17 グランドシスター登場
†少年は、まだ知らない……!
己の両親が、世界を七日どころか、瞬きのうちに惑星ごと蒸発させてしまうほどに、憤怒し……!
血眼になって、少年のことを探していることを……!
登校初日の放課後、俺はいくつかの部活を見て回ったのだが、入部にまでは至らなかった。
そして次の日。
掃除のために朝早く登校するのもバカバカしかったので、俺は始業の8時に間に合うようにノンビリ登校した。
Dランク以下の生徒は朝の掃除をしないと昇格できないらしいのだが、俺はそうまでして昇格したいとは思わなかった。
そんなことよりも、今日は朝のホームルームの際、大々的に転入生の紹介がなされた。
教室の教壇の壁には巨大な水晶板があり、授業中はそれを黒板がわりにするのだが、そこに転入生がデカデカと映し出されたんだ。
†魔導スクリーンというのは、小規模なものであれば空中への投影が可能。
しかし魔導スクリーンを皆で見るような大規模なものとしたい場合は、水晶の一枚板を触媒とし、そこに投影するのがこの世界では一般的である。
転入生は純白のドレスに、花嫁のようなヴェールを被っていた。
見た感じどうやら校長室にいるようで、彼女の隣ではこの学院の校長らしき人物が揉み手をしている。
魔導スクリーンから、脂ぎった中年オヤジの声が聞こえてきた。
『今日から我が学院に転入してくださった、グラントシスター・ネイチャン様です!
ネイチャン様はわずか17歳にして大聖女様となられた、偉大なる聖女様です!
ネイチャン様にはSSSランクに就いていただき、全学院の生徒だけでなく、教師陣までもを導いていただきたいと考えております!』
すると、教室じゅうの生徒が「おおーーーっ!?」と驚愕に沸く。
俺は、クラスメイトたちがなにをそんなに驚いているのかわからなかったので、前の席にいる女生徒に尋ねてみた。
「おい、SSSランクってのは、そんなにすごいのか?」
俺の前にある座席の列は、昨日はEランクの男子生徒たちが座っていたのだが、今は女生徒ひとりしか座っていない。
Fランクである俺の列と同じで貸し切り状態だったのだが、振り向いた女生徒はリンカーベルだった。
彼女は、昨日まではAランクたちのグループである最前列に座っていたのに……。
「お前、なんでこんな所に座ってるんだ?」
「どこに座ろうと、私の勝手でしょう」
「それもそうだな。で、SSSランクってのはそんなにすごいのか?」
「当然よ。SSSランクは今までこの学院では、生徒会長ひとりだけだったのよ。
この話だけで、SSSランクがどれだけ凄いかわかるでしょう?」
「ぜんぜんわからん」
俺はさらに尋ねようと思ったのだが、魔導スクリーンからした声に注意を奪われた。
『それではネイチャン様から、一言、お言葉を賜りましょう!』
すると、転入生は静かに頷き、挨拶をはじめた。
『……みなさん、はじめまして、ネイチャンといいます。
学校に通うのは初めてのことですので、不慣れなこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします』
†ヴェールの向こうから紡ぎ出されたその声は、天上の音楽のようであった……!
瞬間、この声を耳にした者すべてが、堕ちるっ……!
男も女も、老いも若きも、動物から微生物、生きとし生けるものすべてが、堕ちてしまった……!
『恋』に……!
教壇に立っていたヤイミはもちろん、リンカーベルをはじめとする、すべての生徒たちの目が、ハートにっ……!
ただ、ひとりの少年を除いて……!
「なんか、苦手なタイプだなぁ」
俺はなんの気なしにつぶやいたのだが、教室じゅうが静まり返っていたので、その声は思ったより響いてしまった。
途端、聞き捨てならんとばかりに、
……ざっ……!
