決戦前夜(V-Day前編)
2月13日。夜の9時半。あるアパートの一室。
平たい金属製の箱の前で頭を抱えている女性がいた。何を隠そう火曜である。
何故、彼女が今現在こうなってしまっているか説明しなくてはならない。
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3時間前に遡る。午後6時半のこと。
いつも通り、仕事帰りに夕飯の材料を買うべくスーパーへ立ち寄っていた。
夕飯の材料を一通りカートに乗せた後、レジに向かう彼女の眼に、あるものが映った。棚に放置されていたアソートは彼女の頭上にある豆電球を灯した。
ふと、ある考えがよぎってしまったのだ。
常に無表情の相棒はきっとこの催しに縁もゆかりも無いに違いない。あの信じられないほど不器用な男のことだ。そうに違いない。
ならば、「彼が異性からこういったものを渡されたらどんな反応を示すのか」が気になってしまった。
今日こそは奴の鼻を明かしてやろう。そういう悪戯心であった。
そうと決まれば、その箱をカートに入れて、そのままレジに並び、会計を済ませ、車に乗せて、スーパーを後にした。
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彼女が現状の重大さに気が付いたのは3時間後のことだった。
そもそもの問題として、火曜は自分を棚に上げていた。そもそも自分も他人に、増してや異性にこういったものを渡したことが無かったのだ。
以上が彼女が頭を抱えている理由とことの顛末である。
「落ち着け私……!私だってもう20歳を過ぎた立派な社会人、職場の人間にこういう催しで何かを渡すのは社会的に普通のこと……!これぐらい……これぐらい…………」
彼女がどれだけ焦ろうとも、残酷な事に夜は更けていくのだった。
後編に続くと思います。
プロット協力:ゲルアさん




