28 思い出のオルゴール
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女の子が去っていったあと、身なりの良い老紳士から声をかけらえた。
「あの、さきほどのあなた様の修理の腕前、拝見しておりました。
あなた様ならお嬢様の大切なものを直せるかもしれない。
どうか、私といっしょに来ていただけませんか?」
仕事の依頼なら断る理由もないと、俺はその老紳士のあとについていくことにした。
老紳士は俺を馬車に案内すると、御者に命じて馬車を北のほうに走らせた。
この『魔導都市センキネル』は『センキネル総合魔法学院』を中心として、北と南に別れている。
北側はセレブたちが住む、いわゆるハイソな地域とされており、俺がいた南側は、庶民や貧民が暮らす地域となっている。
北側に入った途端、雑多だった風景は急に洗練されたものになる。
高級な魔導車や魔導馬車が行き交い、建物から道行く人までみなオシャレで豪華だ。
貧相な身なりの男がうろついていたのだが、すぐさま衛兵にとっつかまって、南側の境目に蹴り出されていた。
ちなみにではあるが学院のほうも北門と南門があり、北門はこのセレブ街への直通となっている。
そのため、北門はCランク以上の生徒でないと利用できないらしい。
そうこうしているうちに、馬車は一軒の豪邸にたどり着く。
緑あふれる広い中庭には、妖精を模した彫像が至るところにあり、噴水まであった。
屋敷の中も、田舎では王室でしか見たことがないほどに豪華。
老紳士はこの屋敷の執事らしく、俺を客間に通すと、
「それではご依頼のお品をお持ちしますので、少々お待ちください」
しばらくして、執事は紅茶とともにひとつのオルゴールを持ってきた。
「それは、お嬢様がお母様より受け継いだオルゴールです。
見た目はおもちゃのようなのですが、お嬢様はとても大切になさっていました。
ですが、音が出なくなってしまって……
国じゅうのオルゴール職人を訪ねてみたのですが、誰ひとりとして直せるものはいなかったのです」
「プロのオルゴール職人がダメだっていうのなら、難しいかもしれないな……。
まぁ、見てみるよ」
「ああ、引き受けてくださるのですね。ありがとうございます。
それでは私はお嬢様のほうにお知らせしてまいります。
お嬢様はいま隣の客間でお客様のお相手をされておりますので、なにかあったらノックしてください」
執事はうやうやしく礼をすると、客間から出てく。
俺は苦戦を覚悟でオルゴールの修理にとりかかったのだが、拍子抜けするくらいあっさり直ってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
†その頃、隣の客間では、ふたりの男女がティータイムの真っ最中であった。
「リンカーベル、今日はお前に素敵なプレゼントを持ってきてやったぜ」
「ダブルダブリューくん、いつも言ってるでしょう、『お前』なんて呼び方はやめてって」
「なぜだ? 俺は未来の夫だぞ?」
「もう、私は男の人には興味ないって言ってるじゃない。
今日も断ったのに、無理やり押しかけてきて……」
「ふふ、もういい加減、照れ隠しはやめな。
このダブルダブリュー以上の男なんて、どこにもいやしないのさ」
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことあるぜ。
だって俺は、『金持ち連盟』と『極悪連合』のどちらにも顔が利くんだぜ?
そんなヤバい男、どこを探したっていやしないだろう?」
「私、学院の派閥には興味ないんだけど……」
「強がんなよ。どんな女も、『ワル』と『金』という二大ブランドの前には跪いて、しゃぶ……。
おっと悪い悪い、お嬢様には刺激が強すぎたかな。
コイツをやるから、機嫌を直してくれよ」
†苦虫を噛みつぶしたような顔で黙り込むリンカーベル。
ダブルダブリューはワルぶったドヤ顔で、小箱を取り出した。
「ほら、どうだ、この美しいオルゴールは。
お前の誕生石がちりばめてある、最高級のオルゴールだぜ」
「素敵だけど、いらないわ。
そんな高価なものをもらうわけにはいかないし」
「なに言ってんだ、俺にとっちゃこんなに端金だぜ?」
「それはあなたが稼いだお金で買ったものじゃなくて、あなたのお父様のお金で買ったものでしょう?」
「あんな悪徳オヤジの金なんて、有り難がるんじゃねぇよ。
汚いことをやって稼いだ金に決まってるんだ。
そんな心にもないことを言うってことは、もしかして、まだあのオルゴールにこだわってんのかよ?」
「ママからもらった大切なオルゴールを悪く言うのはやめて。
私が好きになる男の人がいたとしたら、あのオルゴールの音色を再び聴かせてくれる人だって、何度も言ってるでしょう?」
「ハッ! だから俺も最初のうちは、隣国のオルゴール職人まで当たってやったんじゃねぇか!
でもあんなオモチャみたいなオルゴール、治せるわけがねぇって言われたんだ!
俺も同感だぜ、あんなオンボロオルゴール、さっさと捨てちまえよ!
なんだったら俺が、今ここでブッ壊してやる! お前の部屋にあるんだろ!?」
「や……やめて!」
……カチャッ。
隣の居間の扉を開けると、なぜかそこにはリンカーベルと、見知らぬ男がいた。
「み……ミカくん!? なんであなたが私の家にっ!?」
「なんだ、ここはお前の家だったのか。もしかして、執事のおっちゃんが言ってたお嬢様ってのはお前のことか?」
「ああっ!? それは、私のオルゴール!?」
「ああ、お前の執事に直してほしいって頼まれて、ここに来たんだよ。
直ったから執事のおっちゃんを探してたんだが……」
「お……お前、うちの学院のFランクだろう!?
ウソつけっ! プロのオルゴール職人も直せなかったオルゴールが、お前みたいなFランクに直せるわけがねぇぜ!」
「なんだお前」
「ハァ? この俺のことを知らねぇってのかよ!?
『金持ち連盟』と『極悪連合』……。
学院の二大派閥に顔がきく、このダブルダブリュー様を!」
「知らん。俺、派閥に興味ないし」
するとなぜかリンカーベルが「ブフォッ!?」と吹き出した。
「てめぇ、そうやって一匹狼を気取って、リンカーベルの気を引こうってハラかよ!
そのうえ、直せもしねぇオルゴールまで持ち出しやがって!」
「本当に直したんだって、聞いてみるか?」
俺は、手にしていたオルゴールの蓋をパカッと開く。
すると、素朴ながらも暖かいメロディーが流れ出し、空間を満たす。
オルゴールの中は鏡面を利用したミニチュアの湖になっていて、その上を『妖精の姫騎士』を模した人形がいきいきと踊っていた。
俺は素直な感想を述べる。
「いい音色だよな。このオルゴールはかなりの年代もので、何人もの手を渡ってきたんだろう。
でもどの持ち主にも大切にされていたのがわかる。
この深みのある音色は、買ったばかりのオルゴールに出せるもんじゃないからな」
と、リンカーベルを見たとたん、俺は少しばかりドキリとした。
なぜならば彼女は、海に沈んだ宝石のように潤んだ瞳から、真珠のような涙をぽろぽろと溢れさせていたからだ。
リン……と俺が言うより早く、花のようなふわりとした香りが、俺の胸に飛び込んでくる。
「あ……ありがとう! ありがとうミカくんっ! うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」




