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01 父は魔神で母は女神、幼なじみはお姫様

 我が子には百の言葉よりも、ひとふりの剣を与えよ。


 オヤジとオフクロはそう言って、15歳になったばかりの俺に剣を授けてくれた。

 といっても本物(フィジカル)な剣ではなく、刺青(タトゥー)の剣。


 俺の左手の甲から右手の甲にかけて、剣の意匠のタトゥーを施してくれたんだ。


 この剣は『アカシャ』といって、この万物のすべての理を知る剣。

 アカシャの言葉が聞き取れるようになれば、光の世界と闇の世界、すべてを統べることができるという。



†そう……!

 このアカシャの言霊を耳にできた者は、すべてを統べる……!

 しかしこの少年にはまだ、聞こえてはいない……!


 そして少年は、まだ知らない……!

 彼の父親は人間のフリをしているが、その正体は闇の世界を統べる『魔神』であることを……!


 しかも母親は、光の世界……!

 人間たちの世界を統べる、『女神』であることも……!



 俺のオヤジは人間とは思えないほどゴツくて、顔は地獄の覇者のように怖い。

 怒ったときなんか、口から毒を吐いているのが見えるほどの恐ろしさ。


 俺は肉親だからなんともないけど、近所の人たちはみなひと睨みで失禁していた。


 そしてオフクロは人間とは思えないほどに綺麗だった。

 全身がほんのりとした光に包まれていて、笑うとパアッと後光が差すんだ。


 俺は肉親だからなんともないけど、近所の人たちはみなオフクロに恋していた。


 そんなオヤジとオフクロは、俺にタトゥーを授けた後、1年間の新婚旅行に出かけていった。

 ふたりが結婚してすぐ俺が生まれたので、新婚旅行に行けなかったらしい。


 同時に俺はオヤジとオフクロがやっている商売、『魔法屋』を受け継いだ。

 これはこの国、ボーツラクス王国で唯一の魔法施設で、困っている人々を魔法で助けるというものだった。


 俺は幼少の頃から『魔神語(ヤイヴァ)』と呼ばれる魔術をオヤジから叩き込まれてきた。

 オヤジとオフクロが旅行に出かけたあとは、その魔術を使って魔法屋をやって暮らしていたんだけど……。


 この頃から俺は、自分の人生について思い悩むようになった。


 魔法屋で人の役に立つのはやりがいのある仕事だったけど、このままでいいのかと。

 自分では何もなし得ないまま稼業を継いで、田舎の小国で老いていく人生で、果たしていいのかと。


 そんな悶々とした日々を過ごす俺に、事件は起こった。

 それはちょうど、オヤジとオフクロが新婚旅行に出かけてから、ちょうど1ヶ月が過ぎた日のこと。



 ……どがっ、しゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!!



 早朝、俺は爆音とともにベットから放り出されていた。

 何事かと思ったが、ドワーフ族のヤツらが大きな金槌を手に、よってたかって俺の家を破壊していたんだ。


「……なっ!? なんだお前らはっ!? やめろっ! やめろぉぉぉぉーーーーっ!!」


 慌てて止めようとする俺を、高笑いが遮った。


「だーっはっはっはっはっはっはっ!」


 見るとそこには、瓦礫の山の上に立ち、哄笑するプーパリンがいた。

 プーパリンはボーツラクス王国のお姫様で、俺とは同い年。


 俺の魔法屋はこの国唯一の魔法施設だったので、王族とはオヤジの代からもよく絡んできた。

 国を襲う厄災や疫病を、過去幾度となくオヤジとオフクロが解決してきたんだ。


 そしてこのお姫様は俺のことをオモチャかなにかと思っているらしく、俺を幼い頃から事あるごとに呼びつけては無理難題を押しつけてきた。

 「この屏風の虎を捕らえてみせるのだ!」とか「この橋を渡らずに、お城に入ってみせるのだ!」とか。


 しかしコイツはついに、俺の家にまで押しかけてきやがった。

 俺はキレそうになるのをぐっとこらえ、彼女に向かって叫ぶ。


「プーパリン様! なにをしているんですか!?」


「だーっはっはっはっ! ついに我が国にも、『魔法団』が導入されることとなったのだ!」



†魔法団というのは、魔法を使う者たちで構成された集団のこと。

 主に王室に所属し、国の有事の際にその力を行使する。

 いわば、魔法を操る軍隊のようなものである……!



