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第31話 還る日

「まだ手紙に続きがあるぞ」


 ”せっかく目が醒めたから、僕もしばらく世界を旅してみることにするよ。君達みたいに面白い子に会えるかもしれないし”


「……私達もしかしてとんでもないやつ解き放っちゃった?」


 ”やだなぁ。僕は世界征服とか世界に混乱をもたらす、とかそういうの全然興味無いから安心してよ”


「何で手紙にいちいち僕達が聞きたいことが書いてあるんだよ」

「どこかから見てるんでしょうか……?」


 ありえる、と全員思ったが、どうしようもない。


「ま、とりあえず任務は終わったし、ゆっくり戻れば良いわ」

「そうですね」


 この旅が終わればマイアは還る。それが分かっているから残りはのんびりと4人は山道歩いていく。爽やかな高原の風に吹かれながら歩くのも気持ちが良かった。


 もうすぐ還れると思うと何もかも感慨深い。離れがたい気持ちもどこかにある。

 思えば不思議な冒険だったわ。戻れると思うのに変な感じ。


 とうとう小屋まで辿り着き、小径を経由し、ミミの家に戻る。3人が見守る中、ミミは床に魔法陣を描いていく。


「出来ました」


 ミミは立ち上がり、小さく頷いた。


「いよいよ、還れるのね……何だか寂しい気がするわ」


 マイアはそう呟いて魔法陣の上に立った。その顔には微笑むようでいて泣き出しそうな表情が浮かんでいる。


「イライアスもレオも元気でね」

「お前もな」


 イライアスはそれだけ言うとぷいっと素っ気なく横を向いた。その様子にレオが苦笑いする。こんな時でも素直になれないのが、彼らしい。


「あ、そうだ。レオ、これ」


 そう言ってマイアはレオに手に持っていたついを渡す。


「向こうに持って行ってもしょうがないしね。誰か他の人に使ってもらって」

「……分かった。預かっておこう」


 レオは大事そうにその鎚を受け取る。


「君に会えて良かった。元の世界でも健勝でいてくれ」


 レオが切なさを抑えて、柔らかく微笑む。


「もーレオ、そういうのやめてよ……」


 美形に微笑まれると恥ずかしいやらドキドキするやら、まったく。


 この胸の高鳴りはそれだけなのか、マイアは深く考えないようにした。


「あの、マイア……その、ありがとう。それにごめんなさい」


 ミミが涙を堪えながら言う。


「ねぇ、ミミ。大魔女目指すのよ。あなたは立派な魔女なんだから。私との約束、良いわね?」

「はい」


 マイアが敢えて明るく言う。

 その約束がここにマイアがいた証。ミミとマイアの絆。


「さ、名残惜しくなる前にやってちょうだい」


 マイアは上を向く、涙が零れないように。ミミが呪文を唱え始めた。魔法陣が白く光る。


「何か色々はちゃめちゃだったけど、楽しかったわ。ミミ、レオ、イライアス、さよなら」


 ここに来て2週間くらい経ってるけど、今戻ったらどんな騒ぎになるかしら? 何て言い訳しようか……やっぱり記憶喪失で押し通すのが良いのかなぁ。


 そしてマイアは消えた。





 次の瞬間、マイアはグラウンドの隅に立っていた。


「ちょっと、マイア何ぼーっとしてるの」


 チームメイトが声を掛ける。


「え?」


「これから試合でしょ。しっかりしなよ。やっぱり緊張してるんじゃないの?」


 マイアは何度か目を瞬かせた。手にはフィールドホッケーのスティックに、ちゃんと揃いのユニフォームを着ている。


 試合 ? ……あっ、もしかして召喚直前に戻って来たってこと?


 とりあえず戻ってくる直前の心配は杞憂だったようだ。


 試合勘鈍ってないと良いけど……。


「えーと、なんでもない。行こ行こっ」


 マイアはチームメイトに見られないように涙を拭いて走り出した。





 その後。

 イライアスは賢人になることは一先ず諦めたが、魔法使いの修行もそこそこに哲学者のクランに移り、学者としても名を残した。

 レオはマイアの助言に従い、仮面で素顔を隠しながら戦い、最終的には仮面の騎士団長グランドマスターとして騎士達から篤い信頼を寄せられる存在となった。

 ミミはその後も様々な騒動や冒険に巻き込まれ揉まれた結果、大魔女となり魔女達の頂点に立った。


 3人は常に協力し合い、クランと世界の均衡を保つことに注力した。その変わらぬ友情に1人の少女が関わっていることを知る者は少ない。



ここまで読んで頂いてありがとうございました!


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