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19 風紀委員シスイ

「くそっ、覚えてやがれ! 俺たち『極悪連合(アウト・レギオン)』を敵に回したらどうなるか、たっぷりと思い知らせてやるからな!」


 チンピラたちは実にチンピラらしい捨て台詞を吐き、肩を貸しあって武道場から逃げていった。

 さらわれた女生徒はいつの間にかいなくなっていて、女生徒をさらってきた部員たちは土下座して俺たちに謝った。


 しかしガンバレイは斬首を待つ罪人のように、ずっとうなだれたままだった。


「お……俺様は、最低の男だ……。降格が怖くて、ヤツらを殴ることができなかった……。

 俺は、一族の恥さらしだ……!」


 俺はガンバレイの頭をポンポン叩く。

 こうやってしゃがみこんでいる時でないと、コイツの頭は高すぎて叩けないからな。


「お前は一族の期待の星なんだろう?

 だったらあんな小石みたいなチンピラに躓いている場合じゃない。

 ああいう面倒ごとは、失うものがない俺に任せとけ」


「み、ミカ……! お前はどうしてそんなに、俺様のことを……!」


「お前と出会えたからこそ、俺はこの学院に入れたんだ。

 俺はこの学院で、いろんなヤツに出会えた。

 田舎にいた頃とは比べものにならないくらい『生きがい』のあるヤツらとな。

 そんなヤツらと一緒にいると、俺自身にも『生きがい』ができそうな気がするんだよ。

 もちろんお前もそのひとりだ」


 俺は頭を撫でていた手を拳に変え、ガンバレイに突き出す。


「これからも、よろしくたのむぜ。お前の夢、少しだけ俺にも見させてくれよ」


「あっ、ああ……!」


 ふたつの拳がぶつかる乾いた音が、道場のなかに響いた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 それから俺は他の部活動を見てまわり、夕方頃に学院を出た。

 寮へと続く夕暮れの森のなかを歩いていると、見慣れぬ制服に身を包んだ者たちに取り囲まれた。


「やれやれ、今日は本当によく取り囲まれるな。お前らな何なんだ?」


 すると、一番前にいた少女が前に出る。

 長い黒髪をポニーテールにして結わえ、まるで女武者のように背筋をピシッと伸ばした姿勢。


 顔立ちは美しくも厳しく、真剣のように鋭い眼差しを俺に向けていた。


「拙者は、『センキネル総合魔法学院風紀委員』である、シスイ! お前がミカエルシファーだな!?」


 拙者ときたか、また『生きがい』のありそうなヤツが出てきたな。

 それはさておき、俺は「ああ」と頷き返す


「ミカエルシファーに暴行されたと、魔導空手部の生徒たちより通報があった!

 通報者を治療した保健室の報告によると、『法治3日間』という診断であった!」



†『法治』というのは、法力により治癒魔法を使って完全回復するまでにかかる日数のことである。



「法治3日間といえば、かなりの重症!

 そしてこの学院において、下位ランクの者が上位ランクに暴行した場合は、特に厳罰となる!」



†ちなみにではあるが、被害者より訴えがない、もしくは決闘で起こったことであれば、この学院では罪を問われることはない。

 Aランクのリンカーベルを押し倒したときに風紀委員が来なかったのは、上記ふたちの要件を満たしていたからである。



「よってミカエルシファー! 貴様を風紀委員の名において、この場で粛正するっ!」


 シスイと名乗った風紀委員は、俺をビシッと指さした。

 粛正されてはたまらないので、もちろん言い返す。


「ちょっと待てよ、魔導空手部のヤツらがなんて訴え出たかはしらないが、アイツらは女生徒をさらって乱暴しようとしてたんだ。

 俺はそれを止めるために、ヤツらを軽く傷めつけてやっただけだ。それなのに……」


「学院法規においては、発言の重要性はランクによって決まる!

 最低のFランクである貴様の発言は、この学院では紙よりも軽いと知れ!」


「なんだよそれ、ちょっと調べればどっちが正しいかすぐわかる事なのに、そらすらもしないってことかよ」


「その通り! なぜならば拙者がAランクだからだ!

