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人造神話  作者: 不覚たん
極東編
16/39

報復の完了

 なにも考えず、デカい力で問題を解決したい。

 生きていれば、そんな気持ちになることもあるだろう。

 いまがそれだ。


 俺は土偶に乗り込み、かなりのスピードで柿藤の住居を目指していた。

 座席の後ろにキュウ坊を立たせて。


「ねえ、村長さん。これってなんなの……?」

「破壊兵器だとよ。詳しいことは俺も知らん。お願いしたらくれたんだ」

「そんな簡単に?」

「ああ、えらい簡単にな。庭師のヤツ、いったいなにを考えてんだかな……」

 するとこの会話も監視していたらしく、その庭師から返事が来た。

「聞こえていますよ」

「なら質問に答えてくれ。なぜ俺にこいつを貸した?」

「貸したのではなく、差し上げました。理由は、ただあなたがそれを使うところを見たかったからです」

 口調だけは丁寧だが、発言内容はかなり雑だ。

 俺は思わず鼻で笑った。

「もし俺がこいつで塔を攻撃したらどうなる?」

「やってみないと分かりませんね」

「隠し事はナシだ。そっちだって、きっと凄いの持ってんだろ?」

「ええ、まあ。どうしてもというのなら、ここからでもあなたをつぶせますが……」

 はい。

 そんなことだろうと思いました。

「分かってる。ちょっと確認したかっただけだ。やるつもりはない。ホントに」

「構いませんよ。あなたに節度など期待していませんから。いえ、それはウソですが……。しかし、もしあなたが度しがたい愚か者であったとして、必ずしも私が反撃するとは限りませんよ」

