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03 入試で伝説魔法

 やりすぎてしまった手前、俺は殴られ屋を介抱してやることにした。


 観客たちの去ったあとの広場で、気を失った殴られ屋をベンチに運ぶ。

 殴られ屋はオグル族だけあって俺の倍くらいの体格があったので、重量軽減の魔術を使って運んだ。


 噴水の水を魔術で動かして、寝ている殴られ屋の顔にぶっかけてやると、


「うわっぷ!?」


 と飛び起きた。

 そして俺の顔を見るなり、豪快に笑う。


「わっはっはっはっ! どうやら俺様はのされちまったようだな!

 俺様の田舎でも、こんなにいいパンチを打つヤツはいねぇ! お前、気に入ったぜ!」



†オグル族というのは、拳で語り合うという。

 殴り合ったあとは、もう親友なのだ……!



「俺様はガンバレイだ! お前は?」


 殴られ屋はフレンドリーに自己紹介してきた。

 俺は少々面食らってしまったが、彼の隣に腰掛ける。


「ミカエルシファーだ。みんなからはミカって呼ばれてる」


「ミカか! 女みたいな名前だな! わっはっはっはっ!」


 何がそんなにおかしいのか、ガンバレイは笑いながら指で空中に文字を描いていた。

 すると、彼の目の前に魔導スクリーンが現れた。


 どうやらそれは、所持金のステータスのようだった。



†魔導スクリーンというのは、一時的で小規模なサイズであれば、使用者の魔力によって空中に投影することも可能。

 身体的なステータスなども、この魔導スクリーンで確認することができるのだ。


 そしてこの世界における主要通貨、『クレジット』は物理的(フィジカル)なものではない。

 別の世界でいうところの、『仮想通貨』のようなものなのだ……!



 ガンバレイは魔導スクリーンを指でいじって所持金を操作する。

 すると、今度は俺の目の前に魔導スクリーンが現れた。


 そこには、こんなメッセージが。


『ガンバレイさんが10万クレジットを送金してきました。受領しますか?』


 俺が「これは?」と尋ねると、ガンバレイはまた笑った。


「わっはっはっはっ! 俺をノックアウトした賞金に決まってるじゃねぇか!

 おかげで入試のために貯めておいた金が、スッカラカンになっちまった!」


「入試って?」


 するとガンバレイは別の魔導スクリーンを呼び出して俺に見せてくれた。

 それは魔導スクリーンを用いたチラシで、『センキネル総合魔法学院 中途入学試験案内』とある。


 『センキネル総合魔法学院』というのは、この近くにある魔法学校のことだ。


「俺様は田舎から出てきて、学院に入るために金を貯めてたんだ!

 次の入試を受けようと思ってたんだが、またしばらくあずけだ! わっはっはっはっ!」


 入試要項をよく見てみると、試験を受けるには5万クレジットほど必要らしい。

 俺はその学院とやらに、なんとなく興味が出てきた。


 なにせセンキネル総合魔法学院といえば、このあたりでも最高の魔法教育機関として有名だからだ。


「なぁガンバレイ、このチラシをコピーさせてもらっていいか?」


「ああ、もちろんだ! わっはっは……!」


 俺は魔導スクリーンを操作して、チラシをコピーする。

 するとなぜか、ガンバレイのバカ笑いが急に引っ込んだ。


「どうした?」


「い、いや……。お前いま、魔導スクリーンにいっさい触らずにコピーしてたよな?」


「ああ、それが?」


 俺は問い返しながら所持金のウインドウを一瞥し、ガンバレイに返す。


「それが、って……おおっ!?」


 ガンバレイは驚きっぱなしだったが、それよりも自分の所持金が5万しか減ってないことにいちばん驚いているようだった。


「おい、なんで5万しか受け取らねぇんだ!? お前は俺をノックアウトしたんだ、遠慮なく受け取りやがれ!」


「いや、遠慮してるわけじゃないよ。その5万はチラシ代だ」


 俺はさっさとベンチから立ち上がる。

 ガンバレイに「学院で会おうぜ」と別れを告げて歩き出した。


 すると背後から、すがすがしい笑い声が届く。


「こりゃまたしても、一本取られちまったな! わかった! 次に会うときは学院だ! わっはっはっはっ! わーっはっはっはっはっはっはっはっ!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 善は急げというわけではないが、俺はこの都市の中央にあるという『センキネル総合魔法学院』に足を伸ばす。

