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05 炎神竜ゲット

 メイド型少女ゴーレムであるピアを起動した俺は、つぎにオモチャのドラゴンに着手する。

 ドラゴンは手のひらサイズ。


 ブリキみたいな金属製で、元々は赤い塗装だったようだが今はすっかり剥げている。

 ところどころサビついていており、背中には翼のパーツもあったようだが取れてしまっていた。


 俺はブリキドラゴンを手のひらで包み込むようにして持ち、アストラル体にアクセス。

 すると俺の脳内に、このドラゴンの性格構造を表す術式が浮かび上がってくる。



†術式というのは前述のとおり、その者の性格や行動原理などをプログラム的な命令文によって表記したものである。



 それはオモチャらしい単純な術式だった。

 ひとまず起動してみると、ドラゴンはギギギと軋む音をたて、せわしなく手足をバタつかせはじめた。


「我が名は炎神竜ヘルドラン、焦土に降り立つ者なり」


 いかにも魔導音声っぽい台詞のあとに、マッチを擦ったような火を、口からポッと吐く。

 どうやら、数歩進んでから台詞、そして火を吐くというのをひたすら繰り返す術式になっているらしい。


 手のなかで動き続けているブリキドラゴンの術式を、俺は脳内でさらに解析する。

 俺の隣に座っていたピアが、おそるおそる声をかけてきた。


「あの、ご主人様、ピアにお手伝いできることはありますですか?」


「いや、大丈夫だ。少しだけ待っててくれるか」


「はっ、はい。かしこまりましたです」


 ピアは改まった様子で居住まいを正すと、ベンチの上で脚を揃えて正座した。

 どうやら彼女にとってはこれが「待て」のポーズらしい。


 俺がドラゴンの術式を解析しようと思ったのは、単純な構造のわりに、すこしばかり容量が大きかったからだ。

 もしかしたら何か隠し機能みたいなのがあるかと思って、さらに分析してみると……。


 ビンゴだ。

 術式を斜め読みしてみると、巧妙に暗号化された圧縮術式らしき一文を見つけた。



†圧縮術式とは、本来は長文である術式を、圧縮して短くする魔法技術のことである。

 術式の容量を節約できるなどのメリットがあるが、圧縮された術式は展開して元通りにしないと使うことはできない。



 俺はさっそく暗号を解読しようとしたのだが、その途端、ブリキドラゴンが今までと違うリアクションを見せる。

 今までは、まさにゴーレムといった機械的な動きだったのだが、冬眠から覚めた爬虫類のように蠢きはじめたんだ。


「はっ……!? 我が覚醒するということは、何者かが我が封印を解こうとしているのだな……!?」


 ブリキドラゴンはトカゲのようにキョロキョロとあたりを見回し、俺という存在に気付いた。

 すると、ぐるぐると喉を鳴らす。


「フフフ……! たかが、『人間』か……!」


 ブリキドラゴンは、覚醒してもなお居丈高な性格のようだ。


「答えよ、人間……!

 我が封印にたどり着くまで、何千年の時を費やした……!?

 儚き人間どもが、どれほど霞のように消え去っていった……!?」


「封印に気付くまでは、だいたい3分くらいだったかな」


「ほほぉ、3千年か……!」


「いや、3分だって」


「フフフ……! 我がドラゴンジョークほどではないが、愉快、愉快……!

 我が封印は、たとえ高名な魔法研究者が3千人がかりで研究しても、たどり着くまでに3千年はかかるシロモノ……!

 しかし、まだまだよ……! ここから本当の、苦難……!

 封印の解除はさらに手強い……! たかが人間では、3億年はかかるであろうなぁ……!」


 俺は、そういうオモチャなのかな? と思いつつ暗号を解除する。

 暗号の先には、莫大な量の術式が隠されていた。


 当のブリキドラゴンは魂を抜かれたみたいに、ポカンと口を開けたまま動かなくなっていた。


「あれ? どうしたんだ、おい?」


「う……うそ……だ……!

 わ、我が封印が、さっ、3秒で解かれるとは……!

 うっ……! うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 俺の手のひらにいたブリキドラゴンが、ぼんっ! と炎上する。

 隣にいたピアが「きゃっ!?」と小さな悲鳴をあげた。


「だ、大丈夫ですか!? ご主人様! お怪我は……!?」


「俺はなんともない、それよりもコイツだ」


 ブリキドラゴンは身体じゅうからしゅうしゅうと白煙を立ち上らせている。

 俺をギロリと睨み据えると、


「我が封印を解いた貴様に、我が『真名』を教えてやろう……!」


 おっ、ブリキドラゴンはただのオモチャじゃなかったのか。

 興味がそそられた俺は、「ああ、教えてくれ」と頷き返す。


 ピアも気になるのか、真剣な表情で俺の手のひらを覗き込んでいた。


 ブリキドラゴンは、やたらともったいつけた口調で、


「ならば、教えてやろう……!

 我が名は、炎神竜ヘルドラン……!

 焦土に降り立つ者なり……!」


 俺はズッコケそうになった。


「いや、それはさっき聞いたよ」


「フフフ……! これは、ドラゴンジョークなどではない……!

 我は(まこと)の炎神竜なのだ……!


 我の肉体は、女神の勇者たちによって、我が住処の火山ごと氷漬けにされた……!


 しかし完全に氷結させられる瞬間、我はアストラル体だけを分離させ……。

 勇者のひとりが持っていたこの玩具に憑依し、生き延びたのだ……!


 そして憎き女神を倒す力を取り戻すまで、たかが人間たちの玩具として、身をやつした……!」



†この炎神竜は、知る由もない……!

 いま目の前にいる『たかが人間』の母親が、その『憎き女神』であることを……!



「我が封印は、たかが人間では解けぬほどに強固であった……!

 我が封印を解けるのは、我が邪神竜たちが仕える『偉大なる魔神様』のみ……!」



†重ねて言うが、この炎神竜は、知る由もない……!

 いま目の前にいる『たかが人間』の父親が、その『偉大なる魔神』であることを……!



 『炎神竜ヘルドラン』については、俺も知っている。

 だって本に載ってるくらい有名な神竜だからな。


 ヘルドランの口から放たれる炎はすさまじく、たったの七日ですべてを焦土に変えるほどだそうだ。


 そして俺は、封印を解かれたアストラル体の術式を解析してみたんだけど……。

 その内容からするに、コイツはどうやら本当にその『炎神竜ヘルドラン』のようだった。


 ヘルドランはいつの間にか、俺の手のひらで(こうべ)を垂れていた。


「我が封印を解いた者に、我は従う……!

 たった今より我は、あなた様のために、全身全霊を捧ぐことを誓いあぐる……!」


 うーん、俺はどうやら知らず知らずのうちに、世界を滅ぼす力を持つ神竜の封印を解いてしまったらしい。

 そしてついでに、従えてしまったようだ。

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