「どういう意味だ?」

「あなたは私のことをなにも知らないでしょう? もしかすると、黙って殺されるのを待っている哀れな女かもしれません」

「そんなこと言うなよ……」


 俺は下級クラスにされたから、塔の頂上への立入を禁止されていた。

 つまり庭師となったこの女と、自由に面会できなかったのだ。ほぼ交流がない。千年前より、いまのほうが会話している。


「なにか手伝えることはないか?」

 お節介とは思いながらも、俺はそんなことを尋ねた。

 が、庭師はかすかに鼻で笑った。

「ありませんね。あるかもしれませんが……。それをあなたに頼むつもりはありません」

「分かった。言いたくなったらいつでも言ってくれ」

「さようなら」

 一方的に通信を終えてしまった。


 後ろからキュウ坊が寄りかかってきた。

「あの人、なんだか苦しそうだった」

「俺たちには分からない悩みがあるんだろう。だが、悩みなら俺たちにもあるぞ。まずはそれを解決しよう」

「うん」


 *


 徒歩だと数日かかるのに、ほんの数時間でついてしまった。

 いや正確な時間は分からないが。まだ日は真上に来ていないから、昼にもなっていないはずだ。


 バリケードで囲まれた領地。

 街というよりは、要塞といった印象だ。

 土偶を近づけると、ガァン、ガァンと警戒するように金属板を叩く音がした。


「なんだアレは! 化け物か?」

「弓兵、あれを射よ!」

「投石機を出せ!」

 怒声が飛び交い、にわかにあわただしくなった。

 ここに市民は生活しておらず、兵隊がいるのみのようだ。

 柿藤という男、だいぶ用心しているようだな。


 矢が飛来してきたが、土偶に刺さることなく弾かれた。

 まあこれだけ強そうな装甲が、矢で射抜かれたりしたら俺だって困る。

 しかし投石機はどうだろうな。場合によっては被害を受けるかも。


 俺は人々に当たらないよう、建物のギリギリ上を狙い、目からビームを放った。

 ギュゥンという鋭い音があり、一筋の閃光が大気を切り裂いた。

 矢を射かけていた兵たちも、これには動きを止めた。

 さきほどまで蜂の巣をつついたような騒ぎだったのに、にわかに静まり返った。


「無駄な抵抗はやめよ! 兵を殺すつもりはない! 柿藤を出せ!」

 俺の言葉に、兵たちはふたたびざわつき出した。

 戦った場合、どのような結果になるかは、誰の目にもあきらかであったろう。

 妙な忠誠心を出さないでくれるといいのだが。


「退避! 退避!」

 給料に見合った労働でないと判断したらしく、隊長の命令で、兵たちは一気に後退を始めた。

 俺はせかしたりしない。

「慌てず撤退してくれ。怪我をさせたくはない。ただし柿藤、お前は逃げるなよ」


 あらかた引いたところで、俺は屋敷を目指した。

 キュウ坊に教えてもらうまでもなく、ひときわ豪奢なコンクリート製の建物が見つかった。

 三階建て。

 最上階はガラス張りになっており、大きなプールまで備えていた。危険な薬物で荒稼ぎしておいて、自分はこんな立派な家で豪遊とは。


 柿藤とおぼしき男は、その最上階でキョロキョロしていた。周囲には半裸の女たち。お楽しみの最中だったようだ。

「お邪魔します」

 俺は容赦なく土偶の手を突っ込ませ、柿藤を捕まえた。

「待て! 離してくれ! 誤解なんだ!」

「まだ用件も言っていないのに、どんな誤解が?」

「あんた、山の神かなんかだろ? 俺は山を掘ったりしてねぇ! もしそうなら、たぶんほかのヤツだ!」

 小汚いおじさんかと思いきや、意外と若い。小ズルそうな顔立ちではあるが、髪型をツーブロックにして、オシャレには気をつかっているようだ。


 俺はぐっと顔の前に持ってきて、柿藤に尋ねた。

「山の神じゃない。これはただの兵器で、操縦してるのはただの人間だ」

「そ、そうなのか? じゃあ……ええと、どこの組織の……」

「どこだと思う?」

「えーと、スマイルの連中かな? 待ってくれ。給料をあげるよう指示しておく! だがこっちもシンジケートをつぶされて大変なんだ! 分かってくれ!」

 安い給料でこき使ってたのか。


 俺は溜め息をついた。

「違うな。まあいい。片っ端から己の罪を懺悔してみろ。そのうちのどれかが当たるかもしれない」

「そんな……」

「当たったら許す気になるかもしれない。謝罪の気持ちがあるならな」

「分かった! 待ってくれよ。いま言うから。ええと……」

 助かるためなら、彼も必死になるだろう。

 もしキュウ坊のことを謝罪してくれて、キュウ坊自身も許す気になったなら、俺は手を引いてもいい。

 もっとも、俺たちが許したところで、このあと暗殺部隊が命を奪いに来るわけだが。


「あ、あのぅ、それって陛下に関係した話だったりします?」

「関係? ゼロではないな。しかし少なくとも陛下のご意思ではない」

「じゃあ……。分かった! シンジケートがトラブった烏賊組だ! けど、こっちだって被害者なんですよ? 立入禁止エリアに入って来たのはあいつらなんですから!」

「それじゃない」

「じゃあ、中野! あいつをスマイル・タウンの責任者にしたこと! あいつ、手癖悪いでしょ? それで怒ったんだ! 違う?」

「違う」

 第九皇女のことは、ちっとも頭にないのだろうか。


 すると柿藤は、はっと目を見開いた。

「分かった! ココノエか? あいつのファンが、俺をねたんで攻撃してきたんだ! 違うか?」

「……」

 そこでなぜココノエ本人だと思えないのだ?

 ファンに嫉妬されている?

 そういう人間もいるかもしれないが。茨の兄もファンだったようだし。


 柿藤は天を仰いだ。

「あ、違うか。じゃあ……えーと、飲み屋で蹴散らした街のザコ? それとも料金を踏み倒した女? どっちも数が多すぎて絞り切れねぇ。な、ヒントくれよ! ヒント! そしたら当てるから!」

「自分が傷つけてきた人間を、片っ端から思い浮かべてみろ」

「いやいやいや、勘弁してくださいよ。有象無象の感情なんていちいち考えてたら、領主なんてできねぇよ。いろんな人間をまとめねぇといけねぇんだから。難しい立場なんすよ?」

 一理ある。

 だが、それで恨まれるのもまた因果応報だろう。

 だからこんなことになっている。


 俺は屋敷の最上階を見た。女たちはすでに避難したようだ。

 手を伸ばし、水のたまったプールの中に柿藤を戻してやる。

「た、助けてくれるのか!?」

「いや、そういうわけじゃない」

「じゃあどういう……」

「死んでもらう」

「はっ?」


 エーテルを凝縮させ、至近距離からビームを放った。

 プールの水が一瞬で蒸発し、柿藤本人も水分を失った。

 人の形をした消し炭だけが、その場に残された。


「悪いなキュウ坊、残酷なものを見せちまって」

「うん……」

 どういう感情かは分からない。

 彼女は、俺の後ろで座席にしがみついたまま、じっとその光景を見つめていた。


 *


 帰路は、晴れがましい気分ではなかった。

 復讐を果たしたのは間違いない。

 だが、キュウ坊を複雑な気持ちにさせてしまった。

 俺がしたかったのは、本当にこんなことだったのだろうか……。


 帝都の手前で土偶をしまい、俺たちは徒歩で街へ向かった。

 今回はかなり距離をとって武装解除したから、誰にも見られていないはずだ。


 宿につくと、茨がだらしなく飲んだくれていた。

「ずいぶん早かったわね」

「すべて終わった」

「そのわりには浮かない顔だけど?」

「ま、なんだかな……」

 腰をおろし、中身の入ってそうな瓶を探すが、どれも空だった。

 俺の置いていったビールを、あらかた空にしてしまったようだ。


 キュウ坊は壁際にいき、膝を抱えて座り込んでしまった。


 まだ日は高い。

 街の賑わいも伝わってくる。


 なのに俺たちは、後味の悪い思いをいつまでも抱えていた。

 俺だけならまだいいが、キュウ坊まで。


 トラブルというのは、起きる前に対処するのが一番だ。

 人が傷ついてからでは遅い。

 もしあとからできることがあるとすれば、それ以上、傷つく人間が増えないようにすることだけ。


 しかし俺は、己の行為を正当化するつもりはない。

 それを社会のためにやったわけではないからだ。

 仲間を傷つけた人間に、苦しんで欲しかっただけだった。


(続く)

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