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怒りと嘆きの獣道  作者: 龍崎 明
第一章 従魔の街
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第十三話 ギルドマスター

 ギルドの二階は、職員用の区画らしく、廊下が続いていた。いくつか扉があり、案内されたのは、一番奥であった。


「マスター、急用です。入ってよろしいでしょうか?」


「アリカか、あぁ、入れ」


 覇気のある声で返答があった。アリカは扉を開き、俺たちの入室を促した。


「し、失礼します……」


「ん?」


 登場したのが、ブランカだったことに少し首を捻ったガタイの良い初老の男。しかし、後から入ってきたアリカを見て、一人納得したのか、手に持っていた書類を机に置き、こちらに向き直る。


「それで、どういった用件かな?」


 なるべく友好的な様子を見せようとしたのだろうが、獰猛な笑みにしか見えない。ブランカも少し、怯えた様子を見せた。


「マスター、まず、紹介を」


「ん?あ、あぁ、そうだな。俺は、ここ冒険者ギルド、テイマニア支部のギルドマスター、アンガスだ。よろしく」


「よ、よろしくお願いします。私はブランカです」


『俺は、ルピナスだ』


「!……ほぉ」


 俺が言葉を発したことに、驚愕と感心を示すアンガス。だが、それ以上の反応はなかった。


「それで、マスター。ブランカ様は、登録希望の方なのですが、天職が聖女でした」


「何?!」


「また、ルピナス様には、私が自由騎士であることがバレていました」


「え、マジ?」


 反応が軽い。完全に、気の良いオッチャンだ。


「なぁ、ルピナス。お前、どうやってアリカが自由騎士だと知った?」


『ただで、教えると思うか』


「うっ、まぁ、そうだな。しかし、聖女か……普通は、教会に報告するんだが……」


『そのことで来たに決まっているだろう』


「だよなぁ、ハァ」


 俺の言葉に溜息をつくアンガス。


 自由騎士は、称号スキルで知ったのだ。ギルド子飼いの戦力といったところだ。守秘義務なんかも、普通の受付よりかは、厳しいだろうし、それで彼女を選んだ。


『ブランカを教会で軟禁させるなんてのは、許さんぞ』


「いや、人聞きの悪いこと言わんでくれ。そりゃ、多少、不自由だろうが、それなりに良い暮らしができるんだぜ?」


『孤独を代償にな。権力闘争の道具にだってされるはずだ』


「獣のくせに」

 

 アンガスは苦々しい顔で、そう吐き捨てた。


「それで、ルピナス様はどのような対応をお望みで?」


 話の進まないことに苛ついたのか、アリカがアンガスに変わって問い掛けてくる。

 チラッと、流れに身を任せているブランカの様子を伺う。俺とアンガスの会話で、聖女の不利を悟ったのか、少し不安げだ。いや、元々だったか?


『……普通の冒険者として活動したい』


「まぁ、そうだろうな」

「それをギルドが、援助するメリットは?」


 ……これ、ギルドの経営は実質、アリカが行っているのか?


『冒険者は、仕事の関係上、怪我が絶えないはずだ。聖女のブランカは、それこそ、治療のスペシャリスト。匿う価値はあるはずだ。それに』


「それに?」


『あんたたちは、本来、あらゆる権威から独立した組織。それは教会とて例外ではないはずだ』


 俺の返答に、複雑な表情をするアンガスとアリカ。先に口を開いたのは、アンガスだった。


「ハァ、お前ホントに獣か。ホント、どこでそんな知識を得たんだよ。わかった。治療依頼を優先的に受けてもらうことを条件に、当ギルドでブランカくんを匿おう。ギルドの公式記録には、修道士(モンク)あたりで登録しておく」


「マスター」


「アリカ、これは決定だ。なに、バレなければ良いんだ、バレなければ」


「……わかりました」


 アリカも渋々頷き、俺たちはなんとか冒険者としての身分を手に入れることができたようだ。


『話のわかるやつで良かったよ』


「えっと、ありがとうございます?」


 ブランカが、自分に有利な話に纏まったことを理解したのか、疑問符を付けながらもお礼を言った。


 ……


 ルピナスとブランカの去ったギルドマスターの一室。そこには、未だアリカが(とど)まっていた。


「本当に、よろしかったのですか、マスター」


「あぁ、教会には報告しない。あの魔獣、ルピナスとか言ったか。あいつはヤバい。一見して、D級のユニコーンウルフだが、ユニコーンウルフは尻尾まで黒い毛並みをしているはずで、尾が赫かったりはしない。何よりあの大きさはおかしい。ユニコーンウルフの一つ上の種族でも、あの大きさじゃない。下手に刺激すれば、最悪、国を滅ぼすかもしれん」


「それは……!鑑定士を呼んで、確認すべきことでは?!」


「だから、下手に刺激するわけにはいかないんだ。お前を自由騎士と見抜いたのだって、自由騎士の存在を知っていて、お前の実力を見抜いた可能性と、スキルを見ることのできる存在で、称号スキルから知った可能性がある。前者なら、良いが、後者なら」


「転生者の可能性がある」


「そうだ。異界人たちは、転移者だろうと転生者だろうと、この世界にとって、厄介の種だ。うまく誘導すれば、薬になるが、扱い方を間違えれば、毒どころか、爆弾になる代物なんだからな」


「わかりました。マスターの判断に従います。それでは、失礼します」


 アリカが退室する。

 

「どうか平穏でありますように」


 アンガスはそう呟き、また書類の山へと向かい合うのだった。


 ……


『なるほど』


「どうしたの、ルピナス」


『いや、なんでもない』


 俺は、アンガスとアリカの会話を聞くために仕込んだ【風魔術】をそっと解除した。

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