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人造神話  作者: 不覚たん
極東編
12/39

再会 二

 完蔵は座したまま、ひたいに汗をにじませていた。

「それでも……言えぬことはある……」

 いまにもデカいのを漏らしそうな顔だ。

 そこまで追い詰めるつもりはなかったのだが。


「そんなに重大な秘密なのか? せめてお兄さんが生きてるかどうかだけでも……」

「生きてはいる……。だが、俺に言えるのはそれだけだ……」

 その瞬間、茨は魂の抜けそうなほど溜め息をつき、その場に崩れ落ちた。

 どれくらい長いこと探し回っていたのかは分からないが、生きているというのは大きなニュースだ。少しは報われた気持ちだろう。


 俺はうなずき、完蔵に向き直った。

「情報に感謝する。ではこちらもひとつ譲歩しよう。なぜ古代遺跡を自由に出入できるのか。これは技術じゃない。俺の固有の能力だ。たぶんな。なぜか悪霊とやらが襲ってこない」

「そんな話を信じろと?」

「信じてもらうしかない。もし疑うなら、今度俺と一緒に行けば分かる。ホントに襲ってこない。理由は俺にも分からないが……」

 おそらく「神の眷属」というのが答えだが、いまこいつにその情報を開示するつもりはない。


 納得していない様子だったが、俺は話を進めることにした。

「次。ここの領主についてだ。謀反の疑いがある」

「証拠は?」

「のちほど開示する。もし放っておけば面倒なことになるぞ。帰って皇帝陛下にお伝えするんだな」

「証拠がなければ、陛下とて動けぬぞ」

「特別な情報網から得た情報だ。いまはそれしか言えない」

 すると彼は、またしても苦虫をかみつぶしたような顔を見せた。

「じつは我らもその件で動いていた。ここの領主である柿藤が、隣国の花田と結託し、皇帝の座を狙っているのではないかと」


 その柿藤というのが、キュウ坊の配偶者だ。

 俺たちが潰そうとしている相手。

 こないだ壊滅したシンジケートの取引先というか、親玉でもある。


「皇帝直属の烏賊組が、いまだ証拠のひとつも見つけられないとはな」

「そういうお前たちはどうなのだ!?」

 怒らせてしまった。

「デカい声を出すと店主に怒られるぞ」

「我らも必死に追っていたのだ。ところが手下てかの一人がしくじってな。シンジケートに捕まってしまった。そこでトラブルになっているうちに、柿藤は守りを固めて……」

「しかしある日、不穏な噂を広めている旅人が現れた。あんたはその足取りを追って、ここへ来た、と」

「そういうことだ」

 目的は一致しているように思える。


「やはり手を組めると思うが」

 俺がそう提案すると、しかし完蔵は険しい表情を見せた。

「話がウマすぎる」

「そうか?」

「帝国の分断を狙う刺客やもしれぬ。東から来たというのも怪しいしな」

「ウソだと思うなら足取りを追ってくれ。東に村がある。俺の名を尋ねればきっと知ってるはずだ」

 自分たちで追い出した村長の名前を、たったの数週間で忘れるとは思えない。


 いや、待てよ。

 ずっと「村長さん」としか呼ばれてなかった気がするぞ。


「仮に外部からの刺客だとして、だ。本当に謀反を企ててるヤツを指弾して、なにか問題があるのか?」

「そうする動機がお前たちにはない」

「動機? 俺が根っからの善人で、危険薬物の撲滅を願ってるだけかもしれないぜ」

「ふざけるな!」

 確かにふざけてるけど、いちいち怒らないで欲しいな。

「そっちだって特に困ることはないだろ」

「簡単に言うな。繊細な問題なんだ。柿藤はたしかに好人物とは言いがたい。第九皇女の失踪問題もある。だが、帝国への貢献は抜きんでているのだ。それを叩くとなると、相応の理由がいる」

 結局は金の話なのかよ。

 まあ分かってはいた。

 シンジケートをつぶしたのも、麻薬撲滅のためではなく、部下のミスを取り返すためだったようだしな。


 証拠、か……。

 やはりそいつが必要になるようだ。


「たとえば、どんな証拠があれば動けるんだ?」

「手紙だ。それも花田か柿藤が書いたもの。それがなければ軍は動かん」

 ムリだな。

 領主の屋敷に入り込んで盗むしかない。いや、読んだ直後に焼却しているかもしれない。

 手に入れるためには、届く直前でぶんどるしかない。


 ウソをでっちあげて攻撃するという手もあるはずだが、皇帝はそれをしたくないようだ。いい金づるなんだろう。なんなら第九皇女の失踪も「貸し」にできる。娘の件には目をつむるから、今後も銭を上納するように、ということだ。


