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26 ダイレクト・アプローチ

 板割り10枚を達成したシスイを、部員たちがワッと取り囲む。


「キャプテン! 板割り10枚達成おめでとうございます! この学院始まって以来の大記録ですよ!」


 シスイは興奮冷めやらぬ様子の部員たちをなだめたあと、『出来損ない』と罵っていた男子部員に向き直る。

 そして、頭を下げた。


「お前には実力があったというのに、拙者の指導が至らぬせいで……! すまぬ、許してくれ……!」


「あ、頭を上げてください、キャプテン!

 俺もやっと板割りができるようになって、この部の戦力になれたんですから!

 こうなったら次の大会で、優勝を目指しましょうよ!

 そうだよな、みんな!」


「おおーっ!!」


「お……お前たち……!」


「あっ、キャプテンがまた泣いてらぁ! キャプテンってば案外泣き虫だったんですね!」


「でも、今のキャプテンのほうが好きかも!」


「こ……こいつ、調子に乗るな! それよりもみんな、これからもビシビシいくぞ!

 目指すは、全国大会優勝だっ!」


「おおーっ!!」


 イキイキとした様子で練習を再開する、魔導剣道部員たち。

 これでもう大丈夫だろうと思った俺は、こっそりと道場をあとにした。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



†少年が青春の門を叩いていた、その頃……。

 青春とはほど遠い、ほの暗くどんよりとた室内に、少女たちはいた。


 室内の壁には一面、少年の真写が所狭しと貼られている。

 少女たちは床に描かれた魔法陣の真ん中に立ち、額を付き合わせるようにして、ヒソヒソ話しをしていた。


「ここ数日、毎日のように儀式をやっているというのに、ミカさんは我々の『黒魔術同好会』に入部してくれません……!」


「本当ならとっくの昔に、ミカさんは我々といっしょに……! キャッ!」


「やっぱり、『リモート・アプローチ』では効果が薄いのです。

 儀式はやっぱり、本人を伴った『ダイレクト・アプローチ』でないと……!」


「ええっ、でも我々は、男子と儀式を共にする度胸なんてありません!」


「私なんて男子と目が合っただけで、呼吸困難になるんですよ!

 はぁはぁ言って、気持ち悪いって……!」


「で、ですから……私がやります!」


「ええっ、リュネット部長自らが!?」


「ええ、ここにミカさんを呼び出して、儀式に参加していただき……一気に仲良くなるのです!

 目標は……ずばり、お姫様抱っこですっ!」


「えっ、ええっ!?

 お姫様だっこといえば、我ら暗黒女たちの、死ぬまでにやられたいことベスト3に入る行為ではないですか!」


「い、いきなりベスト3を狙うだなんて、さ、さすがはリュネット部長! 一生ついていきます!」


「ですからおふたりには、儀式を成功させるために協力してほしいのです。

 ミカさんをこの部室に呼び出す作戦は、すでに考えてありますから……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺は道場を出て校舎へと戻る道すがら、黒いローブの人物に声をかけられた。

 彼女は道端に『占い所』なる看板を掲げ、簡素なテーブルと椅子を並べていたのだが、


「ちょっとちょっと、そこのあんた、あんたじゃよ。

 ちょっと面白い相が出ておるから、見てしんぜよう。

 なあに、お代はタダじゃよ」


 その人物はローブのフードを深く被っていた顔はわからなかったが、声からして明らかに女生徒だった。

 わざとらしいほどの年寄り口調は、ミステリアスな雰囲気を狙ってのものなんだろうか。


 俺は占いは信じないほうだが、タダならいいかと思い、見てもらった。

 すると占い師は、


「ううむ……見える、見えるぞ……! お前さんの運命の人が……!

 その人とは、お前さんはすでに出会っておる……!」


「へぇ、その『運命の人』ってのはどんなヤツなんだ?」


「『眼鏡』『黒魔術』『同好会』……!

