インスタント・インシデント(2/2)
「はい、カゴ持って」
「お、おう……」
黒金は言われるがままだった。
「洗い物増えるのは可哀想だし、作るのも出来る限り楽に………」
火曜は考え事をする時はよく独り言が出る。黒金も半年経って慣れて来ていた。しかして、余計な事を言って刺激するのも嫌だったので、彼は黙って付いていく事にした。
次第にカゴは埋め尽くされていった。米の入った袋、白身魚、何種類かの野菜。スイーツコーナーにて熟考の末に入れられた杏仁豆腐に関しては彼はノーコメントを貫いた。
レジ前に来て彼女は言った。
「じゃあ会計よろしく」
「え?ああ。了解…?」
「二人で食べるにせよ私が作るんだから、良いでしょ?」
幸い彼はスマホと財布は持ち歩く事にしているので、会計を済ませて、レジ袋に買ったものを詰めてそのままスーパーを後にした。
外に出ると、ちょうど彼女が車を入り口まで寄せていた所だった。彼はそのまま助手席に乗るとレジ袋を後部座席に置いた。
一度車が止まる。けれどもそこは職場ではなく────
「ちょっと待ってて」
そこは彼女の住むアパートだった。
何かしらの荷物を取ってきて、再び車を走らせる。彼の家、もとい職場に着いたのは6時半過ぎであった。
「流石にお米の炊き方ぐらい知ってるよね?」
「まあ流石に。炊飯器あるぐらいだし。滅多に使わないけど……」
「じゃあよろしく」
彼が米を炊く準備をしてる間に、彼女は野菜を切る。
彼が炊飯器のスイッチを押した時点で一度休憩。炊けるのに時間が掛かるので、続きは炊けてから。
20分ほど経った後、彼女は服の上からエプロンを着て調理を始めた。一度家に帰った理由はこれらしい。
ー・ー・ー・ー・ー・ー
彼女は手際良く作業を済ませると、彼に何の断りも入れる事なく食器棚を開き、幾つかの食器を取り出した。
「はい、お米ついで」
「了解……」
少し経った後、料理を乗せた皿がテーブルに並べられる。白身魚を焼いたものと野菜炒め。そして白米。
「「いただきます」」
ー・ー・ー・ー・ー・ー
火曜が話しかける。
「味の方はどう?」
黒金は飲み込むのを待ってくれのジェスチャーをし、それを止めてから、
「ああ、うん。美味しいよ」
「当然ね」
彼女は少し得意げな顔をした。
「あのダンボール……まさか毎晩カップ麺とか言わないでよ?」
「あー……そのまさかなんだけど。てかさっきも言ったろ……?」
彼は目を逸らしながら言った。
「じゃあ朝は普段どうしてんの?」
「食べてない。朝は何というか……そう、食欲が沸かないんだよな」
「週末はどうしてるの?」
「晩飯だけ。どうせ出かけたりしない分エネルギーも使わないしな」
彼女は深いため息をついた後にこう言った。
「君ねえ、流石に早死にするよ?そのままだと。不健康すぎるって自覚ある?一日一食とかありえないから。それにカップ麺箱買いとか普通はしないからね?しかも何段か積んであったし。味に飽きるからって二種類買ってるのもなんかムカつくんだけど、それから─────」
黒金は諦めて彼女の説教に反論一つせずに最後にただ一言、
「善処はする」
とだけ答えた。
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残っていた仕事が終わり、火曜が帰る支度をしている。
「それじゃ帰るから」
「おつかれ」
「最低限は健康的な生活を送ること。良い?」
火曜は睨みながら言った。
「分かったって」
そうして火曜は帰って行った。
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後日、土曜日の夜。そこには慣れた手つきで湯を沸かす黒金の姿があった。今日は"どちら"にしようか、などと思いながら。
彼がまた怒られたのは言うまでもない。
挿絵:Glaceさん(Twitter:@Glace_forDroom)