14 ラブ・テスター
俺はまたしても、悪目立ちしてしまったらしい。
「くそっ、もうガマンならねぇ! あんなFランクに好き勝手にされてたまるかよっ!」
いかにもワルぶった男子生徒たちが数人、俺たちの所にどやどやとやって来た。
「おい、Fラン野郎! このラウンジはCランク以上しか利用できねぇんだ! わかったらさっさと出てけ!」
俺は言い返そうとしたが、それよりも早く、
「待ちなさい、あなたたち! このラウンジは全校生徒利用可能なはずよ!」
「り……リンカーベルさんっ!?」
リンカーベルが、俺とワルどもの間に割って入ってきた。
彼女は俺に加勢してくれるのかと思ったのだが、批判的な視線を俺のほうに向けると、
「そんなことよりもミカくん、食べさせっこなんてやめなさい! みっともないでしょう!?」
「リンカーベルさんっ!?」
なんだかよくわからないが、リンカーベルは『食べさせっこ』に苛立っているようだった。
しかしいずれにしても、そんなことを言われる筋合いはない。
「このラウンジは全生徒が利用可能なようだから、俺は出ていくつもりはない。
それに食べさせっこ禁止なんてルールもないだろうから、やめるつもりもないよ」
これにはワルとリンカーベルが同時にいきり立った。
「なんだとぉ!?」「なんですってぇ!?」
「いいか! これはこの学院に昔からある、暗黙のルールなんだよ!」
「そうよ! 人前で食べさせっこするのがダメなんて、いちいち言われなくてもわかることでしょう!? バカップルじゃあるまいし!」
「話がややこしくなるから、リンカーベルさんは黙っててください!」
不意に、ぬうっと人影が現れる。
前髪をワカメみたいに垂らした青白い顔のノッポが、ワルどもを押しのけて俺の席の対面に座った。
なんだかまた話をややこしくしそうなヤツが出てきたな、と俺は思う。
ソイツは、目覚し時計みたいなのをテーブルにドンと置くと、薄気味悪く笑った。
「しゅ、しゅ、しゅ……では、こうしたらいかがかな?
この、『ゴーレム・ラブ・テスター』で、そちらにいるゴーレムの愛情を測るのです」
「何者だ、お前」
「しゅ、しゅ、しゅ……申し遅れました、Fランクくん……。
しゅはマリオと言う、Bランクのゴーレム使いです……」
「そうか、俺はFランクじゃなくてミカエルシファーだ。ミカって呼んでくれ。
で、この『ゴーレム・ラブ・テスター』って?」
「これは我が一族に伝わる魔導装置で、ゴーレムの真の忠誠心や愛情を測る機械……。
うわべだけではわからない、『ゴーレムの本心』を浮かび上がらせるのです……」
マリオと名乗ったひとクセもふたクセもありそうな男は、周囲に向かって同意を求める。
「どうでしょう、みなさん……。
もしここにいるゴーレムの愛が本物であれば、このラウンジの出入りも、食べさせっこも許してあげるというのは……。
なぜならば本物の愛を邪魔することほど、野暮なものはないのですから……。
しゅ、しゅ、しゅ……」
リンカーベルは「なに言ってるのこの人?」みたいな表情をしていた。
しかし他のヤツらは違っていて、
「そ……それはいい! そうしよう!」
「そうだな! テストして本物の愛だったら、このラウンジも、食べさせっこも認めてやろうぜ!」
「みんな、それでいいよな!」
みなは急にひとつになったかのように、話をまとめはじめた。
俺はなんとなく、嫌な予感を覚える。
†そう……!
このマリオという生徒は、有名だったのだ……!
主人とゴーレムの『別れさせ屋』として……!
彼のやり口はこうであった。
ゴーレムを自慢する生徒がいたら、何かと理由をつけて『ゴーレム・ラブ・テスター』を持ちかける。
このテスターは『ゴーレムの本心』を暴き出すというものだが、ゴーレムに真の忠誠心や愛情などあるわけがない。
よってテスターは、心の底では主人を嫌っているような結果を示す。
たとえば『恐怖による忠誠』や『偽りの愛情』など。
それを知った主人は怒り、絶望し、自慢のゴーレムを手放そうとうするだろう。
そこでマリオは、見放されたゴーレムを引き取り、我が物とするのだ……!
