第五話 はじめての
進化から数日。猪や鹿を中心に狩りをして、生活した。俺たちのレベルは5になり、俺の能力平均は170となり、きょうだいたちは60となった。
『お兄ちゃん、今日は何、狩るの?』
ワイルドウルフとなり、明確な意思を伝えられるようになったきょうだいに問われる。ちなみに、こいつは雌だ。きょうだいの男女比は俺含めて、3対2となっている。
『今日は、猪にするか』
『えぇ〜、私、鹿肉が良い!』
『いいや、ゴブリンを狩ろうぜ!』
『……ゴブリンは不味いだろ、兄貴』
俺が二番目の可愛い妹にそう答えれば、一番目の美人な妹が鹿肉を所望し、一番目の馬鹿な弟が馬鹿なことを言い、それにツッコミを入れる二番目の冷静な弟。賑やかだなぁ。
ん?なんだこの匂い?
『兄さん、これ血の匂いじゃない?』
と言ってきたのは、冷静な弟。
『うおぉ!弱った獲物だ!今日は、楽ができるぜ!!』
と馬鹿な弟が言うので、前脚で抑えつける。
『待て、少し、匂いが違う。確かめには、行くが、狩るかどうかは後で決める、わかったな』
『わかったぜ、アニキ』
『『はーい』』『はい、兄さん』
【隠密】を発動させて、皆で匂いの元に駆ける。
茂みに身を隠し、匂いの元の様子を恐る恐る伺った。
!?
『なんだ、あれ?でっかいゴブリンか?』
『違うと思う。だって、臭くないもん』
『なんでしょう、変わった毛皮です』
『お兄ちゃん、あれ狩るのー?』
きょうだいたちが、それぞれに反応を示す。俺は慌てて、指示を出した。
『離れるぞ、あれは狩らない。旨味がない』
『?不味いの?』
『やっぱり、でっかいゴブリンなんだろ』
『急げ』
きょうだいたちの危機感のない会話に、少しイラつく俺の指示に従い、この場を静かに離れるきょうだいたち。俺はもう一度だけ、鉄の匂いの元に振り返り、その場を走り去った。
……
巣穴まで戻り、一息つく。
『お前ら、この先、ああいった奴がいた場合は、逃げるか、隠れるかしろ』
『えー、あれそんなに強いの?』
『アニキらしくないぜ、アニキならどんな奴にも負けないだろ』
『兄さん、どういうことですか?』
『あいつらは、群れる。それも、俺たちよりもたくさんだ』
『たくさん?でも、さっき見たのは、1匹だったよ』
『別れて行動してるだけだ。群れの規模はあの大きさで、蟻んこと同じだと思え。しかも、奴らはチカラの強弱にばらつきがあって、仲間思いだ。弱い奴を倒したら、強い奴が襲いに来る』
『蟻んこみたいに、一杯!!』
『嘘だぁー』
『アニキ、おかしいぜ』
冷静な弟以外は、冗談半分に聞いているところがある。仕方ない。
「ガァアア!!」
【咆哮】によって威圧し、念を押す。
『奴らに近づくな!』
『わ、わかったー』
『そ、そんなに怒らなくても』
『うっ、わかったぜ』
『わかりました』
『奴らに出会わないよう、しばらく、狩場を森の奥にする』
『そこまで……』
そうだ。冷静な弟の呟きに、心の中で返答する。あれはどれだけ警戒しても足りない。一つの世界の支配者に成り上がった生命体。俺はあいつらを前世で嫌というほど知っている。何せ、俺もその一人だった。最弱にして、最凶とでも言えば、良いのか。
関わらないのが、賢明なんだ。人間には。