30 恋
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街に出たリンカーベルは、期待と不安の入り交じった表情で、あたりをきょろきょと見回していた。
「ここが、街の南……。なんだかごちゃごちゃしてるわねぇ……」
俺は馬車から彼女を引っ張りだした時点で手を離すつもりだったんだが、彼女のほうが離してくれなかった。
心細いのを紛らわせるように、俺の手にぎゅっと指を絡めてきている。
しょうがないので、俺はこの仲良しこよし状態で街めぐりをすることにした。
ここいらには二度ほど来たことがあるので、どこになにがあるかは大まかに把握している。
まずは以前、ピアとヘルドランを手に入れたジャンク街に行ってみることにした。
リンカーベルは、まるで異国に初めてきた旅行者のように、見るものすべてを珍しがっていた。
「うわぁ、見て見て、ミカくん! すごい、見たこともない武器がいっぱいある!」
「古本屋さんだわ! すごい、まる本の森に迷い込んだみたい!」
「は、歯車のお店!? 歯車って、こんな風に別々に買えるんだ!?」
最初は不安がっていた彼女だったが、好奇心に火が付いたようで、「次はあっちに行ってみましょう!」と俺をあちこちに引っ張り回した。
行く先々で「うわぁ……!」と目を輝かせている。
まるで初めて遊園地にきた子供みたいだな、と俺は思う。
そして彼女は身なりのいいお嬢様だったので、この街では嫌というほど浮いていた。
そのうえ学院でもトップクラスの美少女なので、街の人たちはみな彼女に釘付け。
ついには通りすがりの屋台から、タダで食べ物をもらい始める始末。
「お嬢ちゃん、かわいいねぇ! ほら、これあげるよ、食べてみな!」
「わぁ、ありがとうございます! こんな食べ物初めて見ました! うふふ、丸っこくてかわいい!」
「ホットドッグっていうんだ、お嬢ちゃんの口に合うかわからないけど、どうだい?」
「うんっ、すっごく美味しいです! こんな刺激的な味、初めてです!」
初めてのジャンクフードに、百点満点の笑顔を浮かべるリンカーベル。
それがあまりにも美味しそうに食べるので、食べ慣れているはずの道行く人々まで食欲をそそられ、屋台に行列を作り始める。
行く先々で客を呼ぶリンカーベルは、まさにジャング街に舞い降りた天使のようだった。
そして立ち寄ったオルゴール屋で、運命の出会いを果たす。
「あっ、オルゴール屋さんだ! ミカくん、行ってみましょう!
実は私、ずっと探してるものがあるんだ!」
「なんだ?」
「ママからもらったオルゴールには、『妖精の姫騎士』の人形が付いてるんだけど……。
本当は『妖精の魔術王子』と、対になってるんですって。
ふたつ揃うとふたりでペアダンスを踊るようになるらしいって、ママが言ってたの。
だから子供の頃からオルゴール屋さんに行くたびに、ずーっと探してたんだけど、ぜんぜん見つからなくて……」
「それって、コイツじゃないのか」
俺が指さしたのは、ひとつ100クレジットのワゴンの中に山積みになった、王子様の人形。
リンカーベルは髪の毛が渦を巻くほどに驚いていた。
「えっ、ええええっ!? なんでなんで、なんでっ!? なんで王子様がこんなに!?」
「あのオルゴールはかなりの数が作られてたみたいだ。
今じゃ動くのはほとんどないらしいけど、人形だけはこうやって大量に余ってるんだよ。
お姫様のほうは飾り物として人気があるから、それなりの値段で取引されてるようだが。
いずれにしても、セレブ街のオルゴール屋には置いてないだろうな」
「お……おじさんっ! このワゴンにある王子様、ぜんぶくださいっ!
あと、そこのショーウインドウに飾ってあるお姫様もぜんぶ!」
「ぜんぶ買うのかよ!?」
「うん、だって可哀想じゃない! この子たちはきっとオルゴールの上で踊りたがってるはずだわ!」
人民兵のごとく大量のオルゴール人形をゲットしたお嬢様は、今年いちばんの買い物をしたかのようにホクホク顔だった。
「私、この街のことを誤解してた! 学院の子たちはみんな、怖くて汚い街だって言ってたけど……。
みんなあったかくて、とっても素敵な街ね!」
「どうやら、連れてきた甲斐があったみたいだな」
「甲斐なんてもんじゃないわ! 私の生きがいを満たしてくれたんだもの!
