これからどうするんだ?」

「くだらねぇ……。金を払うヤツにつくだけだ……。だからトドメは刺さなくていい……」

「もちろんだ。敵じゃないなら歓迎するよ、赤髭バルバロッサ


(続く)

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