彼は内心、こう考えていた。
――しゅ、しゅ、しゅ……。
このピアとかいうゴーレム、神器とさえいわれる幻の陶器でできています。
ゴーレムについては右に出るものがいない、このしゅですら初めて見ました……。
まるで幼女のようなハリと艶を感じさせる、なんと美しい肌なのでしょう……。
それに身体だけでなく、中身も神がかっています……。
しゅも、幾多の幼女ゴーレムを従えていますが……。
こんな、本物の幼女のように振る舞うゴーレムなど、見たことがありません……。
欲しい、なんとしても……。
このピアに比べたら、他のゴーレムなど、ただのデク人形……。
愛したい、なんとしても……
このしゅに愛されることことそが、ゴーレムにとってはいちばんの幸せなのですから……。
しゅ、しゅ、しゅ……!
俺はその手には乗るものかと、ハッと息を吐いた。
「バカバカしい。ピアの愛情を測るだなんて、なんでそんなことをやらなくちゃいけないんだよ」
「しゅ、しゅ、しゅ……。
どうやらミカくんは、怖いようですねぇ……彼女の本心を知ることが……。
いいえ、彼女の心を無理やり自分のものにしていることを、まわりに知られるのが怖いのでしょうねぇ……」
俺は「なんとでも言え」と話を打ち切ろうとしたが、
「や……やりますっ!」
見るとピアは、小さくガッツポーズをして、ワナワナと震えていた。
「ピアのご主人様への愛が本物だというのを、証明してみせるのです!」
「いや、やめとけ。どうせこのテスターとやらには仕掛けがあって、愛情値は出ないようになってるはずだ」
「いいえ、やらせてくださいです、ご主人様!」
ピアの目はメラメラと燃えていた。
あんがいコイツは体育会系というか、ど根性系なのかもしれない。
「……まぁ、そこまで言うなら好きにするといい。
でも低い数値が出ても、ショックを受けるんじゃないぞ」
「低い数値など、出るわけがないのです! だってピアのご主人様への愛は、青天井なのですから!」
「しゅ、しゅ、しゅ……。それではさっそくやってみましょうか……。
主人であるミカくんは左にある青い電極を、ピアさんは右にある赤い電極を、それぞれ口に咥えてください。」
『ゴーレム・ラブ・テスター』には2本の青と赤のワイヤーが出ていて、先端には金属になっている。
ピアは意気込んで赤い電極を口にしていたので、俺もしょうがなく青い電極を口に運んだ。
途端、周囲の固唾を飲む音が、
……ごくりっ!
と響き、すべての視線がテスターの表示に集中する。
テスターは左右に振れるメーターのようになっていて、左側が『愛情』、右側が『憎悪』となっている。
メーターの針は右側にしか行っていないのか、右側の文字盤だけが擦れて見えなくなっていた。
しかし俺たちの計測を始めた途端、針は未知の領域に突入する。
メーターの針は磁石に反発するように、ピンクのハートが描かれた『愛情ゾーン』に、ぐんっ、と飛び込む。
針はいちばん左端まで到達してもなお、限界の扉を叩くようにプルプルと震えている。
テスターの上に魔導スクリーンが浮かび上がり。
『ゴーレムであるピアが、主人であるミカエルシファーに感じている愛情は、
+582,564
我が身を犠牲にしても惜しくないほどの、究極の愛です』
周囲から、驚愕が噴出する。
「ぷぷっ、プラス58万んんん~~~っ!?」
「あのテスターって、今までマイナスしか出なかったはずなのに!?」
「しかも、まだまだ数値が上がってるぞ!?」
「俺のときなんて、マイナス10万だったんだぞ!? それでゴーレムを捨てたんだ!」
「う、うそだろっ!? Fランクがこんなに好かれるだなんて!?」
「しかもこんなに可愛いゴーレムにっ!? ありえねぇっ!? ありえねぇ~~~~~っ!?!?」
みなの困惑っぷりがテスターにも移ってしまったのか、
……どばふーーーんっ!
装置の隙間という隙間から煙を噴き、それっきり動かなくなった。
「面白い!」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から、ぜひ応援をお願いします!