「だーっはっはっはっ! しかも全員が高級魔法を操るという、『高級魔法団』なのだ!

 そうなれば、どこの馬の骨ともわからない魔法屋など、もはや用済みなのだ!」


「だ……だからって、家を壊すことはないでしょう!?」


「この土地には『高級魔法団』の駐屯地を作ることになったのだ!

 この土地はそもそも、我が国から貸し与えていた地!

 それをどうしようと、余の勝手なのだ!

 さぁさぁ、とっととこの土地から出ていくのだ! だーっはっはっはっ!」


 その瞬間、俺の中で何かがキレた。

 張りつめていた糸というか、思いつめていた糸というか、そんなのが。


 プーパリンは瓦礫の上から俺を指さしていた。


「だーっはっはっはっ! でも、余も鬼ではないのだ!

 ミカエルシファー! いいえ、この際ですから余も皆と同じように『ミカ』と呼ばせてもらうのだ!」



†少年は知らない……!

 お姫様は少年のことを、『名前呼び』から『愛称呼び』に変更すると宣言したが、これが彼女にとってどれほどの勇気を必要としていたのかを……!



「ミカ! そなたがどうしてもというのであれば、特別に、余の『高級魔法団』に入れてあげるのだ!

 ただし、一番下の下働きとしてなのだ!

 余に一生の忠誠を誓うというのであれば、特別に飼ってあげなくもないのだ!」



†そう……!

 このお姫様は、度を超えた『ツンデレ』……!

 彼女はミカを手に入れたいがあまり、このような暴挙に出ていたのだ……!



「さぁ、跪くのだ! いいえ、四つ足になるだ! そして余の犬になると誓うのだ!」



†あまりといえばあまりにも、不器用すぎるプロポーズ……!

 少年は一生を左右するほどの、運命の選択を迫られてしまった……!

 その決断や、いかに……!?



「いや、出ていくよ」


 俺はそう告げると、お姫様に背を向けて歩き出す。

 途中、瓦礫に埋もれていたリュックを引っ張りだして背負う。


 背後からは、「えっ」と虚を突かれたような声が。


「ちょっ……!? で、出ていくって、どういうことなのだ!?」


「お前がそう言ったんじゃないか」


「おっ!? お前っ!? ぶっ、無礼者っ! この余を、お前呼ばわりなど!」


「とにかく俺は出ていくよ、いままで世話になったな」


「あっ! わかったのだ! さては、別の場所で魔法屋をやるつもりなのだな!?

 でも、そうはいかないのだ!

 なぜならば余が、営業許可を出してあげないからなのだ! だーっはっはっはっ!」


「いや、俺はこの国からも出ていくつもりだ」


 俺が背を向けたままそう言うと、お姫様は「ええっ!?」と悲鳴じみた声をあげた。


「そ、そんな……! いっ……今ならまだ、許してあげるのだ!

 謝ったら、許してあげるのだ! で……でないと、そなたをもう飼ってあげないのだ!

 も……もしかして、怒っているのか?」


「いや、お前には感謝してるよ。だって、クヨクヨ悩んでた俺の背中を押してくれたんだからな

 じゃあ、元気でな」


「まっ……待つのだ! 待つのだぁっ!」


 俺が歩き出すと、お姫様の声はどんどん小さくなっていく。

 どんがらがっしゃんと、瓦礫の下から転げおちる音がした。


「ミカがよその国でやっていけるわけがないのだ!

 あとで失敗して泣きついてきても、もう知らないのだっ!

 ばっ……ばかあっ! ミカのばかぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

† から始まる文は、主人公のタトゥーである『アカシャ』の声です。

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