 Aランクの拙者が調査する時間を思えば、ここで貴様を粛正するほうが合理的だからだ!」


「なるほど。平等に流れている時間すらも、ランクによって価値が違うっていいたいわけだな」


「その通りである! わかったらこれ以上、拙者の時間を無駄にすることをやめ、神妙にするのだ!

 さぁ、跪け! 我が正義の剣による粛正を受けるのだ!」


「やだよ、くだらねぇ」


「……貴様、いまなんと申した?」


「お前の言ってることはくだらなくて、全部間違ってるって言ったんだよ!

 お前と同じ、ひとりの女が理不尽な力で傷つけられようとしてたんだぞ!?

 粛正されるべきは、誰がどう見たってあのチンピラどもじゃないか!

 俺がヤツらを叩きのめしたのは事実だが、ヤツらはそれだけのことをしたんだからな!

 それなのにお前は真実から目を背け、罰しやすい俺だけを罰して終わりにしようとしている!

 そんな小手先のお役所仕事で、なにが正義の剣だ、笑わせるな!」


 すると、シスイの額に稲妻のような青筋が走る。

 腰に下げた木刀を今にも抜きそうだったが、ぐっとこらえると、


「そ……そこまで言うのであれば、その女生徒やらをここに連れてくるのだ。

 襲われた女生徒というのが存在し、かつ貴様の言うとおりの証言をしたのであれば、再調査を行なってやらんでもない」


 なんだ、頭の硬い役人のようなヤツかと思ったのだが、案外話がわかるじゃないか。

 しかし、そう思ったのも束の間であった。


「ただし、貴様に与える時間は10分だ!

 その間に女生徒をここに連れてこられなければ、貴様にはさらに偽証罪を課し、さらに厳罰に処すっ!」


「10分……!? そんなの無理に決まってるじゃないか!」


「ならば観念し、現状の罪での粛正を受け入れよ!

 我らは風紀委員は多忙なる身! たとえ10分でも貴様の一生分の価値があるのだからな!」


 こんな事まで言われてしまっては、引き下がるわけにはいなかった。


「くそっ……! なら、やってやるよ! 10分で女生徒を連れてきてやらぁ!」


「よぉし、ならばこれは『決闘』扱いとする!

 10分の間に女生徒を連れてくることができれば、貴様の勝ちだ!

 もしできなければ、殺されても文句は言えぬ裁きを覚悟するんだな!」


「ああ……いいぜっ!」


 シスイは挑戦的に笑って、魔導スクリーンを開く。

 そこには、10分のカウントダウンタイマーがあった。


 たったの10分で、顔もロクに覚えていない生徒を連れてくる……。

 なかなかタフなミッションになりそうだな、と俺は思った。


 しかし、そうでもなかった。


「それではスタートといくぞ! 走れ走れ走れぇ!」


 とシスイが挑発的に合図をした途端、


 ……ずざざざざーーーっ!!


 『決闘開始!』の魔導スクリーンに突っ込むように、ひとりの女生徒が土下座のポーズで滑り込んできた。

 いかにも純朴そうで地味ないでたちの少女は、まるで代官に訴える村娘のように顔をあげると、


「風紀委員様っ! ミカくんの言っていることは本当なんです!

 ミカくんに助けられなかったら、私は今頃、魔導空手部の人たちに乱暴されていました!」


 女生徒はひれ伏したまま、今度は俺に向きなおる。


「ミカくん、ごめんなさい! ミカくんに助けられたのに、怖くてつい逃げちゃったんです!

 でもそれじゃいけないと思って、ミカくんにお礼を言うために、Fランクの寮に行く途中だったんです!

 そしたら、風紀委員様とミカくんが言い争いをしてて……。

 ミカくん、本当にありがとう! ミカくんがいなかったら、いまごろ私は……うわぁぁぁぁんっ!」


 女生徒はとうとう泣き出してしまう。


 決闘のカウントダウンタイマーは09分59秒で止まっていた。

 まさに秒殺だな。


「そ、そんな、馬鹿な……!」


 愕然とするシスイの前には追い討ちをかけるように、『決闘に敗北しました!』の魔導スクリーンが表示されていた。

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