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15 黒魔術同好会

 もうもうと煙を噴く『ゴーレム・ラブ・テスター』。

 その持ち主であるマリオは、半泣きですがっていた。


「しゅ……!? しゅうううっ!? あっ、ありえないっ……!?

 このテスターは愛情値を10分の1にする仕掛けを施してあるのにっ!?

 10分の1まで下げればどんなゴーレムも必ず『憎悪』のほうに針がふれるのにっ!?

 10分の1にしてもなお『愛情』のほうに針がいくだなんて、ありえなぃぃぃぃっ!?」


 ヤツはショックのあまり、装置の仕掛けをべらべらと喋っていた。

 俺の予想どおり、やっぱりインチキな術式が仕込んであったか。


 ヤツは他の生徒たちから取り囲まれ、「はっ!?」と我に返っていた。


「マリオ、てめぇ……! その装置、インチキだったのかよ……!」


「それで俺たちのゴーレムを、安く買い叩くのが目的だったんだな……!」


「今までよくも騙してくれたな! 許せねぇ、やっちまえっ!」


 よってたかって袋叩きにあるマリオ。

 俺は残りのサンドイッチをまとめて平らげると、ピアを引きつれて学食を出る


 テスターの結果に、ピアは満ち足りた様子だった。


「いかがでしたか、ご主人様! ピアの愛の強さ、おわかりいただけましたか!」


 これにはなぜか、ヘルドランが悔しがっていた。


「うぬぬ……! 我が主を思う気持ちは、我のほうが大きいというのに……!」


「ふふん、こればっかりはヘルちゃんには負けないのです! ピアのご主人様を思う気持ちは、この惑星(ほし)よりも大きいのです!」


 わいわいと言い合うふたりを送り返し、俺は午後の授業に参加する。

 それからあっという間に放課後。


 俺はとくにすることもないので、そのまま寮に帰ろうかと教室を出たのだが、


「わっはっはっはっ、ミカ! お前、部活はやらねぇのかよ!?」


 廊下でガンバレイから呼び止められ、俺は部活というものがあることを思い出す。


「そういうお前は、なにか部に入ろうとしてるのか?」


「ああ! 俺様は格闘系の運動部に入るつもりだ! なにせ力があり余ってしょうがないからな、わっはっはっはっ!」


 ガンバレイは格闘系の部活を見て回ると言って、武道場のあるほうへと走り去っていった。

 俺もどうせヒマだし、部活に入ってみるのもいいかもしれない。


 とりあえず、どんな部活があるか見て回るとするか。

 ちょうど窓の外にはテニスコートがあって、リンカーベルが試合をしていた。


 アイツは『魔導テニス部』に所属しているようだな。

 彼女は華麗なるスマッシュを何度も決め、部員たちの喝采を浴びている。


 さすがだなぁと思って見物していると、テニスコートのはずれにある茂みが、風もないのに揺れているのに気付いた。

 目を凝らしてみると、そこには……。


 魔導望遠レンズつきの、大掛かりな真写(しんしゃ)機を構え、リンカーベルを狙っているゴリブンがいた。

 体育の授業の前に俺が付けてやった魔導スクリーンを、茂みでうまいこと隠してやがる。


 アイツ、まったく反省してないようだな……。


 俺はさらにお灸を据えてやろうと、呪文を詠唱する。

 すると、茂みに隠れるサイズだったヤツの魔導スクリーンが、


 ……ぬぬぬぬっ……!


