10 盗撮魔を成敗
ヤイミはタンカに乗せられて、保健室へと運ばれていった。
そこでちょうどチャイムが鳴って授業終了。
俺にとっての初めての授業はなかなか楽しかった。
学校っていうのも悪くないもんだなぁ、なんて思っていると、
「ちょっと、授業は真面目に受けないとダメでしょう!」
と、なぜかリンカーベルが絡んできた。
「俺としては真面目にやったつもりだったんだが」
「ウソばっかり! 私のときみたいに、なにかトリックを使って宝箱を開けたんでしょう!?」
「いや、普通に『解錠』を使って開けたよ。プロテクトの術式があまりにも単純だったから……」
「あんな一瞬で解錠できる魔法なんて、この世にあるわけないでしょう!
いいこと!? 今度真面目にやらなかったら、クラスメイトとして許しませんからねっ!」
リンカーベルは一方的に言いつけると、ぷりぷりと教室を出て行った。
他のクラスメイトも教室から出ていたので何かと思ったら、次は体育の授業らしい。
俺も男子生徒たちのあとに続き、更衣室に向かっていると、
「ちょっと話があるでやんす」
コビット族の男子から声をかけられた。
†『コビット族』というのはこの世界における種族のひとつで、大人になっても子供くらいの大きさにしかならない小柄な身体つきが特徴。
その見た目どおり、足が速くすばしっこいという特性を持っている。
ソイツはスキンヘッドに吊り上がった目、大きな鼻をしていて、パッと見はまるでモンスターのゴブリンみたいだった。
「なんだ?」と用件を尋ねると、
「ここじゃあ話せないことなんで、こっちに来るでやんす」
と俺の腕を掴んで引っ張るので、しょうがなくついていった。
ゴブリン生徒はいったん外に出ると校舎沿いの壁に沿って進み、通用口のような扉の前で止まった。
そしてヤツは、馴れ馴れしい口調で俺を肘で突いてくる。
「さっきの授業でのイタズラ、なかなか痛快だったでやんす。
お前は解錠のマジックアイテムを使って、あの宝箱を解錠したでやんしょ?」
またその話か、と俺は半ば呆れていた。
「あの程度のプロテクトにマジックアイテムなんか使うわけがないだろう」
「またまたぁ、あっしはそのマジックアイテムに用があるでやんすよ。
おっと、その前に、あっしはゴリブンって言うざんす」
「名前までゴブリンっぽいな」
「ん? なにか言ったでやんすか?」
「いや、なんでもない。俺はミカエルシファーだ。ミカでいい」
「じゃあミカ、解錠のマジックアイテムを使って、この扉を開けるでやんすよ」
ゴリブンは通用口の扉を忌々しそうに叩いた。
「この先に行きたいんでやんすが、強固な施錠がされてて困ってたでやんすよ。
でもさっきの宝箱が解錠できるほどのマジックアイテムがあれば、この扉もなんとかできるかもしれないでやんす。
開けてくれたらもちろん、お礼はさせてもらうでやんすよ」
「なんだ、それでこんな所まで連れてきたってわけか」
ゴリブンは見るからに胡散臭そうなヤツであったが、困っているクラスメイトなら助けるべきだろう。
俺はそう思い、通用口の扉に手を当てた。
すると、脳内にプロテクトの術式が流れ込んでくる。
思わず、俺は眉をしかめていた。
……うーん、授業で開けた宝箱ほどじゃないけど、コレもかなり稚拙な術式だなぁ……。
これじゃ紙で作った鎖みたいなもんだ。
何重にグルグル巻きにしたところで、1秒もかからずに引きちぎれるだろう。
もしかして、この国のプロテクト技術はかなり遅れてるのか?
まぁ、なんでもいいか。
俺が軽く喉を鳴らしただけで、
……カチャッ。
扉のロックは、その手薄さに相応しい、軽妙な音とともに外れた。
「開いたぞ」と扉をカラカラと引くと、ゴリブンはガッツポーズを取る。
「や……やったでやんす! 『夢への扉』がついに開いたでやんす!
いやあ、助かったでやんす! この学園に入ってずっと開けようとしてたでやんすけど、まったく歯が立たなかったでやんす!
マジックアイテムは高価すぎて買えなかったでやんすけど、ミカが持っていて良かったでやんす!
