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07 いきなり結婚

 それからというもの、ピアは俺にべったりになる。

 どこに行くにもついてきて、俺の命令をワクワクした表情で待つようになってしまった。


 何かを取ってきてくれと頼むと「かしこまりましたです!」とピャッと飛んでいって、嬉々として戻ってくる。

 まるで仔犬になつかれたような気分だが、特に邪魔というわけでもなかったので、好きなようにさせておく。


 寝るときになっても、じーっと俺を見つめているので、


「もしかして、俺の隣で寝たいのか?」


「はっ、はいです! あっ、い、いいえ! そんな怖れ多いことは……!」


 やれやれと抱き寄せてやると、ピアは遠慮がちにぴとっと俺に寄り添う。

 そして花が咲いたような笑顔で、


「ご主人様の安眠は、このピアがお守りしますです!

 ですのでご主人様、どうかゆっくりとお休みください!」


 そういえばゴーレムは眠らなくても平気なんだったな。

 でも人間のアストラル体なら、習性として眠るようになってるんじゃ……。


 と思っていたら、俺の胸元から、すーすーと安らなか寝息が聞こえてきた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 次の日の朝、俺は7時過ぎに目覚めた。

 たしか始業は6時からなので、初日から完全に遅刻だ。


 俺は平謝りのピアをなだめ、朝食を作ってもらう。

 パンの耳のサンドイッチを頬張りながら、寮を飛び出す。


「ちこく、ちこくーっ!」



 †パンを咥えながら朝の通学路を疾走するのは、女子生徒というのが定番である。

 そしてその場合は、転校生の男子生徒とぶつかるまでがワンセットなのだが……。

 もしこれが、走る側が男子生徒だった場合は、どうなるのだろうか……?


 そう……!

 ぶつかるのは、やはりっ……!



 ……どっしーん!



 俺は曲がり角をまがったところで、出会い頭に女生徒とぶつかり、前のめりに倒れてしまった。


「いててて……」


 ぶつかった衝撃はそれなりだったが、それよりも俺の身体は柔らかいものの上に乗っていて、その感触の良さのほうが勝っていた。

 さっきまでパンを咥えていた口元なんかは、ぷにゅっとした弾力に包まれている。


 瞼を開けると、海が広がっていた。

 それが、どアップの瞳であることに気付くのに、しばしの時間を要する。


 身体を起こすと、俺の下敷きになるように、ひとりの女生徒が倒れていた。

 歳の頃は俺と同じくらい。


 流水のような美しいロングヘアに、エメラルドブルーのおおきな瞳。

 頭の横から三角形の耳が飛び出ていたので、エルフ族というのがすぐわかった。


 そしてエルフ族というのは美形揃いといわれているが、彼女も例外ではない。

 顔立ちは端正かつ上品ながらも、あどけない可愛さがある。


 ちいさな口には、俺がさっきまで食べていたパンの半分があった。

 彼女は、ことさら大きく見開いた目を、しばらくぱちくりさせている。


 その瞳は、覗き込んでいる俺の顔を、水面のように映していたが……。


 ……ひゅーん、どどーんっ!


 不意に上空に爆音がおこり、彼女はハッと飛び起きた。

 俺もつられて空を見上げる。


 すると、そこには……。

 祝福するかのような魔導花火が、連続で打ち上がっていて……。


 学院の青空を覆いつくすかのように、魔導スクリーンが浮かび上がっていた。

 そこにはデカデカとした文字で、こんなことが書いてある。


『リンカーベル様、ご婚姻おめでとうございます!』


 俺は他人事のように、「なんだ、誰かが結婚したのか」とつぶやきながら視線を戻す。

 すると俺とぶつかった少女が、鬼のような形相で睨みつけているのに気付く。


 てっきりぶつかったことを怒っているんだろうと思い、謝ろうとしたが、どこからともなく沸いてきたヤジ馬でそれどころではなくなってしまった。


「リンカーベルさんがご婚姻を!?」


「この学院の高嶺の花と呼ばれたリンカーベルさんのハートを射止めたのは、どこのどいつなんだ!?」


「きっとフローレンス様よ!」


「いずれにしてもご高名で、容姿も魔法も完璧な方に違いありませんわ!」


 しかしヤジ馬は俺の顔を見たとたん、ほとんど悲鳴のような声をあげる。


「う、ウソだろっ!? あんなのがリンカーベルさんの婚姻相手だと!?」


「見た目はぜんぜんアレじゃねぇか! しかしうちの学院に、あんなのいたか!?」


「あっ、もしかしてあの人、噂の『Fランク』じゃない!?」


「ええっ、ウソでしょ!? Aランクのリンカーベルさんが、Fランクの男を好きになるなんて、ありえないわ!」


 ヤジ馬のおかげで、俺はなんとなく事情は飲み込めた。

 俺とぶつかった少女がリンカーベルで、どうやら俺は彼女と婚姻を結んでしまったらしい。


「でも、どうして……?」


 それは独り言のつもりだったのだが、リンカーベルがキッと反応した。


「へるふほふほいふのは……!」


 彼女は額に青筋走る顔で俺に何かを言わんとしていたが、口にパン耳サンドがあるので、うまく喋れていない。

 それを吐き出そうとしていたが、食べ物だというのに気付くと、口元に手を当てた上品な仕草でゴックンと飲み下していた。


 どうやら、食べ物は粗末にしない性格らしい。

 彼女はぷはっと息を吐くと、俺に向かって一気にまくしたてた。


「エルフ族というのは同じ食べ物を口にしながらキスをすると、婚姻を交わしたものとみなされるのよっ!」


「ええっ!?」



†そう……!

 それは『一生同じ糧を分かちあう』という誓いからきた、エルフ族の婚姻の儀式なのだが……。


 ようするに、ただのポッキーゲーム……!

 少年は計らずと、少女と交わしてしまったのだ……!


 ポッキーゲームの皮をかぶった、結婚の誓いを……!


 なお魔導花火は婚姻の儀式と連動していて、自動的に打ち上がる仕組みになっている……!

 高貴な人間の人生において、重要な節目に花火を打ち上げるのは、この世界では当然のこととされているのだ……!


 と言うことは、少女はエルフ族においても、かなりの高位の人間であることを表している……!


 少年……!

 齢15にして、美少女エルフとの逆玉に成功……!


 そして周囲の男たちは、高値の花をポッと出の少年にかっさらわれてしまった形となる……!

 彼らは嫉妬に耐えられなくなり、とうとう地団駄まで踏みはじめたっ……!



「くそっ! くそっ! くそっ! なんでだよっ、なんでだよーっ!」


「なんでFランクのヤツに、俺たちのアイドルのリンカーベルさんを!」


「俺たちの間じゃ、リンカーベルさんが夢に出てきただけで自慢できるっていうのに、本物を手に入れやがってぇ!」


「悔しいっ! 悔しいいーっ! お前なんか爆ぜろっ、爆ぜろっ、バカヤローッ!」

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