 と、5倍くらいのサイズに拡大した。

 魔導スクリーンには、ヤツのオールヌードが映っているので、それが白日の元へと晒される。


 テニスコートの女子たちも気づき、指さして叫んでいた。


「ああっ、見て、アレ! ゴリブンのハダカよっ!?」


「ううえっ!? 気持ち悪い!」


「アイツ、また私たちのパンチラを狙ってるんだわ!」


「ひええっ!? なんで気付かれたんでやんすか!?」


 さっそく逃げだそうとするゴリブン。

 俺はさらに呪文を詠唱して、足元の草をヤツの足首に絡めてやった。


 足枷で逃げ遅れたゴリブンは、魔導テニス部の女子たちによって、ラケットでボッコボコ。

 これでヤツも少しは反省することだろう。


 俺はスッキリした気持ちで部活訪問の旅を再開する。

 すると、すれ違いざまに、本をたくさん抱えた女生徒がフラフラと通り過ぎる。


 彼女は、危ないと思う間もなくすっ転んでいた。


「きゃっ!?」


「おい、大丈夫か?」


 俺は彼女の元に飛んでいって助け起こす。

 いっしょになって本を拾ってやった。


 女生徒は三つ編みに眼鏡という、いかにも文学少女といった風情であった。

 運んでいたのはすべて魔導書で、俺はふと開いたページを読み上げる。


「ラブ・ミー・テンダー・アイ・シテ・ルンダー」


 すると女生徒は、眼鏡がずれ落ちんばかりに驚いていた。


「えっ!? あなた、この魔導書が読めるんですか!? 解読書も暗号表も、魔導ルーペもなしに!?」


「ああ、これは『恋する乙女語(メイデラ)』だろ? しかも現代のじゃなくて、かなり古代の体系のやつだな」


「あ、あの、私、りゅりゅりゅ、リュネットといいますっ! あっ、あのっ、その……!」


 リュネットと名乗った女生徒はなにかを言いたそうな様子であったが、頬を染めて「あの、その」を連呼するばかりであった。

 待っていてもラチがあきそうになかったので、


「とにかく、この本の量はひとりじゃ大変だろう。一緒に運んでやるよ」


 俺は魔導書をぜんぶ抱えあげると、モジモジする彼女に案内され、とある教室へと向かう。

 教室の扉には『黒魔術同好会』の札がかけてあり、中に入ると吹き抜けのある、ちょっとした図書館のような場所だった。


 部員は他にもふたりいたが、リュネット以上に地味な女生徒。

 室内には沢山の本と黒魔術グッズの他に、床には術式で埋め尽くされた、カーペットのような羊皮紙が広がっていた。


「なるほど、この魔導書は、床の術式を完成させるための資料だったのか」


「は、はいっ! そ、それであの、あのあのあの……おおっ、お願いがあるのですが……」


 リュネットは部室に入ってから挙動不審だったが、自分のフィールドにいるせいか、少しは照れが和らいだようだった。

 俺が「なんだ?」と問い返すと、部員ふたりが「おお……!」と感嘆の声をあげた。


「す、すごい……! 男子と話をしているだなんて……!」


「さすがは恋の切り込み隊長と怖れられた、リュネット部長……!」


 なんだかよくわからなかったが、しどろもどろのリュネットが言うには、あと少しで床の術式が完成するので、手伝ってほしいとのことだった。


 たったそれだけの事を伝えるだけなのに、リュネットの話はまるで要領を得なかった。

 まるで凶悪犯と人質交渉をしているかのように、汗びっしょりになって、むせるほどに口の中をカラカラにしていた。


 いずれにしてもお安い御用だったので、俺は承諾する。

 床の羊皮紙にある術式のなかで、欠けている箇所をサラサラと羽根ペンで埋めてやった。


 すると、部員たちは腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「え、えええっ!? な、なんで魔導書も見ずに!?」


「ここの術式は、いくら魔導書を読みあさってもわからなかったのに!?」


「欠けてる箇所は特に難しくて、あと2年はかけるつもりだったんですよ!? それなのに、たった10分で……!?」


 俺は最後の一文を書き上げると、やれやれと立ち上がる。


「そんなに複雑な術式でもないだろう。それにここまでできているのであれば、魔導書はいらない。

 前後のつながりを読み解けば、だいたいわかるからな」


 気付くと部員たちは、まるで輝くようなものを見る瞳で、俺を見ていた。


「す、すごい……すごすぎます……!」


「て、天才、です……!」


「あ……ありがとうございます! あの……!」


「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はミカエルシファーだ。ミカって呼んでくれ」


「み……ミカさん、ありがとうございます! これで『運命の人』を暗黒天使様に教えていただけます!」


 部員たちの俺に対する眼差しは、すっかり尊敬のそれであった

 俺はハァと溜息をついて、彼女たちの頭をぽんぽんとやった。


「恋の魔法もいいが、ほどほどにしとけよ。

 運命の人なんてのは天使に決めてもらうものじゃなくて、お前が自身が決めるもんなんだからな」


 すると彼女たちは「ふぁ、ふぁい……」と、熱にうかされたような返事をする。

 顔はすっかり上気しており、瞳はうるうると潤みきっていた。


「どうやら、本当に好きなヤツのことを思いだしたみたいだな。

 ソイツがお前たちの『運命の人』だから、忘れるんじゃないぞ」


 どうやら完全に、恋する乙女になっちまったようだな。

 どこの誰かは知らないが、ここまで想われるなら、ソイツも悪い気はしないだろう。


 ピンクのオーラに包まれ、ほわほわとしている乙女たちに、俺は「じゃあな」と背を向けた。

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