特別に、ミカをあっしの手下にしてやるでやんす!」
「手下? それは遠慮しとくよ。普通にクラスメイトとして仲良くしてくれればそれでいい。
ところで、この先って何があるんだ?」
「何って、『女子更衣室』に決まってるでやんす! ヒヒヒヒ!」
ゴリブンは下卑た笑いをたてながら、懐から何かを取り出した。
それは真写機だった。
†真写機というのはマジックアイテムの一種。
ボタンを押すだけで、風景を記録する『真写』の魔法を使えるのだ。
別の世界のもので例えるなら、『デジタルカメラ』と呼ばれるものに近い。
「その真写機で、なにを撮るつもりなんだ?」
「ヒヒヒ! 真写機で撮るものといったら、ひとつしかないでやんす!」
俺が解錠した通用口の先には短い廊下があって、その先の扉には『女子更衣室 裏口 開放厳禁!』と札が下がっていた。
その扉にはいそいそと近づこうとするゴリブンの肩を、俺はむんずと掴んだ。
「おい、まさか女子の着替えを盗み撮りするつもりじゃないだろうな?」
「なにを寝ぼけたことを言っているでやんすか!
女子更衣室と真写機は、パンとバターの関係でやんすよ!」
「ちょっと、ソイツを見せてみろ」
俺はゴリブンの手から真写機をひったくる。
「ああっ!? 見たいなら、あとでゆっくり見せてやるでやんす!
早くしないと、女子の着替えが終わってしまうんでやんす!」
ゴリブンの抗議を無視して真写機を操作してみると、下着姿の女子の画像がたくさん入っていた。
それどころか、スカートを下から盗撮した画像まである。
俺は真写機から顔をあげると、せいいっぱいの侮蔑の視線をゴリブンに投げつけた。
「最低だな、お前……。もうこんなことな二度とするな。この真写機は、俺があずかっておく」
「なっ!? なんだとぉ!? テメェ、なにいい子ぶってるでやんすか!?
それにこのアッシにたてつくとは、いい度胸でやんす! 思い知らせやるでやんす! キエエエエ!」
奇声とともに飛びかかってきたゴリブンを軽くかわし、俺は軽く呪文を詠唱した。
するとゴリブンの頭上に、魔導スクリーンが出現する。
そこには、ゴリブンの全裸の、自撮り画像が……!
「はっ!? なっ、なんなんでやんすか、これっ!?」
「この真写機のなかにあったお前のヌードを投影してやったんだ。
これで、撮られた者たちの気持ちも少しはわかっただろう?」
「ううっ! こ、この魔導スクリーン、どこまでもついてくるでやんすっ!?」
「当然だ。そのスクリーンのオーナーはお前自身なんだからな」
「他人の魔導スクリーンを勝手に使うだなんて、そんなことできるわけがないでやんす!
し、しかも、なにをやっても消せないだなんて……!?」
「24時間後に消えるようにしておいた。それまでは生まれたままの自分と向き合って、反省するんだな」
「そんな気持ちの悪いこと、してたまるでやんすかあっ! 消すでやんす! でないとあっしも本気で……!」
またしても挑みかかってこようとするゴリブン。
しかし、更衣室の裏口がカラカラ開いた途端、
「きっ……キェェェェェェェーーーーーッ!? あ、あっしは知らないでやんすぅ~っ!!」
脊髄反射のような反応速度で、どこかに逃げ去ってしまった。
女子更衣室からは、まだ着替えをしていないクラスの女子たちがわらわらと出てくる。
「ゴリブンのやつったら、まぁた性懲りもなく……!」
「まったく、アイツは女の敵ね!」
女子たちはみな怒り心頭だった。
どうやら、ゴリブンは盗撮の常習犯らしい。
女子たちはその流れのまま、俺を取り囲む。
そして、さっきまでの形相がウソのような笑顔を俺にくれた。
「扉ごしに、話は聞いてたよ! Fランクくん、ゴリブンのヤツを止めてくれてたよね!」
「低ランクの男子ってロクでもないヤツばっかだけど、Fランクくんはそうじゃないみたい!」
「授業の時もそうだったけど、なんかFランクくんって他の男子と違うよね!」
「あたし低ランクの男子はお断りなんだけど、Fランクくんだったら仲良くしてあげてもいいかな!」
チヤホヤされて悪い気はしなかったが、これだけは忘れずに言っておいた。
「俺はミカエルシファーだ。これからはミカって呼んでくれ」




