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13 メイドゴーレムとお弁当

 しばらくして、俺とリンカーベルを包んでいた薔薇の嵐が収まり、それとほぼ同時に授業の終了を知らせる鐘が鳴った。


 俺の目の前には、『決闘に勝利しました!』という魔導スクリーン。

 そのスクリーン越しには、引きつった顔のフローレンスが。


 よほどショックなことでもあったのか、ちょっと見ない間に白髪交じりになっている。


 フローレンスのそばには『決闘に敗北しました!』という魔導スクリーンがあるのだが、それには目もくれていない。

 ヤツはしばらくの間、衝撃と困惑の入り交じった表情でプルプルと震えていたが、


「きょ……今日だけは特別に、夢の続きを見させてあげよう。

 幸せの青い鳥も、時には枯れ枝に翼を休めることもあるだろうからね。

 しかし最後は大空に還るのさ、このフローレンスという名の大空にね。

 そして忘れないことだ、Fランクくん。

 このフローレンスの背後には『金持ち連盟(セレブ・アライアンス)』がいることを」


 よくわからない捨て台詞を残し、俺たちの前からさっさと去っていった。


 そして俺にしがみついていたリンカーベルは、急に夢から醒めたように、


「ちょ、いつまで抱きついてんの、いやらしい! まったく、次にこんなことをしたら許さないわよ!」


 俺を突き飛ばし、プリプリと怒りながら去っていった。


 ひとりとり残された俺は、思わずつぶやく。


「なんだったんだ、いったい……」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 午前の授業が終わり、昼休みになった。