 この3つの言葉に当てはまる人物が、お前さんの運命の人じゃ……!」


 この時点で占い師の正体はなんとなくわかったが、俺はもう少し付き合ってやることにした。


「へぇ、それならひとり思い当たるヤツがいるな。で、俺はどうするのがいいんだ?」


 すると占い師は、ローブの袖の下から小さな包み紙を取り出し、差し出してきた。

 受け取って中を開いてみると、1枚のクッキーが。


「それはフォーチュンクッキーといって、食すれば運命の人と強力に通じ合えるという、不思議なクッキーじゃ。

 ささ、食べてみるといい」


 俺は勧められるがままにクッキーを口に放り込み、バリバリかみ砕いて飲み干した。


「どうじゃ、お味は?」


「ああ、リュネットの髪と爪と血の味がしておいしかったよ」


 すると占い師は、「ぎっくぅ!?」と面白いほどに取り乱しはじめる。


「お前、黒魔術同好会の部員だろ」


「ななっ、なにを言っておるんじゃ、おぬしはっ!?」


 俺はすかさず手を伸ばし、占い師のローブのフードをめくる。

 すると案の定、それは黒魔術同好会の女子部員だった。


 彼女は日光を浴びた吸血鬼みたいに、顔を手で覆っている。


「はっ、はぁはぁ……! み、ミカさん、どうしてわかったんですか!? はぁはぁ、はぁはぁ……!」


「挙げられたワードがあからさまだったからな。

 それに魔導クッキーの術式を口の中で調べてみたら、儀式の触媒としてリュネットの髪と爪と血が使われていることがことが書いてあった」


「はぁはぁ、さすがはミカさん……! でもクッキーを食べたということは、もう手遅れ……! はぁはぁ、はぁはぁっ……!」


「まったく、こんな所でゲリラ的に黒魔術の実験をするなよな。

 引っかかったのが俺だから良かったものの、他のヤツだったら今頃は、リュネットにベタ惚れだったぞ」


「えっ? ということは……」


「ああ、クッキーの中に仕込まれていた、惚れさせの術式は解除した」


「う、うそっ!? 詠唱もなしで、しかもこの速さで解呪なんてできるわけが……!? はぁはぁっ!」


「とにかく、お前らの部長にも言っといてやらなきゃな、例の部室にいるのか?」


「は……はひっ! リュネット部長でしたら、『黒魔術同好会』でミカさんをお待ちです! はぁはぁ、はぁはぁ……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 『黒魔術同好会』に行ってみると、そこは大掛かりな儀式の真っ最中だった。

 吹き抜けの2階には、ウエディングドレス姿で(はりつけ)になっているリュネットが。


 その足元には、俺が以前この部室に訪れたとき以上に気合いの入った魔法陣が敷かれている。

 部員のひとりが魔法陣の片隅で、邪神をあがめるようにひれ伏していた。


 そして魔法陣の真ん中には、アストラル体らしき青白い何者かが浮かびあがっていた。


 俺は部室に入るなり、土足でズカズカと陣のなかに踏み込んでいく。


「まったく、今まで以上にロクでもな儀式をやってるみたいだな」


 すると、エーテル体が笑った。


「フハハハ……! 生贄の片割れは、ずいぶんイキのいい人間のようだな……!

 さぁ、我の元に跪け……! そして魂の半片を我に差し出すのだ……!

 さすればもうひとりの生贄の女との間に、永遠なる愛を授けてやろう……!」


「いらないよ。っていうかお前、低級悪魔だろ?

 さっさとリュネットを解放しろ。でないと痛い目に遭わせるぞ」


「フハハハ……! 無駄だ! 闇の世界から呼び出されたこの私に、学生風情の魔術など通用せん!」


「お前みたいな低級悪魔に、誰が魔術なんか使うかよ」


 俺はエーテル体のどてっ腹に、思いっきり蹴りをブチこんでやった。

 すると、悪魔は目を剥きだしにしたままブッ倒れた。


「ぐはあっ!? ば、バカなっ!?

 エーテル体である私には、物理攻撃は一切効かないどころか、生身の人間では触れることすらかなわぬはずなのに……!?」


「お前みたいな魂だけ掠め取ってなにもしないようなゲス悪魔なら、田舎にいる頃にたくさん相手にしてきたんだ。

 いいからさっさとリュネットを返せ」


 倒れたところにストンピングの雨を降らせると、悪魔は泣き叫びはじめた。


「うぎゃああっ!? やめろっ、やめてくれぇぇぇ! やめてください、許してくださいぃぃ!」


 とうとういじめられっ子みたいに身体を丸めて許しを請い始める始末。


 頭上では磔になったリュネットが信じられない様子で俺を見下ろしていた。

 まるで俺のほうが悪魔みたいな表情をしている。


「う、うそ……!? 悪魔を降参させるだなんて……!? しかも、足だけで……!?」


 やがてリュネットの拘束は解放され、2階の高さから降ってきた。

 「きゃあああっ!?」と悲鳴をあげながら落ちてくる彼女を、俺は両腕で受け止める。


「まったく、悪魔を呼び出すなんてやりすぎだ。

 それにアイツは人間に悪さをする低級悪魔だったから、ほっといたらこの学院じゅうのヤツらの魂を取られてたとこだぞ。

 そんなに儀式を試す相手が欲しいんだったら、男子生徒から適当に見繕うんじゃなくて、この俺を対象にしろ。

 そしたら最悪の事態は防いでやれると思うから……いいな?」


「は……はいっ……! ミカさん……! ごめんなさい……!

 二度とミカさん以外の男の子には、儀式をしないと誓いますっ……!」


 俺の腕の中にいたリュネットは、眼鏡ごしの瞳をうるうるさせていた。

 まぁ反省しているようだし、今回はこのくらいでの説教で許してやるとするか。



†少年は、知らない……!

 少年の説教は、愛の告白のように、少女に響いていたことも……!


 そして少女の憧れであった、『お姫様抱っこ』……!

 その夢を叶えてあげていることに、まったく気付いていなかった……!

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