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怒りと嘆きの獣道  作者: 龍崎 明
序章 イジュラの森
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第七話 獣に平穏はない

 意気揚々と森にやって来た冒険者の男。ラユジの街、期待の新星クウである。


 スピアディアーと呼ばれるE級の鹿型魔物を討伐し、角を採取する依頼を受けた彼は、森の奥を目指した。


 好戦的なワイルドボアを斬り伏せつつ、浅いところを抜け、あっちにフラフラこっちにフラフラと、今度はオークをぶった斬って進んでいく。


 やがて、目的のスピアディアーを見つけた。


 スピアディアーは、角が槍のように、鋭利で硬い鹿である。そのクセ、臆病な草食動物のイメージのままの性格であり、人類の武器に加工されるほどの立派な角は使わず仕舞いで逃げ去ってしまうことが多い。だからといって、侮ってはいけない。逃げられないとみるや、群れの中での喧嘩で鍛えた角捌きを披露する。それは大変優れており、生半可な戦士では太刀打ちできないのである。


 しかし、クウは現在、下級職の剣士でありながら、能力平均400超えとD級下位に匹敵する能力を身につけおり、余裕のある戦いで三匹のスピアディアーを狩り、規定量の角を採取したのだった。


 その帰り道、彼はオークの群れとワイルドウルフの群れの抗争に遭遇した。

 これが通常の冒険者だったなら、要らぬ戦いを避けて通ったことだろう。しかし、彼は異常だった。


「経験値の足しにするか」


 まず、逃げられると厄介なワイルドウルフを斬りつけた。


「キャイン!?」


 急な襲撃に無防備に傷を負う一匹の狼の悲鳴に、その場にいる残りの()()は、オークを牽制しながらも、そちらに視線を向けた。

 その様子は、クウから見て、奇妙なものだった。好戦的で知られ、仲間思いな性質を持つワイルドウルフたちがどこか逃げ腰の姿勢を見せているのである。


 はて、最近、冒険者が取り逃がして、人間への警戒心を高めた群れなのだろうか?


「まぁ、いいか」


 考えてもわかないことは、放置する。クウの処世術でもあった。

 クウは、まず、傷をつけたワイルドウルフにトドメを刺そうと剣を振り上げる。ゴブリンや、今もオークを相手に狩りをしていたワイルドウルフである当然、それが攻撃の予備動作であることを察して、三匹のうちの一匹が、それを止めようと飛び掛かった。

 それと同時に、森中に鳴り響く遠吠え。残り二匹が揃って、吠えていた。その様子にクウはどうやら、まだ、仲間がいるようだ、と頭の隅で考えた。


 飛び掛かってきた一匹を迎え撃ち、あっさりと斬り捨てた。

 遂に、逃げの態勢に入った残り二匹を視界の端に捉え、ダンと踏み込んだ。逃げ損なった二匹も脚に傷を受け、走ることはおろか、歩くこともままならなかった。


 急転した展開に追いつかない馬鹿なオークも斬り伏せて、一匹一匹、ゆっくりとトドメを刺して行った。


 ……


 意気揚々と一匹で歩いている狼がいた。


 俺である。きょうだいたちがレベルをカンストさせ、それなりの強さを得たので、俺ときょうだいで別れて行動し、狩りの効率を上げることにしたのだ。


 今のところ、戦果は上々。俺より強い剣士らしき人間を見たのが、少し不安だったが、人間を見たら逃げるように言い含めてあるので、きっと大丈夫だ。


 そろそろ、巣に戻ろうかという頃だったと思う。


 アオォォォォオーーーン!!!


 森中に響いたその遠吠えは、きょうだいのものだった。内容は「ワレ テキ ソウグウ キケン」とかその辺りだった。

 頭を過ったのは、当然、今日、見つけたあの人間だ。


 俺はあらゆるチカラを振り絞り、遠吠えの元へと疾駆した。


 辿り着いた時には、可愛い妹にトドメが刺されるところだった。


『お兄ちゃ、ん……』


 他のきょうだいはすでに、死んでいた。オークの死体もある。


 あぁ、狩りに夢中で気付かなかったんだな。


 脳が勝手に、その情報を拾ってきた。

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