本当にありがとう、ミカくん!
それに……男の子といっしょに遊んで、こんなに楽しかったのは初めて!」
「そうか、そりゃよかった」
「あ、あの、ミカくん……もしよかったら、これからも、私と……」
「ああーーーっ! おにいちゃんだーっ!!」
通りの向こうから、元気いっぱいの女の子の声が割り込んでくる。
見るとそこには、おもちゃを抱えた子供たちがたくさんいた。
「あのおにいちゃん、おもちゃのおいしゃさんなんだよ!
チロちゃんもあっというまになおしてくれたんだよ!」
「わあーっ! おにいちゃん、ぼくのおもちゃもなおしてーっ!」
号令一下、子供たちがわーっと俺たちの元へと押し寄せてくる。
どうやら、女の子が俺のことを触れ回ったらしい。
俺と一緒になって、子供たちにもみくちゃにされるリンカーベル。
「ちょ、ミカくん!? この子たち、どうしちゃったの!?」
「悪いが、街歩きは中断して、『おもちゃのお医者さん』だ!
俺はおもちゃを直すから、お前は子供たちを整列させてくれるか!?」
「わ……わかったわ!」
リンカーベルはさすが優等生だけあって飲み込みが早かった。
そして子供の扱いも慣れたもので、しゃがみこんで目線を合わせ、やさし笑顔で言い聞かせていた。
「それじゃあみんな、おもちゃを持って二列に並んでね。
いい子にしてたら、『おもちゃのお医者さん』がおもちゃを直してくれるからね」
「おねえちゃんはだれなの!?
だれだかわからないひとのいうことはきいちゃだめだって、せいじょさまがいってた!」
「ばかだなぁ、おまえ、このひとは『おもちゃの看護婦さん』に決まってるじゃないか!」
「そっか、だからおいしゃさんといっしょにいるんだね!」
「そうよ、看護婦さんのいうことは、ちゃんと聞いてね」
「はぁーいっ!」
あっという間に二列に並びなおす子供たち。
俺は地べたに座り込んで、先頭からひとりずつおもちゃを見てやった。
「うわぁ、ぼくのファイターがなおった! ありがとう、おにいちゃん、おねえちゃん!」
子供たちは、近くの孤児院で暮らしているようで、壊れて動かなくなったおもちゃをずっと使い続けていた。
そして孤児院の聖女がしっかりと躾けをしているのか、おもちゃを直してやったらどの子もきちんとお礼を言っていた。
この調子で全員のおもちゃを直してやろうとしたが、急ブレーキがかかる。
とある女の子が、腕が取れて中身がはみ出した、ウサギのぬいぐるみを持ってきたからだ。
「うーん、魔導接着ならなんとかなるんだが、このぬいぐるみを直すのは、針と糸が必要だなぁ……」
それにあいにくと俺は、裁縫の技術は全くない。
「おにいちゃん……うさちゃん、直らないの?」
しかしここで、意外な人物が立ち上がる。
「ミカくん、私に任せて!」
それまで看護婦に徹していたリンカーベルが、ピャッとどこかに走り去り、風のような速さで戻ってくる。
手にはソーイングセットがあった。
「裁縫は得意なの、私に任せて!」
そう言うなり地面に正座したリンカーベルは、ウサギのぬいぐるみの腕を、あっという間に縫い付けてしまった。
あとは俺がぬいぐるみの術式を、修正してやれば……。
「うわぁぁぁぁーーーーーっ! ウサちゃんがうごいた! ウサちゃんがうごいたーっ!
ありがとう、おねえちゃん、おにいちゃん!」
リンカーベルの特技のおかげで、女の子に笑顔が戻る。
俺も思わず嬉しくなって、リンカーベルに向かって言った。
「俺からも礼を言わせてもらうよ、ありがとうな、リンカーベル」
……トゥンク……!
†少年の笑顔を目にした途端……。
リンカーベルは、かつてない胸の高鳴りを感じていた。
切なく、締め付けられるように苦しいのに、なぜか狂おしいほどに甘い……!
なにを隠そう、リンカーベルは少年と初めて出会ったその瞬間から、この名状しがたき感覚に、事あるごとに悩まされていたのだ……!
しかしついにここに来て、その正体に気付いてしまった……!
リンカーベルは心のなかで、こうつぶやく。
――ああ……私、この人のことが……。
好きに、なってしまったんだ……。
そう……!
その感情の名は『恋』っ……!




