第十二話 冒険者ギルド
入門に際しては、割とあっけなかった。ブランカを村から出てきた娘、俺を小さい頃からの友と紹介すれば、入街税と、門衛の好意で貰った首輪を俺が着けることで、南門からすんなりと街に入ることができた。
なお、門衛とのやり取りをしたのは、ブランカだ。俺は悪目立ちを避けるため、黙り。【自動翻訳】が意識すれば、対象を選べることに気付いてからは、ブランカのみに絞って、会話するようにした。
俺たちがまず向かったのは、冒険者ギルドである。俺が目指すのは、ヘルヘブン大山脈であり、それに付き添う以上はブランカもまた、旅をするということである。路銀を稼ぐにちょうど良いのは、街規模の集落には、必ず設置されている冒険者ギルドの一員となるのが、ブランカとの相談で達した結論だった。
しかし、従魔の街と言われるだけのことはある。道を歩けば、その三分の一は、従魔連れの人で溢れかえっていた。多くは、俺のような犬系や猫系で、次いで、鳥系、鹿系、猪系、熊系。時たま、爬虫類や蟲系を連れる俺からすれば、変わり者の人や、ひどく珍しかったのは、小柄ながらも竜種を連れた人がいることだった。
見ていて、とても面白いのだが、ほとんどの従魔が俺に萎縮した様子を見せ、その竜種も萎縮してしまっていた。主人は、めっちゃ困惑していた。
通りの地面は、踏み固められた土で、おそらく、裸足の従魔に配慮してのことだろう。市場は、食料品店が目立ったが、従魔の餌による需要だろうか。
門衛の話によれば、冒険者ギルドは街の東区にあるらしく、治安の悪い場所を避けるルートを教えてもらっていた。ブランカが、市場で若干の目移りをして、ゆっくり歩いていたが、やがて、武装した人が多くなり、従魔もそれなりに肝の座った魔物になってくる。
「ルピナス……」
『大丈夫だ』
大通りであり、ケンカがあちこちで起こっているわけでもないが、雰囲気に呑まれたブランカが不安げに俺を呼んだ。
治安の良いところでこれか。冒険者ギルドのほとんどが郊外や専用の区画に設置されるわけだ。他にあるのは、宿屋や武具屋など。裏に回れば、奴隷商もあるのかもしれない。
やがて、デカデカと剣と盾と杖の描かれた看板を掲げる木造の大きな建物が見えてきた。看板の特徴からして、あれが冒険者ギルドだろう。周囲の建物は、石造、木造混じってあるので、この辺りでは好みの問題で建つのかもしれない。
出入りが激しいためか、西部劇でよく見るようなスイングドア。俺が先に入ってもおかしいので、ブランカがおずおずと、扉を軋ませ、まず中に入っていく。それに続き、俺も入る。
まず、感じられるのは、鉄と血と汗と酒精の混じった何とも言えない臭い。魔獣の俺も、獣人であるブランカからしても、顔を顰めずにはいられない代物だった。
中は、木造カウンターの受付と相談場所としての役割があるのだろう酒場。俺みたいな異界人が伝えたのか、植物性の紙が貼られた掲示板。およそ、イメージ通りの空間が広がっていた。
酒場に屯っていた連中の注目を集めたものの、俺の登場に、顔を顰めて、自分たちの雑談に戻った。
不安げなブランカをチラッと見て、受付を観察。一人の受付嬢に目を付けて、歩き出す。
『行くぞ』
「ま、待って、ルピナス」
俺の呼びかけに、そう返しながら、ブランカが小走りに俺に並ぶ。
受付嬢の前に行けば、彼女はにっこりと笑みを浮かべて、口を開いた。
「本日は、どうされましたか?」
「あ、あの登録をお願いします」
「わかりました。では、まず、当ギルドの説明を行わせていただきますね」
「はい、お願いします」
受付嬢の話を要約すれば、こうだ。
主な依頼は、採取系、討伐系、護衛系、調査系の四つ。ギルドは、これらの依頼を円滑に斡旋し、冒険者は交渉など諸々を省くかたちで依頼内容だけの達成により報酬を得る。その報酬から斡旋料を取ることで、ギルドの財源としている。
実力や信頼性に応じて、冒険者はGからSまでのランク付けが行われている。
冒険者同士の諍いについて、ギルドは中立。ギルドの責任は、ギルドで斡旋した依頼のみにある。
「それでは、こちらの水晶にどちらか一方のお手をお願いします」
説明を終えて、受付嬢がカウンター下から水晶を取り出す。ブランカが、それに迷うことなく、手を置いた。
「これは……!」
驚愕を露わにする受付嬢。だが、その反応は抑えられており、周囲に注目されるほどではない。
「少々、お待ちください。上の者と相談したきことができました」
『待て』
一見、落ち着いた様子で、席を外そうする受付嬢を呼び止める。
「えっ?」
流石に、素の表情を見せて、困惑した。
「今のは……」
『俺だ』
「……どうなさいましたか?」
ブランカの方を向いたまま、問い掛ける受付嬢。ブランカは、戸惑っているが、俺の行動に口を挟む様子はない。
『相談したいことというのは、ブランカの天職についてだろう。自由騎士アリカ殿』
「……はい、その通りです」
『俺たちも連れて行け』
「それは……」
『できないのなら、この街を去るだけだ』
「わかりました。こちらです」
受付嬢の案内に従い、俺たちはギルドの二階へと案内された。
それに注目する者は何人かいたが、それでもこれは必要なことだろう。ここで動かなければ、もっと大きな事態になりかねない。