 *


 適当に話を切り上げ、完蔵は帰っていった。

 だいぶ警戒されたから、きっと今後も監視されるだろう。

 ヘタな動きはできない。


「村長さん、これからどうするの?」

 キュウ坊が帽子をとり、手で髪を直し始めた。

 なんとかバレずに済んだようだ。

「正直、手詰まりだ。あいつら、思ったより腰が重い。やっぱり証拠がないとムリってことだな」

「そうだね。さっきの人の話を聞いた限りだと、ボクが帝都に行っても同じだった気がする。だからもう、この件はおしまいでいいよ。なんか気が抜けちゃった。いろいろありがとね、村長さん」


 キュウ坊の目的は、柿藤の謀略を報告すること。その点については達成できたのかもしれない。

 のみならず、烏賊組の連中はその事実に感づいていて、なお及び腰だということが判明してしまった。皇帝が柿藤の資金に依存しているからだ。


「分かった。この件はいったん保留にしよう。となると次は、茨さんのお兄さんだが……。けっきょくこっちも烏賊組が絡んでるんだよな」

 すると茨は肩をすくめた。

「帝都に行ってみない? 出頭しろって言われてたし」

「そういや出頭命令が出てたっけ。でもそれはいいんじゃないか? 出頭するまでもなく、あっちから接触してきたんだし」

「観光もしたい」

「でもキュウ坊が……」


 帝都には、キュウ坊をよく知る人物がいる。

 見つかったらマズい。


 だが当のキュウ坊は平然としていた。

「ボク? 大丈夫じゃない? 変装完璧だったし」

「完璧じゃない。さっきはたまたまバレなかっただけだ」

「だったら、護衛つけてもらおうよ」

「護衛? 余計に目立つだろ。そんな金もないし」

 まったくプランが読めない。


 キュウ坊はにっと笑みを浮かべた。

「さっきの烏賊組の人に頼むの。あの人にだけこっそりボクの正体教えてさ」

「そのまま皇帝に知られることになるぞ。そしたら君は、領主のところへ逆戻りだ」

「弱みを握れば大丈夫」

「……」

 タフに成長してくれるのは嬉しいが、本当に勝算があるんだろうな。


 *


 翌日、俺たちは手近な古代遺跡へやってきた。

 マイナスイオンの満ちた森、というよりは、謎のエネルギーで保護されたエリアだ。


「入るぞ。一緒に来ないのか?」

 俺は振り返り、そこらの茂みへ声をかけた。

 すると俺が目をつけていたのとは別の茂みから、ばさと霧隠完蔵が現れた。忍装束が草まみれだ。

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「うまく隠れるもんだな。そっちの茂みかと思った」

「話を聞け。いいか? 普通、こんなところに入ろうってのは、人生を終えようという人間だけだ。俺にそんな趣味はない」

「御託はいい。入るのか? 入らないのか? ハッキリしないなら置いてくぞ」

「待て。入る。だが心の準備が……」

 面倒だから置いてくか。


 俺たちが歩を進めると、完蔵は「おい待て」と駆け込んできた。

 まあちょっとくらい離れても、俺がいれば大丈夫なのだが。


 日差しも届かぬほどの暗い森。

 だが見えないほどではない。


「本当か? 本当に襲ってこないのか?」

 完蔵はやたらキョロキョロしている。

 もちろん「悪霊」とやらはおとなしくしている。というかどこかに潜んだまま、姿さえ見せない。


「完蔵さんよ、せっかくだから散策して行かないか?」

「ほ、本当か!?」

「お土産も持って帰っていいぞ。ただし、これだけサービスするんだから、少しは協力してもらわないとな」

「なんだ? おどろのことなら言えぬぞ……」

 かなり神経質になっているらしく、彼は身構えた。

 だがまあ、これからするのは、棘どころの話じゃない。


 俺が「キュウ坊」と合図すると、彼女はベースボールキャップをとった。

 薄暗いこともあり、完蔵は「だからなんだ」という顔をしていた。


「第九皇女ココノエです」

「は?」

 最初は半笑いだった。

 ヘタクソなモノマネを見せられているような。

 だが、その顔はすぐに固まった。

 のみならず、かすかに震え始めた。


「ウ、ウソだろ……。そんなこと、あるはずが……。いや、しかし……。だとしたら……」

 彼の中で、点と点がつながっている途中かもしれない。

 しかしボンクラの可能性もあるから、キッチリ教えてやるとしよう。

「領主殿の謀反の話は、こちらのココノエ殿下から直々に聞かされた話だ。さすがに信じるよな? おっと待てよ。いま俺たちから離れたら、悪霊とやらに殺されるぞ」

「!?」

「もちろん彼女の正体は誰にも言うな。皇帝陛下にもな。俺たちだけの秘密だ。守れるよな?」

「お、お前……お前なぁ! 俺は……陛下直々の……」

「いやいや、なにも陛下をあざむこうってんじゃない。陛下のご意向と、殿下のご意向と、どちらも尊重したらこうなるってことだ。もちろん協力するよな? 俺たちは運命共同体だろ?」

「ちょっと待ってくれ。軽く吐きそう……」

 素直なヤツだ。

「まあ深呼吸でもしてくれ。この清浄な森の空気を胸いっぱいに吸い込んで……」

「おろろろろっ」

「……」


(続く)

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