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人造神話  作者: 不覚たん
灰燼編
21/39

天王山の戦い 一

 ドーンと地響きなような音とともに、その一日は始まった。


 場所は山崎の天王山。

 のんきに熟睡していた俺たちは、突然の爆音で叩き起こされた。


 もう夜ではない。

 だが朝というには早すぎた。

 日は、ようやくのぼろうとしているところ。


「敵襲! 敵襲だ! 戦闘準備! ほら起きろ!」

 分隊長らしき男が怒鳴り散らすと、兵たちがあわただしく準備を始めた。


 敵陣から数名の兵が出てきたという報告は聞いた。

 だからといって、こんな大規模な攻撃を、しかも本陣に直接しかけてくるとは……。


 甲冑のまま寝ていた総大将は「おお、攻撃か」などと悠長な感想をつぶやいた。

 パニックを起こさないだけマシだが、もう少し危機感を持ったほうがいいような気もする。


 伝令が駆け込んできた。

「山田隊、壊滅! 投石機も被害を受けた模様!」

 山田隊の規模は不明だが、出所不明の攻撃で一部隊が壊滅というのは、にわかには信じられない情報だ。


 参謀が眉をひそめた。

「急ぎ位置を特定させよ」

「ハッ!」


 見晴らしがいいのは結構だが、山の上に堂々と陣を構えているのだから、攻撃の的にされてもおかしくはない。

 ともあれ俺も、敵に先手を打たれるとは思わなかったが。


 俺は総大将へ告げた。

「出動します」

「許可する。ほれ、オウムガイ殿も行け」

 すると疲れた顔の中年男性、中野三千夫なかのみちおが「はい」と不服そうに応じた。


 俺は神器「土偶」を展開した。

 全長4メートル強。

 いわゆる巨大なロボットのようなものだ。

 念じるだけで操作できる。


 中野もオウムガイを展開した。

 これは頑丈なのはいいが、とにかく足が遅すぎる。触手でズルズルと地面を這わねばならない。


 敵は二発目を撃ってこない。

 まさかただの挨拶ということはないだろうが。


 *


 世界が原野に戻され、新たに仕切り直されたとき、一基の塔がその出発点となった。

 とにかく高い塔だった。


 たくさんの人間が檻に押し込まれていた。

 神は、そこから眷属を選んでいたのだ。

 俺も中野もそのとき選ばれたメンバーだった。


 ところが、いざこれから世界を再建するというとき、肝心の神が死んでしまった。

 動揺が広がった。

 眷属の多くは塔から離れた。

 俺は追放された。


 地上に解き放たれた人間たちは、千年の歳月をかけて、ゆっくりと、世代交代をしながら、自分たちのペースで村や街を作っていった。


 そして先日、この日本へ、西から大規模な軍勢がやってきた。

 彼らは「神の軍勢」を自称していた。


 *


 土偶型神器は、エーテルを放出して数メートルほど浮遊することができる。

 目立ってしまうが、高所から状況を確認したいときは便利だ。


 だが、ダーンと信じられない衝撃があり、機体が大きくかたむいた。ギリギリで墜落を回避できたものの、極端に姿勢が不安定になった。どこか壊されたかもしれない。

「攻撃を受けた!」

「そんなに目立つからですよ……」

 オウムガイから皮肉が飛んできた。

 期間限定とはいえ、いまは仲間だということを思い出して欲しいな。


 木々が多いせいで、どこから撃たれたか分からなかった。

 味方の観測手が位置を割り出してくれたらいいのだが。


 俺はやむをえず着地し、身をかがめた。

 脚部をやられたかもしれない。


「庭師、いま話せるか?」

「ええ」

 帝国はいまだ無線技術を有していないが、この機体を使えば塔にいる庭師と通信がつながる。

「こいつが壊れたら、どうやって修理するんだ?」

「心配しないでください。あなたのエネルギーを使って、自動的に修復されます」

「俺のエネルギー?」

「大丈夫。あなたが死なない限り、すぐに回復しますから。その破壊兵器の動力も同じです」

「ありがとう。質問は以上だ」


 俺は後方からのそのそ張ってくるオウムガイを見た。

「中野さん、悪いが盾になってくれないか?」

「はい? 正気ですか?」

「そっちのほうが頑丈なんだから。頼むよ」

「お断りです」


 まあ盾になれというのはひどい提案だが。

 しかしこれじゃ連携しようがない。


 敵の位置を確認したいが、飛ぶのは危険だ。

 派手に動けば撃たれる。


 いったいどんな攻撃だったのだろうか?

 砲弾の欠片が見当たらないところを見ると、なんらかのエネルギーによる攻撃だろうか?

