閑話 ブランカ
本日、連続投稿。前話は、第十話。
私の名は、ブランカ。狼の獣人で、白い髪と真っ赤な瞳をしていた。
小さな村に産まれた。両親は、私をとても愛してくれていた、そのはずだ。
「えい!」「こっちくるな!」「不幸が移る!」「死ね!」
村の子供たちに、石を投げられて、過ごした。
私の母は、私を産んですぐに死んだ。正確には、私の姿を見て、「生きて」と、ただ、それだけを言い残して死んだらしい。それでも、お父さんは、一人で、私が物心つくまで、育ててくれたし、物心ついてからも、しばらくは一緒に暮らした。
ある日、お父さんが帰って来なかった。狩りで死んだのだと、村長さんから聞かされた。村長の息子さんを庇ったらしい。村長さんは、閉鎖的な村では珍しく、優しい人だった。でも、その奥さんは、村のみんなと同じで閉鎖的で、一緒には、暮らさなかった。私は、自分の家で一人、村長さんに助けられながら、生きた。
村長の息子さんも、たぶん、優しかった。お話ししたことはなかったけど、ある時、子供たちの石投げがぱったりと止んだ。
こっそり子供たちのお話しを盗み聞きすれば、息子さんに、石投げて、呪われたらどうする?とかそんな感じで脅されたらしい。たぶん、せめて、私を傷つけないようにと誘導したんだ。そう思うことにした。そっちの方が幸せだし。
ある年、村を飢饉が襲った。今度は、村中の大人たちが私を原因だと、糾弾した。子供たちの石投げも再開されてしまった。
村長さんは悲しそうな目をしていた。息子さんは俯いていて、分からなかった。
ある時、村長さんが言った。
「この村にいても、辛いことばかりだろう。できるだけの準備をするから、村を出ないかい?」
村長さんのせめてもの、優しさだったんだろう。だから、私は言った。
「私を売って良いよ。飢饉だもん、しょうがないよ」
私のその言葉に、村長さんが泣いた。必死に、説得してくれたけど、お外で生きていく自信がなかった。
私は、両親の形見である何の価値もない木の指輪だけを持って、村を訪れた奴隷商に売られた。
奴隷商は、外れの人だった。劣悪な環境の檻で過ごした。指輪も、没収された。私の目の前で、火にくべられた。
割とすぐに、私は売れた。冒険者の二人組の男だった。何に使われるんだろうか?
性奴隷だった。外れの人だ。檻にいた時点でもう、ほとんど心を閉ざしていた私は、最初のうちは嫌がったもののすぐに、反応を示さなくなった。それで、彼らは、理不尽に私を殴るようにもなった。無反応が面白くないらしい。
ある日、男たちが拠点を移動するということで、外に出た。街道を歩き、まともに食事していない私の歩幅に合わせたせいで、道程が遅れたと殴られた。
暗くなってきたので、男たちが野営の準備もそこそこに、申し訳程度の私の服を剥ぎ取り、犯し出した。
こんなところで、無警戒にしてたら、獣に襲われるんじゃないか?
そんなことが過ったところだった。
「ガァアアアア!!!」
咆哮が聞こえ、二人の男が吹き飛ばされた。
「「ひっ!?」」
怯えた様子を見せる男たち。
バンッ!と力強く、地面を叩く音がした。
「あぁ!!化け物ぉ!!」
「いやだ、死にたかねぇ!!」
男たちは、私を置いてあっさりと逃げてしまった。下半身丸出しだ。
どうやら、私は獣に喰い殺されるらしい。その獣は、金色の角をした大きな狼だった。
狼は、黒い瞳で私をジッと見ている。しばらくして、バキンッと私に嵌められていた隷属の首輪が割れた。
「あっ……」
思わず、声が漏れた。
『今日から自由だ。好きに生きろ』
狼はそれだけ言って、背を向けた。
〈忍耐の臨界を確認〉
「えっ?」
困惑した。そして、咄嗟にこんなことを言った。
「待って!」
意外なほど、大きな声が出た。
『なんだ?』
狼は振り向いて、問い掛けてくれた。
「私も連れて行って」
はっきりとそう言った。そうだ。一人でなんて、生きていけない。言葉が通じる。知能の高い獣だ。交渉ができる。私は、今まで生きてきて一番、頭を回転させた。
「わ、私と一緒なら、人間の街も利用できるわ。安全な寝床と野生では食べられない美味しい食事だって。その、えっと……」
意外とスラスラと言葉が出た。
「なんなら、性処理も……」
でも、獣にとっての利点って少ない。困った私は、咄嗟に先ほどのことを思い出し、そんなことを言った。
『クッ……』
「く?」
『クッ、あはははは!獣に対して、性処理!こいつは傑作だ!あはははは!』
「な、なっ!そんなに笑わなくたって良いじゃない!あなたくらい、知能が高ければ、そういうのもあるかと思っただけよ!!」
狼は、私の言葉を笑った。それはもう、思いっきり。私は、流石に恥ずかしくなって、そっぽを向いた。
『あぁ、悪かったよ、悪かった。やりたいことも思いつかない可哀想なお前を連れて行ってやる』
「ホント!」
『もちろんだ。だが、獣の世界では、白き子は、基本的には捨てられてしまうんだが、人の世界では違うのか?』
「えっ?」
狼はあっさりと同行を許可してくれた。けれど、それに続けての言葉に私は、頭が真っ白になった。
『お前は、さっきお前を連れて行く利点を挙げたが、それはお前が人の街を普通に利用できればの話だろう?それに、獣人は差別されていると聞いているが?』
獣人差別、どこで知ったのかしら?でも、一昔前に消えたはずよね。この狼、長生きなのかな。
「……獣人差別は、ひと昔前に消えたわ。そ、それに、大きな街なら、私でも大丈夫よ。運が悪かったの。閉鎖的な村に産まれて、両親を早くに亡くした私は、村が飢饉に見舞われた時、真っ先に売られたわ」
思考を取り戻して、咄嗟に言った。
『そうか。じゃあ、そこに転がっている男どもの荷物から使えそうな物を持て、そしたら出発だ』
「えっ?」
『なんだ、付いてくるんじゃなかったのか?』
「い、いえ、もちろん、付いていくわ。待ってて」
私は慌てて、荷物を纏め始めた。
さっきのは、純粋な疑問だったのかな?
私は狼をこっそり、伺った。お座りの姿勢で、呑気に首を掻いていた。