 クラスメイトたちは昼食を取るため外に出たり、学食に行ったりしている。


 そういえば俺は弁当を持ってきていなかった。

 学食に行こうにも1クレジットも持っていない。


 しょうがないので寮まで帰ってなにか食べようと思い、校舎を出る。

 すると遠くのほうに、頭にヘルドランを乗せたピアがいて、きょろきょろとあたりを見回していた。


 ピアは俺に気付くと、電球が灯ったようにパッと顔を明るくして、


「あっ! ご主人様っ!」


 まるで犬のしっぽみたいに、ぶんぶんと手を振ってきた。

 そして、ぱたぱたと駆け寄ってくる。


 それは今朝別れたばかりだというのに、まるで戦争から帰ってきた主人に久々に再会した愛犬のようであった。


「ご主人様っ! ご主人様ぁぁぁぁ~~~っ!!」


 艶のある黒髪が、エナメルホワイトのボディが、陽光を受けて輝く。


 それはまるで羽根のない妖精のような美しさであった。

 道ゆく生徒たちが、誰もが立ち止まって見とれるほどの。


「な、なんだ、あのメイドゴーレム……!?」


「あんな美しいゴーレム、初めて見た……!」


「きれい……! まるで高級なお人形さんみたい……!」


「それも声も仕草も、めちゃくちゃ可愛いくない……!?」


「しかも、動きも人間みたいにしなやかで、繊細だ……!」


「あれに比べたら俺のメイドゴーレムなんて、ゴミみたいなもんじゃねぇか……!」


 一部のお坊ちゃん生徒は、昼休みになるとメイドやメイドゴーレムを付き添わせている者もいる。

 それは彼らにとっては自慢の種のようだったが、ピアを前にした途端、己のメイドやメイドゴーレムと見比べて、溜息をついていた。


 ピアは俺の前まで走り来ると、大事そうに抱えていた風呂敷包みを、まるで生まれたばかりの赤ちゃんを見せるかのように俺に向けた。


「ご主人様、お待たせいたしました、お弁当をお持ちしましたのです!」


「わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとうな」


「いえ、本当でしたらお家を出る前にお渡しするべきだったのです! ごめんなさいなのです!」


 ぺこぺこ頭を下げるピア。


「いいって。それよりも腹が減ったからさっそく食べよう。お前も一緒に来るか?」


「よろしいのですか!? はい! ぜひともお供させていただきたいのです!」


 嬉しくてたまらないといった様子のピアを尻目に、俺は魔導スクリーンを開く。

 学院案内にある見取り図から、弁当を食べるのに良さそうな場所を探す。


 すると、校舎の中には学食が2箇所あることに気付いた。


 1階にある学食と、50階にある学食だ。

 校舎は100階建てなのだが、一般の生徒は50階までしか立ち入ることを許されていない。


 しかし、50階の高さともなるとかなり見晴らしがいいに違いない。

 興味が出てきた俺は、この上のほうにある学食に行ってみることにした。


 ピアを引きつれ、エントランスにある魔導昇降機から50階へと向かう。

 するとそこは、広々としたラウンジだった。


 外側はすべてガラス張りで、パノラマで学院の敷地どころか、魔導都市センキネルまでもが見渡せる。

 まさに絶景といえるスポットだった。


 俺は適当に窓際の空いている席を選んで腰掛ける。

 すると隣にピアがちょこんと座り、弁当を広げはじめた。


「はい、ご主人様! あーんしてくださいです!」


 俺の口元に、パンの耳で作ったサンドイッチを差し出してくる。


「いや、自分で食うからいいよ」


 するとピアは、捨てられた仔犬のような顔になって、


「そ、そんな……! ピアはこうやってご主人様のお世話をさせていただくことが、夢だったのです!」


 ピアの頭にはヘルドランが乗っているのだが、今までは穏者のように無言を貫いていたヤツがぎしぎしと動き出す。


「我からもお願い申しあぐる……。我が主よ、この小さき者の小さな願い、叶えてやってはくださいませぬか……!」


「ヘルちゃん! ピアはたしかにちっちゃいですけど、ヘルちゃんよりはおっきいです!」


「我のこの姿は、かりそめでしかない……。真の姿はこの建物くらいの大きさがあるのだぞ……!」


「うわぁ、そうなのですか!?

 ご主人様、おっきい人の言うことは聞くべきだと、ピアは思うのです!

 本当はおっきいヘルちゃんが、こういってくれているのです!」


「わかったわかった、それじゃあ今日だけだぞ、ほら、あーん」


 俺はしょうがなく大口を開いて、ピアの手からサンドイッチを食べる。

 しかしふと、周囲の視線がすべて俺たちに集まっていることに気付いた。


 まわりの生徒たちは、驚愕と嫉妬が入り交じったような表情をしている。


「アイツ、噂のFランクだろ!?」


「マジかよ、なんでFランク風情があんなかわいいゴーレムを連れてるんだよ!?」


「しかもお世話を命令されてじゃなく、自主的にやるんだなんて、まるで人間みたいじゃないか……!」


「とんでもなく複雑なアストラル体が内蔵されてるに違いないない!」


「くそっ、俺のメイドゴーレムは買ったばかりの最新で、しかも最高級品だぞ!?

 それなのになんでこんなにブサイクで、動きもギクシャクしてんだよ!?」


 そりゃしょうがないだろう。

 ピアは人間のアストラル体を使ったゴーレムなんだから。


 いちから術式を使ってアストラル体を作っている、普通のゴーレムとは比べものになるはずがない。

 思考の賢さから感情表現の豊かさ、動きの細やかさからちょっとした仕草に至るまで、なにもかもが段違いなのは当然だ。


 俺の向かいの席には、最新で最高級のゴーレムを連れていた男子生徒が座っていた。

 彼は負けてられるかといった表情で、ゴーレムに命令を下す。


「おい、俺にも食べさせてくれ!」


「カシコマリマシタ、ゴシュジンサマ、ドウゾ」


「うぐぐっ!? 無理やり口に詰めこもうとするんじゃない!? それに、まだ食ってる途中だろうが!」


 そのとき俺はちょうど、最初のサンドイッチを飲み下していた。

 横から、少し緊張気味の声がする。


「い……いかがですか? ご主人様?」


 見ると、ピアが不安そうな上目遣いで、俺をじっと見つめていた。


「材料は残り物ですけど、ご主人様のために、心を込めて作らせていただいたのです」


「ああ、おいしいよ」


 すると、ピアはパァァ……と光が差したような笑顔を浮かべる。


「よ……良かったです! まだまだたくさんありますから、いっぱい召し上がってくださいです!」


 それはあまりにも純粋(ピュア)で、嘘偽りない心からの笑顔であった。

 まわりのヤツらはガマンできなくなったのか、


「うっ……! うらやましぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 とうとう絶叫とともに、頭を抱えて悶絶しはじめた。

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