 流線型の巨大な建物が建ち並ぶ学院を見上げながら外壁に沿って歩いていると、門のところに大きな魔導スクリーンが出ていた。


 そこには、『センキネル総合魔法学院 中途入学試験受付』とある。

 俺の足は自然と、その受付に向いていた。


 受付には試験を受けに来たのであろう、俺と同じくらいの年頃のヤツらが行列を作っていた。

 そこでふと、俺は思う。


 もしかして、ガンバレイも俺と同年代なんだろうか。

 アイツ、オッサンみたいな顔してたけど……。


 そんなことを考えている間に受付がすんだ。

 俺は案内に沿って学園の敷地を歩き、とある建物にある『魔導昇降機』に乗って、30階にある試験会場の待合室へと来ていた。


 そこで待っていると名前を呼ばれたので、試験会場に入る。

 そこには、撫でつけた髪にチョビヒゲの男が中心となった、いかにも鼻持ちならなそうな面接官たちがいた。


「マイはこのセンキネル総合魔法学院の未来の学長といわれている、ヤイミざんす。

 まずは名前と種族を答えるざんす」


 俺は「はぁ」と前置きしてから切り出す。


「名前はミカエルシファー。種族はヒート族です」



†『ヒート族』というのは、他の世界でいうところの『人間』のことである。

 なお余談となってしまうが、この世界ではヒート族もオグル族も、すての種族をひっくるめて『人間』という定義になっている。



「ふむ、それでは次に、出身を答えるざんす」


「はぁ、出身はボーツラクス王国です」


 俺への面接がまともだったのは、ここまでであった。

 なぜならば俺の出身を聞いた途端、面接官たちは上品に口を押え、下品な笑い声をあげはじめたから。


「シェシェシェシェ! とんでもないド田舎から来たんざんすねぇ!

 ボーツラクスといえば、つい最近やっと魔法団が導入されたばかりの魔法後進国ざんす!

 そんなところから来た田舎者に、ロクに魔法が使えるとは思えないざんす!

 使用言語はなんざんすか?」


「はぁ、『魔神語(ヤイヴァ)』ですけど」


 するとヤイミたちは、「シエッ!?」と大袈裟に驚いたあと、テーブルをバンバン叩いて大爆笑。


「シェシェシェシェ! 『魔神語(ヤイヴァ)』といえば、最底辺の低級魔術ざんす!

 魔術の始祖とされ、原始人が使っていたともいわれているざんす!

 あまりにも低級すぎて誰も使わなくなって、何千年も前に滅んだといわれているざんす!

 とっくの昔に絶滅した幻の言語なのに、まさかこんなところに術者が残っていただなんて……!

 シェシェシェシェ!」


 ヤイミの舌の調べは止まらない。


「我が誇り高きセンキネル総合魔法学院は、本来は高級言語のみを取り扱う学院ざんす。

 低級言語は本来、受験すらお断り願いたいところざんす。

 でも今の学長が変わり者で、いちおう試験だけは受けさせるようになっているざんす」


 ヤイミはブツクサ言いながら、会場の傍らにあった木の人形を指さす。


「それじゃ次は実技ざんす。

 魔術なら、あの人形に向かって『火線』を当ててみるざんす。

 低級言語の魔術には絶対に不可能なことざんすが、あの人形まで『火線』を届かせることができたら合格ざんす」


 俺は「えっ」となった。


「いいんですか? ここ、室内ですけど……」


「さっさとするざんす! こっちには低級言語の相手をしているヒマなんてないざんすから!

 燃えカスみたいな魔術を出したら、回れ右してさっさと出ていくざんす!」


 ヤイミは苛立った様子で、テーブルをダンダン叩いて俺を急かす。


 こんな狭いところで『火線』を使うのは初めてなんだけど……。

 まあ、いいって言うならやってもいいのかな。


 俺は人形に向かって手をかざしながら、本日二度目となる詠唱を行なう。


「……!」



†繰り返しとなるが、少年の詠唱は、この世界の言葉ではなかった……!

 まるで竜が唸るような、『音』……!


 どこまでも重苦しく、そして熱かった……!

 さながら炎を吐き出さんとする、『竜』のように……!


 次の瞬間っ……!



 ……ゴォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーッッ!!



 火山が噴火したような爆音とともに、豪熱が噴き出すっ……!

 それは人形を消炭ひとつ残らず消し去り、それどころか……!



 ……ドォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 試験会場の壁をも吹き飛ばし、ガス爆発を起こしたような炎を吹き上げていたっ……!!



 俺は手のひらから出ていた炎がおさまった時点で、「やりました」とヤイミたちに向き直る。

 彼らは自分たちがやれと言っておきながら、目の焦点が定まっておらず、口の端から泡を吹くくらいに驚いていた。



†そう……! これは俗に言う『アヘ顔』っ……!



「あっ、あひぃぃ……!? こここ、この、魔術はぁぁ……!? ででっ、伝説の破壊魔法……りゅっりゅっ、『竜炎』……!?」


「いえ、『火線』です」


 これが『竜炎』なわけがない。

 もし『竜炎』だったら壁だけじゃく、この建物ごと消し飛んでいただろう。


「ごっ……ごごっ、ごごごっ……合……格……ざん……す……」


 ヤイミは臨終の言葉のように途切れ途切れに告げると、かくんと首を折り、それっきり動かなくなった。

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