 だとしたら神の眷属かもしれない。


「中野さん、なにか策は?」

「敵を探すんでしょう?」

「いったん退避して、状況を報告したほうがいいかも」

「ここまで来たのに?」

 ここまでとはいうが、特に行きたい場所があって前進したわけではない。

 動きののろいオウムガイで移動するのが億劫なのは分かるが。


「なら残る? 俺は報告して来るけど」

「あなたねぇ」

「そっちこそ、自分の役割を思い出して欲しいもんだな。非協力的なら、いつでも檻の中に戻ってもらうぜ」

「……」

 中野はこの戦いのために恩赦された身だ。もっと協力する意思を見せるべきだ。


 *


 うるさいオウムガイを押しながら本陣へ戻った。

 総大将は地図を見ながら、参謀となにやら検討中。

「おう、柴殿。派手に被弾したようだな」

「おそらくエネルギー攻撃ですね。俺たちのような破壊兵器を有してるかも」

「厄介だな。観測手がおおよその位置を算出したが、たぶんもう移動してるはずだ。連中、動きが速いぞ」


 機動力を使った一撃離脱戦法か。

 しかもその一撃が重い。


 参謀が目を細めた。

「森ごと焼き払いましょう」

「は?」

「位置を特定できない以上、他に選択肢はありません」

 総大将は顔をしかめた。

「けど参謀殿よ、すでにだいぶ兵を展開している。引かせるまで時間がかかるぞ」

「兵ごと焼きます」

「おいおい……」

「見たところ、あの攻撃は常に単発。つまり希少なエースによるものと推定できます。雑兵と引き換えに敵エースをつぶせれば、我が国にとって大きな貢献となりましょう」

 こいつ、被害を数字でしか見ないタイプか。

 名前は確認してないが、まさか茨の兄じゃないだろうな。


 総大将はこの上なく渋い顔だ。

「ダメだダメだ。必要な犠牲ならいくらでも払うが、これは認められん。他の戦術を考案しろ」

「かしこまりました」

 参謀はビジネススーツのような、学校の制服のような、なんとも言えない服装をしている。

 敵と直接戦うわけではないから、こういう格好で戦場に立っていられるのだろう。


 俺はその参謀殿に尋ねた。

「こちらへも、なにかアドバイスは?」

「敵の砲撃を引き付けてくれると助かりますね。兵が死なずにすみますので」

「了解」

 ムカつくが、兵が助かるなら引き受けてもいい。

 飛べばいつでも標的になれる。

 ごく簡単な仕事だ。


「中野さん、あんたは勝手にやってくれ。俺は一人で行く」

「ご勝手に」


 *


 エーテルを噴射し、俺は森の上空を飛び回った。

 まだ姿勢が不安定だが、あと二、三発は耐えられそうな気がする。もし墜落したら、どこかに隠れるしかない。


 ダーンと音がして、また機体がかたむいた。

 やや後方。

 あわや地面に激突しそうになったが、なんとか身をサバいて軟着陸した。この重量でフリーフォールしたら、きっと致命的なダメージを受けるだろう。


 しかしちょっと飛んだだけでこれだ。

 兵の盾になるのはいいが、そう何回ももたないぞ。


 土偶をかがませ、俺はしばらく様子を見た。

 特に動きはない。

 向こうも俺のことは警戒しているはずだから、乱射して来ない。きっとまたこの森を移動していることだろう。


 このバカデカい身体は、ゲリラ戦には不向きだ。


「庭師、またいいか?」

「はい?」

 暇つぶしに語り掛けると、彼女はやや迷惑そうに返事をしてきた。

 いつも悪いな……。

「敵も神器を持ってるんだよな?」

「敵というのが誰のことかは分かりませんが、神の眷属であれば、誰でも所有する機会があります」

「小型のもあるのか?」

「はい。個人の資質に応じて提供されますから。中には通常サイズの剣や鎧ということもあります」

 剣や鎧か。

 いかにも英雄にふさわしい「神器」だ。


 しかし個人の資質とはなんだろう?

 庭師のイメージでは、俺は土偶を乗り回したそうなヤツってことか?

 まあ気分よく乗り回していたのは否定しないが。


「悪いな。用はそれだけだ」

「まるでコールセンターですね」

 その皮肉を最後に、通信は終了した。


 実際、コールセンターだろう。

 それ以外の用途が思いつかない。

 世間話を楽しめそうなタイプとも思えないしな。


 ともあれ、敵が小型の神器で戦っているのだとしたら、探すのは大変だ。

 上空から見えるわけがない。

 人海戦術で森を捜索するしかないわけだから、結果論ではあるが、総大将の戦術は正解だったということだ。

 まあ参謀殿の作戦でも「あぶり出す」ことはできたかもしれない。


 本陣からピーと笛の音がした。

 伝令も駆け回っているらしく、各所からピーピー音がした。

 撤収の合図だ。

 なにか進展でもあったのだろうか。


(続く)

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