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第30話 ミミとマイア

「わたしは臆病で小心者だけど、卑怯なままではいたくない」


 何と言われるだろう。呆れられるだろうか。それも仕方がないかもしれない。

 それでも……。

 わたしが来てくれて良かったと伝えたい。そして、あなたを還すと。


「出口を見つけないと」


 ミミは暗闇の中でぎゅっと決意を固めたように両手で小さな炎を包む。


 ”なれるかどうかは問題じゃないわ。なろうとする意思、気持ちが大事なのよ”


 彼女のようになるには、彼女だったらどうするだろう。

 きっと、諦めない。


「道を見つけてみせる。絶対に」


 ミミの強い意思に反応するように手の中に小さな炎が明るく輝きだす。そしてそれが1つの形となる。ミミが不思議に思って手を開くとそこには赤い石があった。


「これは、ロード・ティス・エリーム……?」


 ふいに思い付き、ミミは鞄から”赤冠モルチエ”を取り出す。そして赤い石を冠の真ん中の窪みに嵌めてみた。

 ぴたりと収まる。


「あっ……」


 ”赤冠モルチエ”は再び力を取り戻し、ロード・ティス・エリームが煌々と輝く。そうして真っ暗だった世界が明るく照らされる。ミミは大きな広間の中に立っていた。


「ここは?」

「ミミ!」


 マイアの声がする。ミミが振り返ると、マイアを先頭にレオとイライアスの3人がこちらへ走ってくる。その姿を見てミミはほっとすると同時に、少し緊張した。


「マイア、レオ、イライアス……みんな」

「ミミ、大丈夫? 何だか急に明るくなってびっくりしたけど」

「う、うん」


 駆け寄ってきた3人はミミの手にあるものに驚く。


「ミミそれって……」

「”赤冠モルチエ”に赤い石が……」

「それを一体どこで見つけたんだ?」

「えーと……」


 どう説明したら良いのかとミミは考えるが上手く言葉が出ない。


「ま、そういうのは後で良いんじゃない? 早いとここの鉱山から出ましょ」


 マイアはそう言って周囲に視線を巡らせる。


 何かここ見たことあるわ。竜と戦った広間みたいな……まさかね。


「あ、ちょっと……」


 マイアにミミが声を掛ける。


「どうしたの、ミミ?」

「えーと、その……」


 ミミの様子にマイアは首を傾げた。ミミは”赤冠モルチエ”を握る。この冠が勇気を与えてくれるように。そして、マイアの顔を見つめる。


「あの、わたしマイアに言わないといけないことが……」

「言わないといけないこと?」


マイアが首を傾げる。


「……わたし、今ならマイアを還せると思います」

「えぇっ!?」


 ミミの言葉にマイアが驚いた顔になる。


「わたし友達が欲しかったんです。だから、マイアにずっと居て欲しかった。わたし、あなたを還す勇気が無かった」

「ミミ……」

「ごめんなさい」


 突然の告白にマイアは返事に窮する。急に還れると言われて、心が付いていかない。


 嬉しいはずなのに。絆されちゃったのかな、この世界に。


「わたしずっと寂しかった……周りから理解されないと思ってたから」


 マイアにはその気持ちは分からない。いや、勿論マイア自身そういう気持ちになったことが無いわけではなかったが、誰かを呼び出してまで満たそうとする程深刻なものではなかった。


「じゃ、私はミミの寂しさを紛らわせる為に召喚されたってこと?」

「……はい」


 マイアが険しい顔でミミを見返す。傍で2人のやり取りを見守っているレオとイライアスが心配そうな顔になった。


「……まったく、しょうがないわね。次はもっとちゃんとしたやつ呼び出しなさいよ」


 マイアは苦笑する。


「それを今ここで言うってことは、私はもう必要ないってことね」

「マイア……必要ないなんて。違うんです。このことを伝えなきゃ、わたしはきっと臆病なわたしのままだったから。マイアに頼りきってしまうから」

「ミミ、あんたは別に臆病じゃないわよ、ちょっと自信がないだけ」


 マイアの瞳が優し気に揺れる。


 私には妹は居ないけど、居たらこんな感じかしらね。


「マイア……わたし家に戻ったら魔法陣を描きます。そしたら家に還れますから」

「じゃ、さっさとここから出る道探しましょ」

「また、上まで戻らないといけないのか……」


 イライアスが下って来た道程を思い出し、うんざりする。


「そのことなんだけど……」


 マイアが喋り始めたとき、上からひらひらと紙が一枚落ちてくる。レオが手を伸ばしそれを掴む。


「何だこれは?」


 3人もレオの周りに集まり、紙を覗き込む。レオが紙に書いてある言葉を読み始めた。


 ”いやー、見事にロード・ティス・エリームを手に入れたね。おめでとう。僕からの餞別として入口まで送ってあげるよ”


「どういうこと?」


 全員が不審な顔をした瞬間、急に眩しい光に包まれる。思わず目を閉じた4人が再び瞼を上げたとき、そこは坑道の入口、赤い封印の施された鉄柵の前に立っていた。4人は久々の外の空気を思い切り吸い込む。新鮮な空気がとてもほっとさせる。


「良くわからないけど……あの男、今度こそちゃんと瞬間移動させてくれたみたいね」



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