俺の前に座っていたクラスメイト全員が振り向き、俺を睨みつけていた。
舌打ちまでしているヤツもいる。
「チッ、あのFランク野郎、ネイチャン様を悪く言うだなんて……!」
「ネイチャン様の素晴らしさがわからないから、Fランクなんだよ……!」
「許せねぇ……! あとでシメてやろうぜ……!」
「ミカくんってちょっといいなって思ってたけど、見損なったわ!」
「サイテーよね! やっぱりFランクだけあるわね!」
どうやら、俺はいきなりクラス全員を敵に回してしまったようだ。
しかし、魔導スクリーンごしに挨拶しただけでクラス全員を信者同然にするだなんて……。
あのネイチャンとかいうヤツ、ありえないくらいの『カリスマ性質』のようだな……。
しかし、信じられないことはこれだけではなかった。
なんと、魔導スクリーンの向こうにいるネイチャンが、明らかにこっちに向かって話しかけてきたのだ。
『あっ、クラスのみんな、ミカちゃんをいじめちゃいけません。
いまからそっちに行くから、ちゃんと仲良くしていなくちゃダメよ』
ネイチャンはそう言って、校長が止めるのも聞かずにそそくさと校長室を出て行く。
クラスメイトの険しい顔が、サッと驚きに塗り替えられた。
「ええっ!? いま、ネイチャン様が、お言葉をかけてくださらなかったか!?」
「ネイチャン様は校長室におられるはずなのに、なんで離れたこの教室がお見えになっているんだ!?」
「い、いや、そんなことよりも、ミカちゃんっておっしゃられなかった!?」
「ミカちゃんってまさか……!?」
すると、クラスメイトたちはまた、こぞって俺を見ると、
「ま……まさかぁ~~~! そんなことあるわけないよなぁ!」
「ミカちゃんってのは別のお方のことだろう! きっと、SSランクあたりのご学友に違いない!」
「だよな! SSSランクのネイチャン様が、Fランクのことを気に掛けるだなんて、あるわけがないって!」
「もしそんなことがあったら、この惑星もビックリして滅亡しちゃうよ!」
「ミカちゃんとやらがあのFランクのことじゃないなら、ネイチャン様はこのクラスが見えてたわけじゃないってことだよな!」
「なぁんだ、ただの偶然だったってことか!」
クラスメイトたちは納得がいったのか、はっはっはっはっ、と笑いながら前に向き直る。
まったく、なんなんだコイツら、と思っていたら、
……ガラッ!
不意に勢いよく、教室の扉が開いた。
見るとそこには、陽光のような光が差し込んでいて、
……パァァァァァァァァ……!
全身からうっすらとした光輝を放つ、光のローブに身を包んだ女性が現れたんだ……!
「ねねっ、ネイチャンさまぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!?!?!」
この世の終わりのような絶叫をあげるクラスメイトたち。
ネイチャンは大勢の大人たちを従えながら、教室の中に入ってくる。
腰を抜かしていたヤイミは、ネイチャンがそばに来た途端、縮こまるように土下座をしていた。
たったひとりの女性によって、教室じゅうが純白の染まっていた。
クラスメイトたちはもう魂を抜かれたように真っ白になっていた。
ネイチャンは教壇のうえで、座席のほうをきょときょと見回したあと……。
俺のところで、視線を止めた。
そして、
「み……ミカちゃん! 会いたかったわぁ!」
ローブの裾と豊かな胸を振り乱すほどの勢いで走り出し、階段を駆け上がる。
顔にはベールがかかっていたので表情はわからなかったが、感極まった様子であるのは声でわかった。
ネイチャンはそばまで来ると、俺の手を取り、ギュッと握りしめる。
するとついに、世界滅亡クラスの大絶叫がおこった。
「えっ……えええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「なんでなんでなんで、なんでぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「SSSといえば、神にも等しいお方といわれているのにっ!?」
「そんな尊いお方が、なんであんなFランクに会いに来るんだよぉぉぉぉーーーーーーーっ!?!?」
「ありえないっ!? ありえないんざんすぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーっ!?!?
この世は、神も仏もないざんすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
気がつくと、クラスメイト全員が座席から転がり落ち、殺虫剤をかけられた虫みたいに、ピクピクと悶絶していた。




